第42話 情報の授業
黒板の横。体育祭のクラス優勝トロフィーは、ミカの指示で作られた立派な台に飾られていた。
金色に輝くトロフィーのつや肌には、窓の外の雨が映っている。
――そう、今日も降っている。
チャイムと同時に現れた三山先生の髪の毛は今日も、うねうねが増して爆発していた。クラス中から笑い声が起きるけど、梅雨入り初日の大爆笑よりはマシになったと思う。
「おはようございます」
三山先生は、いつも通り出席をとりはじめた。本人曰く、気にしたところで手が付けられないらしいけど――朝のHRの後、窓の外を睨む視線には怒りがにじみ出ていた。
* * *
四時間目は情報の授業だった。黒板には短く、物事を調べるときの要点が箇条書きされている。
検索ワードを変えてみる、複数のページを見比べる、出てきた情報を鵜呑みにしない。
「最初に出たやつを信じては……いけま、せん。検索結果の上から三つだけ読んで終わり……みたいなのは 、やめま、しょう」
情報科の片出先生は、いつも通り語尾を溜めつつ、ゆっくりと話す。聞いていると眠くなることで有名だ。
「そう言われても、縦動画で良いって言われたら買っちゃうよねぇ……」
と呟いていた。……分かる。
「同じ内容でも……言い方を変えると出てくるものが変わり、ます。例えば――」
その後も続く先生の言葉を聞きながら、私は手元にあるマウスのホイールを人差し指でコロコロと回していた。
「では、検索の練習をしてみま、しょう。最近気になっているものを、自由に……調べてくだ、さい」
気になっているものかぁ。私は『みやま……』と途中まで打ち込んでからバックスペースキーで文字を消す。適当にも程が過ぎた。んー、何かあったかなぁ。検索バーをぼんやり見つめていると隣のミカが吹き出した。
「葉月見てッ!! 若い時の三山先生!!」
そう言ってゲラゲラ笑いながら見せてきたのは、三山先生のSNSだった。公開されてるのはプロフィール写真だけ。大学時代に作ったまま放置されたっぽいそれには、シャボン玉を吹く先生の横顔が写っていた。
「若いっていうか……ちょっと幼い?」
金髪交じりの茶髪に、服装の感じが……うん、時代を感じる。覗き込むようにクラスメイトが集まり、そこからは各自の席に戻って――三山先生こと『三山晶』探しが始まった。
「テニスサークルで鍋食ってる三山先生見つけた!」「これ、三山先生だよね? 教職員人事異動の三山晶!」
全力でネットの海を捜索される『三山晶』。一番盛り上がったのは、田中が見つけた記事だった。
「三山晶って書いてある! バスケでインターハイ行ってるかも!」
それは、妙に詳しく書かれた誰かの個人ブログだった。
「メンバー表に名前あるけど、三山先生どれ?」
「癖毛いなくない? 梅雨以外ってどんな髪型してたっけ??」
掲載されたチームの集合写真を、食い入るように見つめるみんなの隙間から、私も覗き込む。中学時代バスケ部だった私としても、とても興味深い。
「これじゃない?」
画像を見るとすぐに分かった。髪型は坊主だけど、メガネゴーグルをかけてて面影がある。私は先生を指さす。
「え? これ?? なんか違うんじゃない?」
「この田中みたいなやつ?」
写真をパソコンに保存して、さらに拡大して。
「「「坊主の三山先生だー!!」」」
と皆で意味もなくハイタッチした。でも……。
末尾に書かれていた「三山晶、負傷交代」の文字を見た瞬間、教室の空気が止まった。その後も調べたけど、メンバー表からは『三山晶』の名前だけが消えていた。
「……触れねぇ方が良いのかもな」
田中の言葉に、皆頷いた。




