3章⑨
「お~い!ミケ~!ミケ~!」
なんとなく入った人通りの少ない路地で、とにかくその子の名前を呼んでみる。だが、声はただ虚しく響くばかりだ。
とりあえず最後に目撃されたのは孤児院だということで一応その周辺から当たってみているんだけど、あれから恐らく20分ぐらい経っても全く手掛かりは無い。毛の一本だって見つかってはいなかった。
「ふぅ……」
ちょっと喉が疲れてきたので一度落ち着く。全くアテの無い捜索は中々に精神力を削った。しかも、タイムリミットがあるかもしれないとなれば猶更だ。だから休んでないでもっと探さなきゃいけない、って……。
いやいや。そりゃ普通に探したらムズいに決まってるじゃん!?今まで全然頭使ってなかった!聖女様がなんのために俺に頼んだんだよ!俺、そういえば冒険者じゃん!その技術を見込まれて頼まれたんじゃないのか!ようやく気付きました。
「っ……」
そこで一番に思い出すのは、斥候の技能だった。ベア……トリクスさんから教えてもらったやつ。え~っと、彼女はなんて言ってたっけ。思い出せ思い出せ。
そうだ。まず必要なのは集中。五感を働かせ、どんな手がかりも見過ごさないようにすること。とはいえ周辺に必ず手掛かりがあるわけではない。だからまずそのさらに足がかりとなる何かを見つけることが先決だ。
「あっ!」
そうなると、俺のチートスキルが役に立つはず!なんかいいの無いかなんかいいの無いか――
あった!とりあえず薬生成で色んな感覚を強化する。全部液体なので一本一本飲んでいくとお腹がパンパンになるけど気にしてる場合じゃない!で、とりあえず一回孤児院に行こう!それで猫ちゃんの何か貰って匂いを辿っていこう。走り始めながら速度強化にポイントを振る。結果なんかめちゃくちゃ早く走れるようになります。
というわけではい。あっという間に孤児院へ到着です。でも、いや待てよ?そういえばもっとめちゃくちゃ便利そうなスキルあった気がする……。
アッそうだ千里眼だよ千里眼!目自体に望遠と透視機能を追加するやつ!これでどこか高い所に昇って探せば良くないか?とはいえ、猫ちゃんが向かった大体の方向は絞れた方がいいよな。そのため元の考え通り中に居た保母さんから猫ちゃんお気に入りらしいブランケットを借りる。ちなみに先ほど捜索開始するにあたって挨拶はしておいた。なので快く渡してもらえる。
そして、意気揚々と外へ出たところだった。
「あれ、バン、さん?」
「すいませ……へ?」
ちょうど玄関で人と鉢合わせる。ぶつかりそうになったのですぐさま謝るが、聞こえてくるのは俺の名前を呼ぶ声だ。なので顔を上げる。
「て、テトラ、さん?」
するとそこには、肩ぐらいまで金髪を伸ばした眼鏡の、薄い顔立ちの美少女、テトラさんが居た。着ている普段着らしいチュニックはベアトリクスさんと同じものだ。たぶんだけどお揃いなのかもしれない。ふと考えないようにしていた彼女の事を思い出しちょっと気まずくなる。
ちなみにここの所で彼女から俺への敬語は外れています。相変わらず俺からは彼女ら二人に対してなんか外せてないんだけどね。女の子に馴れ馴れしく?話すのってなんか恥ずかしくて。
「えと、どうしてここに?何か用でも……」
「あ、えっと、ちょっとすいませんっ!急がないといけない用事が……って」
だが、そんなことしてる場合じゃないのを思い出す。ここに立ち寄ったのは、より効率よく猫探しをするためだ。偶然パーティメンバーと会ったからって世間話に花を咲かせてる場合じゃ――って、あれ?彼女、そもそもなんでここに来たんだろう?もしかしてここの関係者だったりするか?
「テトラさんこそどうしてここに?」
「あ、えっと、私は休みの日とかにちょっとここのお手伝いをさせて貰っててね」
「なるほど」
予想は当たっていた。へ~そんなボランティアしてるんだ。偉いなぁ。ていうかベアトリクスさんは一緒じゃないんだな。……いや。もしかして昨日ので落ち込んでたまたま来てないとかかな。だとしたらめちゃくちゃ気まずいので聞くのはやめとこう。
「それでバンさんは?」
「あぁ俺は、居なくなったここの猫ちゃんの捜索を頼まれてて」
「えっ!?あの子、居なくなっちゃったの?」
幸いな事に、それについて訊ねられることは無かった。なのでほっとしながら質問へ答えると彼女は派手に驚く。よっぽど大切にされていた子なんだろうな。
「あ、あぁ、はい。えぇと、ほらこれ、このブランケット、見覚え無いですか?」
「え、うん。でもなんでそれをバンさんが?もしかしてワンちゃんにでも探してもらうとか……」
「あ~えっと、俺、人より嗅覚が鋭いので、匂いで探せないかと思って。それで孤児院の人から借りて……」
「あ~……うん。なるほど。大体理解した」
事情を話せばすぐさま協力したいと申し出てくれる。いや~理解が早くて助かるな。
でも、彼女と二人か。ちょっと気まずくなったりしたらどうしようとか思ってしまう。やっぱりパーティとして何度も一緒に戦ってるから前ほど喋れないわけじゃないんだけど、それでもオーリーが居る時居ない時じゃ雲泥の差なんだよね。あと、何より今はベアさんの事もある。ちょっと今は考えたくない。
「ね、じゃあ私も手伝うよ。私、感覚強化の魔法使えるから」
「へ。あ、あぁ、助かります」
とはいえ俺が申し出を断れるはずもなかった。それに、素早く見つけたいならバフは重ね掛けした方が良いだろう。だから無下にする理由も無い。
というわけで二人一緒になって捜索を始めたんだけど……。




