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私と先生が付き合ったら退職になるので、禁断の恋は始めません。~清楚ギャルJKと眼鏡教師のラブコメ~  作者: 五月雨恋
高校3年2学期

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第59話 文化祭③

 三年七組の屋台『ロシアンルーレットたい焼き』は想定をはるかに上回る人気を見せた。

 ワサビ(外れ)入りが出始めるとさらに話題を呼び、昼過ぎには大量のストックも底をつく。焼き待ちの行列が伸びきったところで、私たちは調理環境の限界を悟った。

 夕方には業者へ連絡し、二台目の焼き器を確保。明日の早朝に運び入れてくれる事となった。

 

 翌日。早朝から学校入りした私たちは、ひたすらたい焼きを作る。

 私が黙々と作業をしていると、チアリーダーの服を着たミカが近づいてきた。


「……ねえ葉月(はづき)。完売目指すどころじゃなかったね」

「そもそも、あんなに早く売り切れるなんて誰も思ってなかったし」


 圧倒的な売り上げを出した三年七組にあったのは、困惑と疲れだった。

 

 文化祭二日目が始まる。


 * * *


「ロシアンセット出来たー!?」

「今五つ持っていく!」

「セットと単品で列分けて! あと生徒会から行列を校舎裏に回せって言われてる!!」


 開場とともに鬼のような忙しさが始まった。単品だけでなく、確実にワサビ(外れ)が含まれるセットの販売を始めて……これも驚くほど売れていく。

 可愛い衣装に変な衣装。クラスメイト達は思い思いのコスプレに身を包むけど、そんな事を楽しむ暇もないくらい屋台は大繁盛だった。

 ちなみに私は昨日に引き続き、体操服のジャージだ。動きやすいし。

 休憩まであと一時間。たい焼きの両面を合わせて、ふと近くの屋台を見ると……三山(みやま)先生がいる。


「……三山先生、なんで隣のクラスにいるの?」


 ふいに漏れた私の声に、隣の男子が答えた。

 

「さっき買い出しで車出してもらった時、三山先生がシイタケ買ったんだよ。それ焼かせてもらうんだって」

「あー。六組って焼き鳥焼いてるんだっけ?」

「そうそう」


 ……先生は、別クラスの女子生徒と、仲良く話しながらシイタケを焼いている。私はその光景を、なるべく見ないようにした。

 嫉妬という感情はこんなにも人を嫌な気分にさせるものなのか。微かに漂うシイタケの匂いも嫌いになりそうだ。


「葉月! 具材置いとくね!」

「おっけー」


 ……屋台が忙しくて、良かった。


 そのあとも焼いて、焼いて、焼き続けた。気が付けば手はベタベタで、赤い体操服は粉まみれだ。


「柊、交代! 休憩入ってくれ」

「ありがと。続きよろしく」


 更衣室に着くと、汚れたジャージを脱ぎ捨てメイド服へと着替える。昨日とは逆だ。

 ちなみに、午後から列整理でメイド服を着ることになっているし、何度も着替えるのが面倒臭いだけで……メイド服が好きになった訳じゃない。

 でも、ちょっとだけお祭り気分で楽しいとは思ってる。


 何を見ようか、どこへ行こうか?

 友達と待ち合わせしてはいるけど、それまで一時間ほどの時間がある。ちょっとお腹も空いてきたなぁ……。

 暇を持て余した私の足はいつもの癖なのか、フラフラと進路指導室に向かう。

 祭りの喧騒から離れた廊下。そこにある進路指導室の明かりはついていなくて……静かだった。


 ――でも、シイタケの匂いがする。


 ドアを三回叩く。返事がない。

 私はドアを無言でガチャガチャと揺すり続ける。それでも返事がない。


「……校長先生、呼びますよ?」

 

 私がそう言うと……カシャン、と音がして、香ばしい匂いを吐き出しながらそのドアは開いた。

 机の上には焼かれたシイタケ。他にも屋台で買った食べ物がズラリと並ぶ。私は部屋に足を踏み入れてから、ドアを開いたその男の顔を睨みつけてみる。

 

「居留守使ってビールって、アウトじゃないですか?」

「いや、ノンアルコールビールだし」

「アウトでしょ?」

「……未成年だから、共犯にも出来ないな」


 ノンアルコールビールの缶を左右に振るその人は、言うまでもなく三山先生だ。


「ねえ先生。お腹空いたから、何か食べて良い?」


 返事も待たずに面談用のソファに腰かけて、机の上の食べものを物色する。んー、どれにしようかな?


「焼きそば半分と焼き鳥……あ、から揚げもらっていい?」

「……この状況で、俺が断れると思うか?」

「全っ然、思わない」


 非常にラッキーな事に、私は並ばず買わずして今日のお昼ご飯を手に入れた。

 使い捨て容器の輪ゴムを外していると、先生は冷蔵庫から新たに取り出したノンアルコールビールと、紙皿、割りばしを持って向かいに座る。さらに飲むのだろうか?

 ビールの缶を開ける音と、割りばしを割る音は、ほとんど同時だった。焼きそばをほぐす私に、先生が言う。

 

「……こうしてると、完全にアウトだよな」

「ノンアルコールだからセーフって、去年みたいに開き直ればいいんじゃない?」

「いや、そっちじゃない」


 先生は静かに缶を置いた。


「メイド服着た柊が、とても罪深い」


 ため息交じりにそう言うと、たこ焼きも差し出してくる。


「……口止め料ならもう十分ですけど」

「ツーショットチェキが撮りたいんだ、俺」


 最終的に、テーブル上全ての食べ物が差し出された。

 ……いや、そんなに食べられないし。カロリー的にもアウトだから。


 * * *


 午後二時。

 ロシアンルーレットたい焼きは材料を全て使い尽くし、一足早く完売となった。

 片付けも終わり、屋台運営から解放された私たちは北へ南へ、最後の文化祭を追いかけるように走り回る。

 日が落ちるにつれて、文化祭の校舎は静けさを増し、屋台の呼び込みの声も減っていく。それでも私たちはお祭りの欠片を拾うみたいに、全力で騒いだ。

 ミカと屋外ステージでバンド演奏を見ていたら、あっという間に夕方になっていた。


 みんなと離れ、グラウンドの外周をぐるりと歩く。茜色に夜の藍が混じったころ、人気(ひとけ)の少ない場所に行き着いて、私は足を止めた。

 後夜祭のキャンプファイヤーを遠巻きに見られる位置。文化祭の最後は、一人で見たくなったのだ。

 

 ピータン(彼氏)と仲良く手を繋ぐミカを見て、羨ましいと思った。

 女子2人と揉めているリョースケ(元カレ)を見て、バカだと思った。

 男同士で騒ぎ立てる田中たちを見て、青春だと思った。

 

 ぼんやり揺れる火に照らされつつ、なんとなく背後の校舎を仰ぎ見るように振り返ってみた。三階にある進路指導室の窓には、後夜祭を見守る三山先生の姿があった。


 ――後夜祭で告白したカップルは未来永劫結ばれる。


 去年、先生が言った都合の良すぎる嘘を、思い出して笑う。

 元々は後夜祭で『付き合った』だし、告白しただけで結ばれるならこの学校の人は全員幸せになってしまう。


 だけど。


 言われてみればたしかに、そっちの方が夢と希望に溢れていて良い。

 今の私は、その嘘を信じてみたい気分だ。

 

「……先生、好きだよ」


 小さく口にしたその言葉は――誰の耳にも届かない。

 しばらくして、私に気付いた先生が手を振る。私は小さく手を振り返して、火の明かりの方へ歩き出した。

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