第38話 体育祭の準備
ゴールデンウィークが明けた初日。久々の教室に入るとミカが――真顔で着席していた。
なんとなく理由を察知した私は、鞄の中から取り出したお菓子を箱ごと差し出す。ミカは視線だけ動かして――。
「次の休み時間、一緒に食べようね……」
とだけ、呟いた。この気だるさの正体は――たぶん、口にするまでもない。
「出席取るぞー」
チャイムと同時に姿を現した三山先生には気怠そうな雰囲気はなく、いつもよりも元気そうだった。普段がゆったりしている、と言われれば……その通りだと思う。
「――柊 葉」
先生はフルネームで私の名前を呼ぼうとして、途中で止めた。
『ヒイラギハ』――『柊波』? 音波と電波みたいなものに、私はなったようだ。
今日の空も五月病なのか、どーんよりと曇っていた。
* * *
「この中の三割くらいは、去年二年七組じゃなかった。だから、この悲しみは分からないかもしれない。――それでも私は皆に伝えたいッ! 勝利への渇望を! たとえそれがエゴだと言われようとも私は――体育祭でクラス優勝を果たしたい……ッ!!」
放課後のHRはミカの演説から始まった。来月は体育祭。誰が何の競技に出るか等々、決める事がたくさんあるのだ。
うちの高校の体育祭では縦割りで区切られた「赤・白・青」と、学年ごとのクラス対抗、両方で競い合う。けど、ミカ的に縦割りは燃えないらしい。
『赤・白・青とかさ、規模大きすぎて分かんないから燃えないよね。全てはクラス対抗だよッ! そこに全力を捧げたいッ!』
とか言ってたと思う。
クラスでは先ほどの演説で心震わせた一部の生徒たちが、戦略を練りながら熱く議論を交わしている。
時に笑い、時にぶつかり合う様子を教室の片隅で見守る三山先生は――口出しする気は無いらしく、本を読んでいた。あっ、今欠伸かみ殺した?
……まぁ、かくいう私もそこまで熱くなれるかと言われたら微妙なんだけど。
「葉月。第一陣の200m走は……任せて良いよね?」
「おっけー」
教卓から向けられる、ミカからの熱い視線に私は答えた。柊葉月に出来るのは、走って勝つ事くらいだ。
* * *
放課後の進路指導室。
HRで長く時間を取られたので今日は過去問をいくつかコピーするくらいかな? なんて思いつつ私は扉を開く。先生はいつも通り自分の席に座っているんだけど――。
「柊。連休中の分も含めて、今ここで愛を語らせてくれないか?」
「お断りします」
今日の三山先生は私を見るなり華麗に立ち上がり、腕を大きく広げると詩人みたいな事を言い出した。――いや、ミュージカル……かな? 見たことないけど。
「昨日会った時、好きって言えなかっただろ?」
「いや、言わないのが普通ですし」
「残念ながら俺は、普通じゃないんだ」
「あー……はい……」
悲しそうな顔を浮かべる先生に慰めの言葉を送る必要なんて、ない。
「それよりも、柊。体育祭は楽しみだな」
「……まぁ」
教室で興味無さげにしていた先生が、何を楽しみにしているのか。私には、分からなかったんだけど……。
『女子は全員 チア着ることになりました☆』
クラスに残って戦略を練り続けているミカから、一通のメッセージが届いて……なんとなく、納得した。




