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私と先生が付き合ったら退職になるので、禁断の恋は始めません。~清楚ギャルJKと眼鏡教師のラブコメ~  作者: 五月雨恋
高校3年3学期

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第68話 卒業式

「田中のくせに生意気ー」

「似たような坊主捕まえて替え玉受験とかしてない?」

「部活引退してからもずっと坊主だったし、やっぱ怪しいよね?」


 言われたい放題なのは元野球部、田中秀人(しゅうと)

 卒業式を数日後に控えた今も、坊主のままだった。


「違うわ! 実力だ実力!! 夏休みに海行ってから、ずーっと勉強してたんだよっ!!」


 そんな田中は、私も不合格を食らった最難関私立に見事合格して――みんなから疑われてる。


「ほーん? ねえ葉月。実際葉月から見て田中(ハゲ)って勉強出来るの? あんまりそういうイメージないんだけど」


 ミカに聞かれて少し考える。ていうか、そもそも田中って――。


「元々頭良かったでしょ。過去問も普通にスラスラ解いてたし」

「そうなんっ!?」


 ミカの大きな驚き声に、田中は髪を手櫛でとかすような仕草で答えた。

 ……いや、坊主じゃん。

 

「柊の結果も、卒業までに分かれば良いのになぁ」

「そうだけど……ま、仮に落ちても行く大学はあるし」


 自慢のロングヘアーを手櫛で払って、私も答えておく。

 でも正直、受かってる自信はある。……言わないけど。


 そんな感じで、予行演習は滞りなく終わった。みんなは、卒業生代表が田中なことにブーブー言っていたけど。


「柊の合格発表がまだだからだよ! 仕方ねえだろ!」


 私が辞退した事を黙ってる田中は、やっぱり良いヤツだ。


「まぁ、生徒会長でも良いんじゃないかって話もあったんだけどな」


 遅れて教室に戻ってきた三山先生が話に加わる。


「校長先生は、金髪がお気に召さなかったらしい」


 皆の視線は、ミカに止まった。

 

「卒業式でピンクに染めて、校長と写真撮ってやろーかな?」


 そう言って、ミカは何かを企んでいるように笑った。

 気づけば、その笑いは教室中に広がっていく。この光景も、もうすぐ見納めになる。


 ――それからは、本当にあっという間だった。


 * * *

 

 卒業式のあと、私は少しの時間を作って進路指導室へと向かう。

 扉を開けると、スーツのジャケットを脱いだ先生がいた。髪型はきちっとしてるけど、それ以外は何も変わってない。


 「先生、みんなが早く来いって言ってましたよ」

 「ああ、荷物置いたらすぐ行く」

 

 軽口を叩きながら、机の引き出しをガサゴソと探る。……こういうところ、本当にマイペースだ。


「ねえ先生」

「んー?」

「コーヒー飲みたい」

「いや、みんな待ってるんだろ?」

「うん。だから今日は缶コーヒー」


 私は無糖の缶コーヒー、2本のうちの1本を先生へ手渡す。


「……俺、微糖派なんだけど」

「そうだっけ?」

「柊が砂糖入れてたから、つられてそうなった」

「私は先生につられて、ブラック飲むようになったのに」


 進路指導室で飲む、最後のコーヒーは冷たい。先生はコーヒーを一口飲んで顔をしかめる。


「……苦い」

「うん、苦そうな顔してた」


 静かな部屋に、笑いが落ちる。


「というか柊、本当にブラック好きなのか? 無理してない?」

「してない。だって大人だもん。ほら、今日で卒業だし」

 

 そう伝えると、先生は鼻で笑う。


「いや、学校教育法だと、卒業しても3月いっぱいまでは高校生だ」

「えっ、マジで?」

「ああ。だからまだ……大人じゃない」


 先生はそう言って、棚から取り出したシュガースティックを自分のコーヒーに入れた。

 

「じゃあ補導されたら先生が迎えに来てくれるんだ?」

「いや……たぶん行かないと思う」

「ひどくない? 来てよ」

「そんな再会、何か嫌じゃないか?」

 

 少しだけ想像して、私はゆっくりと頷いた。

 

「……卒業してから、どこかで会えたりするのかな?」


 先生は机に腰を掛け、中の液体を回すように缶コーヒーを振る。


「柊とバッタリ会うとしたら、近所のスーパーかな? それで、ミカと一緒にいる柊にも何か奢らされる」

「ロマンスのかけらもないじゃん」

「魚介コーナーから始まる恋だって、あるかもしれない」

「生臭そうだから()だ。……っていうか先生――」


 何気ない言葉の節を、私は拾い上げる。


「私と恋、したいんだ?」


 先生はコーヒーを飲み干して、少し考えるように首をかしげる。


「……俺は最初から、柊に恋をしてただろ?」


 やがてドヤ顔を浮かべると、脱いだジャケットの胸ポケットから辞表を取り出す。


「好きです。付き合ってください」


 私の目の前でそれをラブレターのように差し出し、腰を90度に折ってお辞儀する。

 

 久々に聞いたその言葉。

 私は残りのコーヒーを一気に飲んで、空き缶を先生の缶の横に並べる。

 

 先生の缶コーヒーの飲み口には――溶け切らない砂糖が、残っていた。

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