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私と先生が付き合ったら退職になるので、禁断の恋は始めません。~清楚ギャルJKと眼鏡教師のラブコメ~  作者: 五月雨恋
高校3年2学期

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第57話 文化祭①

 ナース、チアガール、河童、アリス、ティラノサウルス。

 職業どころか種族もバラバラのコスプレに身を包んで、私たち三年七組はグラウンドに集結した。

 

 私たちの出し物は『ロシアンルーレットたい焼き』。

 たい焼きの屋台に合う衣装が何も思いつかない、でもせっかくだから何か着たい。

 自称『文化祭アドバイザー』のミカが悩みに悩んだ結果。


「皆の持つコスプレ集めてさ、好きな服を着る感じにしない? ほら、ハロウィンも十月だしっ」


 って事になった。正直私は乗り気じゃなかったけど……結果的には面白かったかも。

 去年着たメイド服に身を包んだ私は、ミカの言葉を待つ。皆が無の表情で見守る中、たい焼きの被り物をした三山先生だけが声を押し殺して笑っている。


 ミカは、ハゲカツラに白い上下。黄土色の腹巻に下駄を履いた格好で口を開く。ちなみに、朝から一緒に準備をしていた私たちはもう見慣れてしまった。


「アホになる気がありますかーッ!?」「「いえーい!」」

「バカになる気もありますかーッ!?」「「いえーい!」」

「恋する準備はできてますかーッ!?」「「いえーい?」」


 最後の掛け声には、あちこちから曖昧な声が漏れる。私はとりあえず、ノリよく叫んでおいた。……別に恋、楽しんでないし。

 

「初日から完売目指して頑張りましょーッ!」「「いえーい!」」


 高校生活最後の文化祭は、ライブみたいなコール&レスポンスで幕をあげた。


 * * *


「……地味にロシアンルーレットたい焼きってナイスアイデアだよな」

「まあ、面白いよね」


 真っ白な全身タイツに身を包んだ野球部の田中が、せっせとたい焼きを焼きながら言う。私はその横で、生地の中央にひたすらカスタードクリームを乗せていた。


「いや、それもそうだけどさ。客から具材指定されねぇのが良いなって。焼き終えたヤツ片っ端から売るから、個別に在庫確認しなくて良い訳じゃん?」

「まぁ……たしかに」


 開場前から焼いていたのもあるけど、我らがロシアンルーレットたい焼きはとんでもない回転率で売り上げを伸ばしていた。

 さらに欲しい具材に当たるまで集団で何度も買ってくれる人も居て……本当に大忙しだ。


「ミカって何気に凄いよな。実は天才なんじゃねえか?」

「気も利くし、しっかりしてるし。ミカはずーっと凄い子だよ」


 具をチョコに切り替えた私に、渋い(しゃが)れ声が飛ぶ。


「おう、ハヅキチ! 大繁盛してるじゃねえか!!」

「あ、コンちゃんいらっしゃいませ。ミカならもうちょっとで戻って来ますよ?」

「いらねえいらねえ。売り上げに貢献しに来ただけだ。三十匹くらい包んでくれや」


 ミカのパパ(コンちゃん)こと、金剛乗(こんごうじょう)勝利(まさとし)。今日も債権回収に成功した人みたいな笑顔だった。


 

 具材を幾度も変えて、手元のチーズを全て乗せ終えた頃。キッチン係交代の時間となった。


「んじゃ、後よろしく」

「おう」


 ゴリラのマスクを被った高木に後を任せて、私は休憩に入る。

 そういえば、朝から一時間ほどたい焼きを焼き続けて気が付いた事がある。


 ……メイド服は、調理に向かない衣装だった。


 私はカスタードが付いた袖口を拭い、スカートについた粉を払いながら校舎へと向かった。

 たい焼きの材料で汚れたメイド服を脱ぎ捨て、私は体操服に着替える。暗めの赤のジャージだ。

 同じく休憩に入ったミカと校舎二階で合流すると、ミカはいつの間にかメイド服に着替え終わっていた。


「え……葉月(はづき)っ!? なんで体操服になっちゃったの!? 可愛いメイド服は!?」

「汚れたから着替えた。別に良くない? 動きやすいし」

「え、無理。可愛くない」

「焼き芋のコスプレって事で、ここは一つ」

「無理~ッ!!」


 無理無理とうるさいミカを連れて私は歩き出す。文化祭はまだまだこれから。焼き芋の私と、可愛いミカメイドの散策が始まった。


 * * *


「……たしかに動きやすいかもしれん」

「でしょ? ダサいジャージで文化祭回るのも、今年で最後って思ったら良くない?」

「うーん……これはミカの負けかな。食べ歩いて良し、汚れて良しだし、一周回って可愛く見えて来たかもっ」


 結局私たちは二人揃って、焼き芋みたいなダサいジャージを着る。髪もお揃いでおさげにした。

 

 二年生がやるお化け屋敷や喫茶店を、私たち二人は巡っていく。


「今年はメイド喫茶ないってどういう事? 定番だよね?」

「意外とスカート短いし、普通に恥ずかしいからなぁ。っていうか私らの先輩もしてなかった気がする」

 

 超絶美少女・白石萌先輩のメイド服、絶対似合ってただろうなぁ……。

 ブーブー言うミカと歩いていると、少し離れたところでひょろっと背の高い癖毛の男を見つけた。同じく気づいたミカが声をかける。


「三山せんせーい! やっほー!!」


 三山先生は小脇にたい焼きの被り物を抱えたまま、ほんの一瞬だけ不思議そうな顔をして、その場に立ち止まる。


「……なんでお前ら、体操服着てるんだ?」

「焼き芋っぽくて可愛いから!」

「動きやすいから」


 ミカの体操服への評価が、ダサいから可愛いに格上げされていた。


「そういえば先生、うちのクラスのたい焼き食べた?」

「いや、まだ食べてない。なんか凄く並んでたし」

「じゃあ今行こうよ。回転早いし、見た目の割に早く買えると思う」

 

 そう言って私は先生の背中を押そうとして……ふと去年の話を思い出す。


 ――『私に連れまわされてる感じならセーフじゃない? ほら、腕とか組んでさ?』

 ――『ぜひ頼む』


 先生の顔を仰ぎ見る。先生はこっちを見て首をかしげる。

 その腕に、自分の腕を絡めてみる。その顔にはさらに困惑の表情が浮かぶ。


 反対隣りに立つミカに目線を送る。ミカも私と同じように先生に腕を絡める。


「……いや、これ何?」


 先生の疑問は元気なミカの声にかき消された。

 

「はいはーい! 両手に花の三山先生が通りまーす!」

「道を空けてくださーい」


 最後の文化祭が幕を開けた。

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