第39話 体育祭①
今日は体育祭である。
非常に良いお日柄に恵まれて、ほどよく吹く風が心地よい。あとはその風が砂埃さえ巻き上げなければ良いのに。
私はミカが付けてくれた髪飾りを外しながらグラウンドを睨んだ。
「ああっ、せっかく可愛く出来たのにぃ~」
「だって今から私走るもん」
「付けたままでも良くない?」
「無理。気になる」
私が出るのは第一種目の200m走。なぜか知らないけど、昔から走るのだけは得意なのだ。
第四中の韋駄天ギャルとは私の事だ。なんて適当に思いながら髪を後ろに束ねてポニーテールにする。
「ポニーの根本にお花だけでも付けない?ピンクと黄色」
「付けない」
「ガチじゃん……」
「あとで私もその服着るんだから。その時にまたやれば良いでしょ?」
「うんうん!楽しみだねぇ♪」
チア服を着たミカは赤いミニスカートを揺らしてニコニコと笑った。
……これ、私も着るのか。だんだん恥ずかしくなってきた。
* * *
スタートラインに立つ。
クラスメイトの歓声が遠くから聞こえる。微妙に舞ってくる細かい砂が目に入って少し鬱陶しい。隣のバレー部と「面倒臭いよねぇ」なんて話をしたけど……お互い、目がガチである。
位置に付く。
ピストルの音とともに私たちは走り出した。
バレー部に先頭を取られた。いや、反応良すぎ……なんて考えているうちにカーブへ差し掛かる。スピード的には私の方が早そうだ。
右斜め後ろで少し体力を温存しつつ、私は足元に細心の注意を払って曲がっていく。
走り慣れてないと、サックリ転ぶものなのだ。
やがて半周の直線路へ。
クラスメイトたちの席に近くなり、ミカ達の声が聞こえる。
ここで一気に抜いて1位を奪還してやる。そう思って並びかけた次の瞬間。
「行け柊ー!!! ぶち抜けぇぇえええええ!!!!」
ひと際大きく野太い声が響き渡った。その声につられるようにミカ達の声もどんどん大きくなる。
ジリジリと相手を追い抜き、傍目に客席を見ると……。
華やかなチアたちのど真ん中で両手に持ったメガホンを激しく打ち鳴らしつつ応援する三山先生の姿があった。
……。
……いや、キャラ崩壊しすぎ。
私は華麗にバレー部を抜き去り、最終コーナーへと入っていった。
その後、悔しそうに息を切らすバレー部の傍らで勝利の余韻に浸りつつ、私は遠目に観客席を見つめる。
先生はクラスの生徒が走るたび、頭上に掲げたメガホンを叩いて大声で名前を呼び続けていた。
もしかして、勝負事に熱いタイプなのか……?
* * *
午前の部が終わり。
自販機のカフェオレを飲みながら校舎裏を歩いていると、魂の抜けた三山先生が建物に寄りかかってへばっていた。
「応援、すごく力入ってたね」
「だって、うっかり柊の応援本気でやっちゃったんだもん」
「……それでクラス全員、全力で応援するハメになったとか?」
「そういうこと。まぁ、応援は好きなんだけどね……」
先生はうなだれたまま、手元のペットボトルで水を飲む。
「でも、あんなに激しく応援されたら、皆嬉しいと思うよ? 先生の事好きになるかも」
「いや、好感度稼ぐならジュース配った方がコスパ良いだろ」
「コスパって」
三山先生は金で生徒の好感度を買う男らしい。
「応援の方が、嬉しいと思うけどなぁ。ま、午後も頑張ってよ?」
私が先生の前にしゃがみ込み、その顔を伺うと――先生はとても満面の笑みを浮かべた。
「その格好の柊に言われたら、24時間頑張れそうだ」
「……単純すぎない?」
私のチアリーダー姿は、一人の変態教師を救ったようだ。




