3章⑦
え!?そうなの!?じゃ、じゃあアタシじゃなくても良かったってことなの!?イヤっ!そんなぁっ!と冗談っぽく受け止めているんですが、でも、結構キますね。
いや、ちょっとどころかむしろ、かなりキてるかもしれない。ぶん殴られたような感覚で全身が貫かれている。なんだか現実感が無い。
ただ、聞いたのはこっちだし今更止めるわけにもいかない気がやっぱりする。あと気まずくするのもだめだ。
「いや、ここまで来たら逆に気になります。続けてください」
「う、うん。そこまで言うならまぁ……」
だから続けて聞く。というかそれが一度聞き始めた俺の義務じゃないか?って思った。なんだかさっきの答えで自分がすごくびっくりしているような気がするけど。
でも、あれ?俺、なんでこんなに驚いてるんだ?なんでこんなにダメージを食らってるんだ?口から反射的に言葉が出て行ってるんだけど、なんだか自分の意識とは別で動いてるような違和感がある。変だ。「都合が良かった」と言われてからなんかおかしい。
「一番の理由は、二人がかなり強そうだったから。あたしがテトラを守りたいってこともあるし、できるだけ強い人と組みたかったんだよね。でもなんだかんだあたしたちもギルドに登録して実績も無かったから、組めるのは初心者しかいなくて」
「はい」
「で、人間関係もこじれたりしなそうだった。キミの隣に居たオーリーとはこういう関係にならないって確信があったからね」
「あ~確かにそうですね」
その言葉の意味合いが告げられていく。実際の所、別にそこへ悪意があるわけでは無かった。むしろサキュバスであるベアさんにとって、パーティ選びとはとてつもなく大変な事なのだろうと推察できる。その大変な条件に合致したということを、恐らく「都合が良い」と表現したのだろう。
だってオーリーのような例外はあれど、種族の特性としてかなり誰彼構わず人を誘惑してしまうようだからね。ナンパされてる所とか結構見た。となれば何も考えずパーティを組んだら、人当たりが良い彼女の事だからやたらに好かれすぎて、やがて色恋沙汰で崩壊させかねない気がする。本人にその意志があろうとなかろうと。まぁ無いだろうけど。
さらに大切な大切なテトラさんの存在もあるとなれば、軽々しく組む相手を選ぶことなどできなかったのだ。そもそも冒険者として信頼できなければならないし、異性と組むのであれば人としてどれだけ信頼できるかもきっと重要になる。
だからソレは、好意的な意味を持っていると理解できる。ありがたいとすら思ってくれているかもしれない。
「それに、バンくんの顔も結構好みだったの。だからこの人とならえっちできるな~って思って。あと童貞みたいだから、あたしがしたいようなえっちもさせてもらえそうだし」
「へっ」
「あ、サキュバスって見るだけで相手が大体童貞か分かるんだよね。それで分かったってだけ。見た目はそんなに童貞っぽくないよ、バンくん」
「なるほど」
さらに、そういうことをする相手、つまり俺を選んだ理由だって好意的だ。
顔がタイプって言われたのは嬉しいね。まぁ「普通の顔の加護」があるんだけど。あと見るからに童貞っぽいって思われてるわけじゃなかったのも安心。まぁでもこれも「清潔感の加護」のおかげだったりするか?
というわけで、やっぱり彼女にマジで悪意は無いようだった。利用するというよりかは、やはり条件に合致した、と言う方が正しいようだ。だからな~んだ早とちりして損したぜ、と思いたいところだったけど、結局俺の心は、そうなってはくれなかった。
「それとあたしさ、サキュバスだからかめちゃくちゃえっちにこだわりあるんだよね。んで、あんまり人に手出しされたくないの。すっごく気持ちよくするから、その分あたしの好きなようにやらせてほしい。そうなると経験が無い人って都合良いんだよね。少なくとも最初はあたしが好きな事やらせてもらえるし」
「そ、そうなん、ですね」
だって、同時に気付くことがあったからだ。それは、要するに俺が良かったというより、どちらかと言えば俺の持っている属性が良かったってこと。しかも「ちょうど良かった」。グッドというよりベター。最高というより最良。つまり同じかそれ以上に条件を満たす相手が他に居れば、今からでもそちらへ移る可能性があるって解釈してしまった。
とはいえベアさんのことだから、今更俺にそんなひどいことをする気なんてそうそう無いだろう。というかそもそもより良い条件の相手なんて滅多に居ないはずだ。オーリーみたいな存在とセットじゃなきゃいけないわけだし。
でも、可能性があるというだけで嫌な思考が始まってしまった。別に俺は彼女の特別じゃなかったんだって思うだけで、途端に激しい人間不信がぶり返してきた。これまで短くとも濃すぎる日々で結構深い関係を築いてきたのに、彼女を信じきれなかった。
「っていうのを諸々含めて、都合が……って、ごめんね。バンくん本人にこんなこと言っちゃって。やっぱり嫌だった、よね?ほんとごめん。話すべきじゃなかった、かも」
「……」
いや、だってちゃんと考えれば分かったことだろ、って自分の中の誰かが告げている。そりゃ俺みたいなやつ率先して選ばないよ、って違う自分の一部がそれに頷く。だって、前世で誰からも愛されなかったもんな。
え?じゃあそうなのだとしたら、やっぱり都合が悪くなったら捨てられてしまうのだろうか。良い子にしていないと、もしくは良い子にしていても、やっぱりまたいつか要らない存在になってしまうのだろうか。あんなに良くしてくれた彼女にとってすらいずれ。
そういえば両親だって最初は優しかった。でも、彼らは自分たちの都合だけで俺を要らないモノにした。じゃあベアさんもきっといつか俺がどれだけ努力しようと、彼女自身の都合でそうしてくるかもしれないんじゃないか。
何故か少し裏切られたというような気分にさえなってしまう。そんなこと本気で思ってないはずなのに。でも勝手に期待したのは俺の方じゃん、と追い討つような囁きが聞こえてくる。
いやいや。「都合がいい」って表現に縛られすぎだろ。ベアさんがそんな人をポイ捨てするような悪い人に見えるか?やっぱり違うだろ。じゃなきゃこんな親身になってくれたりしないはずだ。特訓したいって言った時「ふ~ん。そっか」で終わらせられたはずだ。それをしなかったのは、彼女が良い人だから。優しい人だから。ほら、今だって俺の様子がおかしいことに気付いてくれている。嬉しいな。それだけ普段から俺を見てくれてるってことだよね。
「バンくん?」
「へ?あ、え、はい」
でも、そんな人にとってすら自分は要らなくなってしまうのでは、という想像が脳裏にべっとりとへばりついて取れない。だってやっぱり、前世で誰からも愛されなかったから。
嫌に冷静な頭が理解する。これはきっとトラウマを抉られて辛くなっているだけだ。両親や前世によって切り裂かれた場所が開いているだけ。たまたまそうなってしまっただけ。それこそそう、偶然俺のこうなる条件が、都合よく合致してしまったにすぎない。だから彼女は関係ないはず。
だというのに、傷はひどく痛む。聞こえてくる声が耳を通り抜けていく。全身に力が入らない。あるいは極度の緊張状態となり、ぎこちなくしか動かせない。
そしてそれをもたらしたのは他でもない「ベアトリクスさん」だ。もちろん故意ではない。結局禁忌の扉を開いた原因は俺だし、むしろ責任の殆どはこっちにあるはず。だからお門違いだと頭ではいくらでも分かっている。ただ考えとは裏腹に心が高い高い壁を作っていく。あれだけ薄くするのに時間が掛かったはずだけど、厚くなるのは意外なくらい一瞬だった。
その事実で自己嫌悪にさえ陥る。結局自分が最低な人間だから誰からも愛されなかったのだと思ってしまう。辛いのに思考は止まらない。延々と自らを傷つけ続ける。
「あの、大丈夫?ほんとごめんね」
「あぁいえ、大丈夫ですよ。はい。全然」
「……」
ほら。自分のせいで彼女を傷つけた。短慮で、身勝手で、経験の浅さで。だから自分は人と関わるべきではなかったのだ。だから、転生だってやめておけばよかったのだ。あの時永遠の眠りに就くことを選んでさえいれば、こんなことにはならなかった。
せめてものフォローにとなんとか言葉を紡ぐが、効果は無いことが見て取れる。やっぱり、とまたどこかから聞こえてくる。
もちろんそんな状態で、勉強が手につくはずも無かった。だから結局、すぐ解散することになった。
そして、その結果奇しくも今日は、彼女と特訓しだしてから最初のえっちしなかった日となったのでした。
来週完結予定です。




