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先生と禁断の恋、始めません。  作者: 五月雨恋
高校3年1学期

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43/50

第43話 普通の高校生

 浦成(うらなり)高校二年の三山(みやま)(あきら)、負傷交代。


 帰りのHR。淡々と進行を続ける三山(みやま)先生の顔を見ていると、どうしてもその文字が頭をよぎる。

 ふと見ると、野球部の田中も同じように神妙な顔をしている。……と思ったら、中途半端な探りを入れだした。


「先生。先生って昔、どんな髪型してた?」

「え? 何だ急に。雨が降らなきゃ、もっといい感じの癖毛だぞ俺は」


 質問の意図が分からない三山先生は、うねうねの増した頭を手櫛でとかす。

 

「そうじゃなくて、高校の時とかの話」

「高校? 高校の時は田中と同じ髪型」

「坊主なんすね! 先生も……野球部だったんスか?」

「……? 違うけど?」

「……あ、そうっすか」

 

 田中は『バスケ』の話題を出せず、私たちは変なモヤモヤが増しただけだった。


 * * *


 放課後。私はいつものように進路指導室へと向かう。だけど今日は、その扉を開くのが、ちょっとだけ重く感じた。

 色々と気になることはあるけれど……そもそも私たちが勝手に調べただけだし、無神経に踏み込むのは絶対に違うと思う。

 胸のつっかえは残るけれど、なるべく忘れるようにしよう。私は扉に手をかけた。


「失礼します」

「今日も綺麗だな、(ひいらぎ)。あとで告白しても良いか?」


 そんなことはお構いなしに先生はいつもの調子で――バスケットボール雑誌を読んでいた。……えっ?


「……バスケ?」

「え? うん。俺、バスケ好きなんだよ。高校時代もバスケ部だったし」

「あー……」


 これ、普通に聞いていい話? どうしよ、分かんないんだけど。


「私も中学時代、バスケやってましたよ」

「マジか。ポジションどこ?」


 悩みは消えないまま、バスケ談義が始まってしまった。久々に語り合う『バスケ部あるある』が思いのほか楽しくて――頭が追いつかない。


「高校でもやれば良かったのに」

「いや、うちの高校って女子バスケ部ないし」

「地元のクラブチームは? この辺ならいくらでもあるだろ?」

「うーん。そこまでの熱はなかったから辞めちゃった。先生は――」


 しまった。……って思った。会話に夢中で私は地雷を踏んでしまったのかもしれない。どうしよ? どうしたらいい?

 

「……(ひいらぎ)? どうした??」

「えーっと……」


 上手いフォローが思いつかなかった私は、しばらく固まった後――今日の情報の授業での一件を、先生に話した。


「え、じゃあ田中ってそれで思いつめた顔してたのか?」

「……たぶん」

「真面目なヤツだなぁ」


 と先生は笑う。私は笑っていいのか……よく分からない。


「でもやっぱ、スポーツやってると怪我とかそういうのってこう……重い話題じゃないですか?」

「まあなー。俺のは大したこと無かったけど」

「えっ、そうなんですか?」


 負傷交代って書いてたから、なんかこう――


「そりゃまあ、交代させられた時は悔しくて、チームメイトに肩借りながら泣いたけど」


 ……交代の場面は、私が想像してた通りだったっぽい。先生は言葉を続ける。


「ただの捻挫だったし」

「でも、その後の選手生命に関わる感じの……」

「ないない。一応、三週間くらい休んどく?ってなったけど――そのまま、辞めちゃった」


 先生は席を立ち、コーヒーを淹れに向かう。その姿を何となく目で追っていると、先生は背中ごしにまた語りだした。


「よく言うじゃん、『普通の高校生』って。(ひいらぎ)はどんな感じだと思う?」

「えっと……なんか部活とか恋とか……そういうのじゃないですか?」

「だよな。俺もそう思ってたんだよ。普通の高校生らしく、部活に勉強に、時には恋に一生懸命になって青春しなきゃって」


 先生はカップを二つ、お菓子と一緒にお盆に乗せて戻って来る。

 

「だけど、実際に怪我してしばらく部活休んでみたら……それはそれで結構楽しくて。周りの言う『普通の高校生』するのが何か嫌になっちゃったんだよ」


 ……普通の高校生らしく、恋や部活や勉強に一生懸命になって青春するものだと思ってた。

 だけど部活と勉強はピンとこないし、特に恋愛とか……マジ面倒くさくて。


 そんな私と同じような気持ちが――先生にもあったらしい。


「……辞める時、止められなかったんですか?」

「止められたよ。けど、顧問も監督もクッソ厳しかったからさ。言いたい放題言って追い返した時は……人生で一番爽快だったな」


 そう言って笑った先生は、私の目をじっと見つめた。そしてすぐにコーヒーを持ち上げると、湯気で眼鏡を曇らせた。


 ――その時、先生が隠した気持ちには。

 私は、気づかなかった。

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