第48話 夏休みに学校へいく
真っ青な空。完全に締め切られた窓の内側で、エアコンが全力で稼働している。
外で鳴き続ける蝉たちは、「夏が始まったぞ!」としつこく対抗してくる。
私は夏休みの真っ只中、進路指導室にやってきた。この時期は私服のまま学校に来ても良いらしい。
そして三山先生は――。
半袖半ズボンに裸足で、アイスキャンデーを舐めていた。
「柊? ……夏休みだぞ?」
先生は零しそうになったソーダ味のそれを、左手で受けながら言う。
「そうなんだけど……今日予備校休みだし、家よりこっちの方が集中できるよなぁーって」
過去問はもちろん、問題集まで揃ってるし。ここは何気に最高の環境なのだ。
「……まあ俺は柊の姿が見れて、凄く嬉しいけど」
冷たいアイスを一気に口に放り込んだ先生は今まさにキーン!となってるらしい。眉間に皺が寄っている。
「オマケに今夏休みだからホラ。私服も良いもんでしょ? デニムスカート、どう?」
フロントのスタッズが効いてる、オシャレなヤツだ。しかもミニ丈。
「凄く似合ってると思う」
先生は真剣な顔で親指を立てる。うんうん。しかし『似合ってる』、か。
「ちなみにその『似合ってる』に下心って入ってます?」
私がそう聞くと……先生は冷蔵庫から取り出したアイスキャンデーを、何も言わずに手渡してくる。
否定しないのも、また大人なのかもしれない。そんな事を考えながら齧ったアイスキャンデーは、レモンの味がした。
* * *
黙々と勉強を進めている間、先生も色々と忙しそうにしていた。夏休みとか、長期の休みじゃないと出来ない事があるらしい。教師は意外と大変らしい。
背中越しに何度か出入りする気配を感じているうちに、ふと気づいた。
先生の半ズボンが、いつの間にか長ズボンになっている。
「あれ?短パンは?」
「昔、柊が男の短パン嫌いって言ってたから履き替えた」
「え、気にしすぎじゃない? 別に良いのに」
まさかこの男、意外と人目を気にするタイプなのか?
「好きな子に言われたら、やっぱり気になるだろ」
「メンタルが小学生じゃん」
「え、小学生なら逆張りするんじゃない? うるせーとか言いながら」
そう言って2本目のアイスキャンデーを食べている先生は、ますます小学生っぽい。
「先生ってさ。もしかして、彼女とか出来たら相手に合わせちゃうタイプ?」
「うーん……」
先生は手元のアイスをじっと見つめたまま、固まってしまった。
「どうしたの?」
「いや、好きな子に対して元カノの話とか……して良いものなのかなって」
「……別に良いんじゃない?」
乙女みたいな事いわないでくれる? 別に元カノの話されたとしても私は別に――いや、なんか嫌かも?
モヤっとした感情に首を傾げていると、先生はいつも通りのドヤ顔を浮かべてこう言い放った。
「ただまぁ……少なくとも柊色に染まりたいとは思ってる」
柊の葉は緑色で、実は赤色である。つまり、先生が染まりたいのはクリスマスカラーということになる。
夏真っ盛りの今日。気温は40℃を超えているんだけど……うーん。
――先生、メリークリスマス。
私は心の中で、一応そう呟いて。モヤっとした気持ちも夏の雪に埋めておいた。




