第62話 受験モード
12月、朝。
クラスは徐々に騒がしさを取り戻していく。最近だと推薦組の進路が決まったり。
半分弱は受験を控えているとは言え、大して進学校じゃないうちの高校は……と思って隣を見ると珍しくミカが勉強している。
というか見渡すと勉強してる人が意外と多い? あれ??
そんな私の視線に気づいたミカが手を止めた。
「あっ、葉月休憩?」
「いやまぁ……キリは良いけど」
「じゃあHRまでは勉強しない感じ?」
言われて時計を見ると、朝のHRまでは残り3分だった。
「……しないかな」
「じゃあミカも、もうちょいやったら終わりにするね~」
「……うん?」
そして次の休み時間。英単語のチェックをしていると、後ろの席の田中が単語帳を開いていた。
さらに次、普段は廊下で走り回ってる男子達が参考書を囲んで教え合っている。
……何かが、変だ。
昼休み。
ミカと二人、机を少し寄せてランチタイムが始まる。今日はお互い、母の手作り弁当だ。
「ねえ葉月。昼休みはその……勉強しなくて良いの?」
「うん。色々試したんだけどさ……」
食べながら勉強しても記憶の定着率が悪かったし、早食いして勉強しても、妙に眠くなって捗らない。
色々と試行錯誤してみたけど、食事休憩は普通にとるべきだという結論を出した。なんて話をミカにする。
「ほえー。 学校来てすぐに勉強するのはどうなの?」
「受験は朝からだから、それに慣れた方が良い……みたいな話聞いて。試してるけど、一日通して勉強が捗る気がしてる」
「……ガチやん」
「ガチやぞ」
ミカのそのツッコミに、同じノリで返しておいた。
* * *
予備校のない放課後はいつも通り。
「失礼します」
「おう」
「コーヒー飲んで良いですか?」
「チョコも食べる?」
「2つだけ」
本当はもっと色々、ゆっくり話したい。だけど今の私は受験生だし……というかそもそも教師と生徒だし。
参考書を取り出しつつ、コーヒーを淹れる先生の背中を見る。
受験勉強の疲れだろうか? それとも初めての恋で浮かれているのだろうか?
最近の私は、三山先生を見ると胸がぎゅっとなってくる。
お盆にコーヒーとお菓子を乗せて先生がこっちへ歩いてくる。私はなんとなく問いかけた。
「……先生が私を抱きしめたら、やっぱりアウトですよね?」
「当たり前だろ。日本の法律じゃ死刑になる」
「いや、ならないし。じゃあ逆に私が先生を抱きしめたら?」
先生は机にゆっくりコーヒーを置いて、小首を傾げる。
「……辞表出すのが先か、自首するのが先か……どっちなんだろう?」
「不可抗力でセーフじゃないんだ」
「嬉しくなるから、アウトに決まってる」
……今日もちゃんと、変態だった。
無駄話もそこそこに、私は勉強モードへと突入する。聞こえるのは互いのペンを走らせる音と、遠くの部活の喧騒だけ。
冬の空はすぐに暗くなって、あっという間に夜になる。
進路指導室のスピーカーは今も壊れていて、完全下校のアナウンスは聞こえない。
「……柊、好きだ」
先生の告白も、聞こえない。




