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先生と禁断の恋、始めません。  作者: 五月雨恋
高校3年1学期

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37/50

第37話 本屋でナンパされる

 ゴールデンウィークも最終日。

 最後の日くらいはのんびりしようと気ままに街をぶらぶらしていた。

 数時間歩き回ったあと、なんとなく立ち寄った本屋。私は適当な雑誌を手に取る。

『必殺!一人暮らしのための時短料理テクニック』

 日常的に料理はしないし、一人暮らしでもない。しかし、気になってしまったら仕方ない。私は空調のほどよく効いた店内でそれを開いた。

 ページを数枚捲った所で、右隣に気配を感じた。私は気持ち左へと身体をずらす。背の高いその人は旅行コーナーの雑誌を手に取った。


「料理するの?」


 隣から声が飛ぶ。私はその男を一瞥して……また雑誌へと目を戻す。今は『会社に着いたら丁度食べごろになっている? 夏対応! 魔法のお弁当』を読んでいるのだ。邪魔をしないで頂きたい。


「……だし巻き卵は塩辛い方が俺、好きだな」


 睨みが足りなかったのかと思い、もう一度その男を見上げる。

 この男の名前は三山(みやま)(あきら)。私の担任で国語を教える進路指導室担当の変態(せんせい)である。


 先生が開く旅行雑誌をチラリと確認する。青い海と白い砂浜を独占出来るプライベートヴィラが、南国にはあるらしい。


「先生は旅行に行くんですか?」

「行かないよ。雑誌(これ)(ひいらぎ)がいたから何となく手に取っただけ」


 そう言って、先生はまたパラパラとページを捲り出す。私もなんとなく、そのページを覗いてしまう。……ふーむ、流石は南国のオアシス。ありとあらゆる物の色が鮮やかである。

 私は手元の雑誌に目線を戻し、残りを簡単に読んで――パタンと閉じる。時刻はまだ十五時を回った所。もう少し色々と見て回ろうかな。


「では、失礼します」

「ああ」


 私は簡単に先生へ別れを告げて店の出口へと歩き出す。先生はそんな私の斜め後ろを付かず離れずの位置をついてくる。


「……え、なんですか?」

「ん?」


 先生の行動の意味が分からず、私はそのままの疑問をぶつける。しばらくジ~っと見つめ合った後、先生は不思議そうに口を開いた。


「……生徒に会ったら、何か奢らないと駄目なのかなって」


 三山(みやま)先生は、我がクラスの生徒達にしっかりと教育されて(たかられて)いるようだった。


 * * *


「普段から生徒に奢って回ってるんですか?」

「別にそういう活動をしてるわけじゃないけどな」


 私は先生と肩を並べて歩き出す。


「……そういえば、二年の時とかよく『先生に奢ってもらった』って聞いたかも」

「だろ? 俺、この学校ってそういう文化があるのかなって思ってたもん」

「そんなの、ないでしょ」

 

 彼氏でもない、友達でもない、先生と歩くときの距離感がよく分からない。私の肩はたまーに、先生の腕に当たってしまう。そのたびに、歩幅とか歩き方を調整して……あーもう、面倒くさい。

 

「ミカはあるって言ってたけどな」

「ミカは適当だから」


 ふと視線を外へ向けた瞬間、ショップの大きな窓ガラスに、並んで歩く私たちが映った。その姿になんとなくむず痒さを感じて、無意識に足が止まった。


「欲しい物決まった?」

「いや、そうじゃなくて」


 言い方が何か彼氏……いや、父親っぽい。ほんの少しだけ面白みを感じつつ、私はガラスに映る自分を見つめる。こうしてみると、先生ってやっぱ背高いな。


「先生って、身長いくつ?」

「183……いや181cm以上……?」

「……以上?」

「朝計ると183cmだけど、午後に計るとたまに181とか182cmになるんだよ」

「ふーん」


 私は先生と、また歩き出す。

 野球部軍団と牛丼を食べたとか、スーパーに行くと大体ミカがいるとか。

 ちなみに今日、私に奢れば『旧2年7組の生徒全員コンプリート』らしい。

 そんな話を先生から聞いて、私は適当な相槌を打ち続ける。


 今、私達の距離は間違いなく『たまたま出会った教師と生徒』だ。それは間違いない。進路指導室の時のような告白もないし、今の三山先生は……ちゃんと先生をしている。

 なのに、時々ガラスに映る私達二人の姿は、お似合いのカップルみたいに見える時があって――。

 私は何となく、自分で自分たちを見ないようにした。

 

 近くをぐるりと回った後。私は先生に、適当なスーパーでペットボトルの水を奢ってもらう。


「水で良いのか。 三本くらい買っても良いぞ?」

「そんなに飲まないし」

「今飲まなくても2本はお土産で良いだろ」

「荷物になるから、()だ」


 あえて常温で買った水は、私の気持ちを肯定も否定もせずに――ゆっくりと身体に染み渡った。

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