第46話 クラスで海①
夏休みに入った。
受験勉強が本格化して、朝起きたらすぐに勉強、予備校にも通ってさらに勉強……のはずだった。
実際、勉強はちゃんとしてる。夜まで自習室にこもる日だって少なくない。
そんな私は今、駅のホームに立っている。
「やっぱ、息抜きは大事だからねぇ~」
隣のミカは、オーバーサイズの白Tをはためかせ、大きく伸びをしながら言う。息抜き入れるタイミングが早すぎる気もするけど……まぁ、良いのか??
「ピータンから、OK出たんだ?」
ミカの彼氏、ピータンはとんでもなく嫉妬深い。クラスの男子も一緒だと伝えたら、「男子全員目隠ししろ」くらいは言いそうなんだけど。
「んーん。言ってないよ?」
「え? 大丈夫なの?」
「言ったら言ったで説明するの大変だし……まぁ、何とかなるでしょー」
ミカはそう言って笑うと、ホームに集結した三年七組の面々に向けて、軽く拳を掲げた。
「今日は受験生なのに遊ぶという背徳感を、ひっそりと楽しもうぜぃ!」
私たちは揃って小さく拳を突き上げた。ちょうどその瞬間、電車がホームに滑り込んでくる。
ドアが開き、冷房の冷たい空気が身体を撫でてくる。まだ午前中だからか、電車は思った以上に空いていた。
ゆったりと座席に座ると、私を含めて数人が単語帳を開いた。それを見た友人たちも、各々鞄から参考書を取り出す。持ってきていない子は、スマホアプリで勉強を始めた。
……電車は思いっきり海に向かっているのに、雰囲気だけは受験生なのがちょっとウケる。
隣では、ミカも私と同じく英単語帳を開いていた。けれど、数ページめくったところで早々に手が止まり、吊り広告をぼんやり眺めながら金髪のポニーテールを左右に揺らした。
「……今覚えても、海に着いたら全部忘れると思わん?」
「罪悪感増すから、言葉にしない方が良いんじゃない?」
ぽつりと呟くミカに、私は自分のためにも――そう返しておいた。
途中の駅で乗り換える。それだけで、空気が少し変わる。
ドアが開くたび、潮の匂いが少しずつ濃くなっていく。周りを見渡せば、それらしい格好の人も増えていった。
何度かの停車を繰り返すうちに、私たちの頭の中から受験のことなんてすっ飛んでいた。
電車を降りる。海は、もうすぐそこだ。
……夏休み、始まった感がすごい。さよなら、受験勉強。また明日。
* * *
「水着に着替えてからハシャごう。ミカは、その方が良いと思うね」
ミカの号令で、私たちは海の家に直行した。ぶっちゃけ、とりあえず波打ち際に走り出したい気持ちは……ある。
水着は下に仕込んでる。あとはシャツとショーパンを脱いで、日焼け止めを塗り直すだけだ。
ミカも同じようにオーバーサイズの白Tを脱ぐ。水着は……まさかのワンピースタイプだった。露出が少ないし。なんなら、ちょっと上品な感じがある。
「ワンピースタイプって、珍しくない?」
「んー。ピータンいないし、肌はあんまり見せない方が良いかなーって」
ミカはケラケラ笑って、言葉をつづけた。
「あと、万が一写真が流出して、ピータンに見られたら困るじゃん?」
「流出って」
肌の露出度合いで、怒りって変わったりするのかな?
そしてミカは、私の水着を見てニヤニヤする。
「葉月は……サービス心旺盛だねぇ」
「え? いや、着たいの着てるだけだし」
「ビキニって、セクシーアピールのために着るものじゃなかった?」
「……自分のためじゃない?」
そう言い切ってみたものの、だんだん恥ずかしくなってきたので、私は黒いビキニの上にラッシュガードを羽織った。
浜辺に出ると、男子がすでにパラソルとビーチテントの準備を終わらせていた。遠目に手を振ると、田中を始めとした男子が横一列に並びだす。
「柊、本当にありがとう」
「あー……うん。どういたしまして?」
何故か田中は涙目だった。




