第45話 三者面談
「三山先生、結構男前らしいわね?」
「……そうかな?」
一学期最後の日。終業式を終えた私は教室で待機し、三者面談に来た母と合流したところだった。
廊下には保護者の靴音が絶えず、教室はがらんとしている。
私たちは名前を呼ばれると、空き教室へ移動した。誰もいない教室には、ポツンと置かれた机と三山先生がいた。
「直接お会いするのは初めてでしたね。担任の三山晶です。よろしくお願いします」
三山先生は見たことのない柔らかな笑みを浮かべつつ、軽く会釈する。ミカのママとはよくスーパーで会うとか、前回のお電話では――なんて話をしていると、母が突然言い出した。
「三山先生って、葉月の好きな俳優の今江くんに似てない?」
「へ?」
「なんか文学青年っぽい感じがあるじゃない? あなたこういう顔好きでしょ?」
「いや、先生だし」
その後も母は私の好きなタイプをバラし続ける。いちいち似ている有名人を出すのはやめてほしい。大体、背の高い癖毛眼鏡なんてどこにでもいるのだ。
さっさと三者面談始めてくれないかな。私は三山先生に無言の視線を送る。
先生は「あっはっは」と、これまた見たことない顔をして笑っていた。……営業モードなのか??
ようやく笑いが収まって、三者面談が始まった。机の上には進路調査票や成績表など、いくつかの資料と私の志望校のパンフレットまで揃っていた。準備早くない? 先生はパンフレットを差し出して、話を進めた。
「第一志望は国立ということですが」
「はい、本人からもそう聞いておりますし、私と夫も応援しています」
母は、ここぞとばかりに最近の成績の話まで持ち出した。……ちょっと恥ずかしい。
「他の国立は考えてないのか?」
机の端から志望校より少し上の国立大学のパンフレットを引っ張り出しつつ、先生が聞いてきた。うーん……この辺りで十分都会だし、離れるメリットも別にないしなぁ。
「遠いところは、あんまり。近場で行けそうな大学が良いかなって。ほら、私立でもレベルの近い大学、この辺り多いじゃないですか」
「うちは葉月ひとりですから。本人が行きたいところに行ければいいと思ってます」
私の言葉に、母は呑気に笑いながら付け加える。そんな私たちを見て、先生は困ったように笑った。
「……羨ましい話だなぁ」
先生の口から、本音がぽろっと落ちた気がした。私はなんとなく、先生に聞く。
「三山先生は、どうやって大学選んだんですか?」
「都会にあって、親が自慢できる大学を選んだ感じだな」
「えっ?」
……なにそれ?
「いや、都会に住みたかったんだけど、下宿代も高いだろ? それなりの大学じゃないと親が嫌がるじゃん」
「なるほど」
先生の地元っていうと……修学旅行で行った、あそこか。角煮まんの匂いを思い出したら、お腹が空いてきた。
「初めから教師を目指してたんですか?」
今度は母が聞いた。
「いえ。最初は図書館で仕事をしたくて」
先生は、公立図書館の司書になりたかったこと。でも狭き門だったこと。それで一般企業にもいくつか内定をもらって、そこで働こうかと思ったこと。そんな話をさらりと言ってのける。
「でも、なんとなく教員採用試験に受かって、今に至ります」
「安定してますもんね」
「まぁ、たしかに」
二人はそう言って頷き合う。将来は真剣に考えないとダメだからな、と普段真面目な顔をしている癖に……先生は、ずいぶんとふんわりした理由で教師になったようだ。……あれ? 仕事って意外とそんなもの??
「葉月、結婚するならこういう人いいんじゃない?」
「はぁ!?」
母がさらっと言い放った。突然なにを言うのか。
「なるほど、それもありですね」
いや、先生が乗っちゃダメでしょ。今、進路指導室じゃないんだけど??
「ご出身はどちらで?」
「九州の方です。私は次男坊ですので、婿養子としてどうぞ」
「いや、勝手に話進めないで!」
急にお見合い会場になった。ツッコミが私しかいない。仲人さんはいらない。誰か止めてくれない?
「では、第一志望を結婚ということで」
「ちょっと、私の進路を書き換えないでくれる?」
母がとんでもない結論を口にしながら調査票を手に持ったので、私はそれを取り上げる。すると先生は真面目な顔で、その紙を追う。
「……じゃあ、第三希望くらいってことか」
「いや、そうじゃなくて」
「滑り止めに結婚ってこと? それは失礼じゃないかしら?」
あのさ、ママ。この人、そんなこと言ったら本気にしちゃうから。
……笑っている場合では、ないと思う。
* * *
「三山先生って面白い人ね。久々にあんなに笑っちゃったかも」
「まぁ……面白い、のかな」
そこは否定しない。先生モードでも、進路指導室でのアウトモードでも先生は何だかんだで面白いと思う。
「冗談にも乗ってくれたし」
「あー、まぁ、うん。そうだね……」
……先生は本気だった気がする。




