表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔法設計士  ― この世界の魔法、全部バグってます  作者: 有松
第5章 迷宮深層 ― 世界の源へ
48/52

第48話 迷宮の入口


「帆も櫂も無いのに進むのか」

「不思議な船だな」


甲板の上でイリスがアリソンに話しかける。


「重力魔法の推進力を船底に分散させて動かしてる」


「そ、そうか……」


ミレイアの操る大型船は安定した速度でセレネ河を西へ進んでいた。

やがて川幅が狭まり流れが変わる。

ミレイアが前方を見ながら言った。


「ここからノルム支流に入るから、流れがきつくなるよ」


「いよいよ上流だな」


川の合流点。

船はゆっくりと北へ進路を変えた。

そして視界の先に町が見えてくる。


船着き場が並び、人の往来が見える。


「……あれは?」


ターニャが前方を指さす。


「交易町ルードンだ」

「北へ向かう連中の拠点になる場所だな」


船を岸につけ、一行は町へ入った。

武装した冒険者。

魔道具を運ぶ商人。

王都とはどこか空気が違う。

ターニャがグラムベルクに耳打ちする。


「ちょっと物騒な雰囲気よね…」


「ここから先は迷宮圏だ。普通の町とは違うぞ」


グラムベルクは皆の着ている服を眺めながら首をひねる。


「まずは装備だな」


「?」


「その恰好では魔獣になめられるぞ」

「迷宮に入るなら、相応しい装備が必要だ」


グラムベルクに促されるまま、一行は町の防具屋に入った。

店の中には革鎧や外套、頑丈な靴が並んでいる。

アリソンは冒険者向けの商品を手に取ってみた。


「これ凄く軽いな」

「どんな素材でできてるんだろ」


店の奥から店主が答える。


「あんた達、迷宮に潜るつもりかい?」

「だったら、動きやすさ重視だ」

「狭い通路が多いからな」


女性陣は初めて目にする防具を次々と試着していく。


「この外套、着心地いいわ! でも色がちょっとね」


「鉄の鎧って艶々してる。意外とかわいいかも!」


「私はこの鎖帷子でいい」


即決したイリスを見てグラムベルクが苦笑いする。


「まあ、あんたは魔獣にはなめられんか…」

(なんせ竜を子分にしちまうんだからな)


しばらくして。

全員が迷宮用の装備に身を包んだ。

ターニャは厚手の服に革の胸当を着こみ、くるっと回ってみせる。


「どう? 冒険者に見える?」


「いいね、よく似合ってる!」

(防御力は低そうだけど…)


そしてザイオン迷宮の情報を得るため、大通りの酒場に入った。

冒険者には昼夜の感覚が無いのか、昼過ぎから酔っ払い達で賑わっている。


 酒と肉の匂い

 荒っぽい笑い声


冒険者の町らしい空気だ。


「こういうの久しぶりね!」


ターニャが席に着いたそのとき、店の奥から声が飛んできた。


「おい、また会ったな!」


聞き覚えのある声。

振り向くと――

背の低い影。

大斧の柄が肩越しに見えた。


そこにいたのは。

茶色い巻き毛のドワーフの女。


ターニャが目を見開く。


「え、あの時の……!」


彼女はニヤッと笑った。


「よっ! 壁人間、久しぶりだな!」

「あたしはブリッタ、ここらで冒険者をやってる」


「その呼び方やめてくれないか」


ブリッタは席を立ち、そのままこちらに歩いてきた。


「こんなとこで何してる?」


「ザイオン迷宮に行くの」


「は? お前たちだけでか?」

「そりゃ無謀ってもんだ」


ミレイアが不安げにアリソンに目をやる。


「ねぇ、思ってたより危ないとこなんじゃ…」


「確かに…」

「迷宮のこと何も知らないからな」


(ケプラーも言っていたな)

(調査隊が行方不明になっていると…)


ブリッタはアリソンの肩に手を回して酒をあおる。


「ザイオンね……」

「浅い階層なら行ったことあるぞ」


アリソンが身を乗り出す。


「本当か?」


「あぁ、以前に何度かな」

「深層までは知らんが、それ以外なら案内できる」


「…」


「君を雇えるか?」


ブリッタは腕を組み少し考える。


「まあ、知らない仲ってわけでもないし…」

「金次第だな」


グラムベルクが口を開く。


「ドワーフ相手に値切る気はない」


「いいね、話が早い」

「臨時で乗ってやるよ」

「ただし、危なくなったら逃げるが基本だ!」


ブリッタはジョッキを掲げた。


「死なないように頑張ろうぜ!」



翌朝早く。

冷たい空気の中で、薄い霧が川面を覆っていた。

北部特有の気配がはっきりと感じられる。

ブリッタも加わった一行は、再び船に乗り込む。


「思ったよりちゃんとした船だな」


「数日は迷宮に潜れるだけの物資も積んである」


ミレイアが操縦席に立つ。


「それじゃ行くよ」


重力魔法の推進力が低く唸り、船は静かに動き出した。

川幅はどんどん狭くなり、周囲の景色も変わっていく。


川岸には苔むした岩壁。

ところどころに点在する洞窟。

ターニャが小声で言う。


「……なんか出そう」


ブリッタが大声で笑いとばす。


「何言ってる、出るぞ普通に!」


船が進むごとに水の音が大きくなっていく。

そして、川が大きく湾曲した先。

巨大な岩壁が現れた。


その中央に――

ぽっかりと開いた巨大な穴。

地下へ続く闇。


周囲には崩れた石柱や、古代の遺構の残骸が散らばっている。

その奥から生暖かい空気が流れ出てくる。

まるで大地が呼吸しているかのように。


「……一つだけ言っとく」


ブリッタが低い声で言った。


「引き返すなら、今だぞ」


船がゆっくりと岸に近寄る。


誰も言葉を口にしない。

ただ、

その穴を見ていた。


「ここが……ザイオン」


(ここから先は、人の世界じゃない)


地下迷宮ザイオン。

その入口が――

静かに口を開けていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ