第34話 1冬は部活を辞めるらしい②
「俺と、ヨリ戻そうぜ」
「…………は?」
リョースケの発言に、一瞬空気が止まった――。
なんて事はない。
そこそこ冷たい風はそよそよと吹いてるし、周囲の音が遠のくこともない。何なら遠くの救急車の音が聞こえるし。
私は手元の飴を剥いて口に入れる。青リンゴの甘味が、口の中にじんわりと広がった。
そのまましばらく歩いていると、駅が見えてくる。ちなみにこの間、ずっと無言である。飴玉が意外と大きくて苦戦しているのだ。
駅前の広場に入ったところで、リョースケが口を開いた。
「なぁ、そこのカフェ行かね?」
「行かない」
「じゃあ、あっちのクレープ屋」
「さっきの飴で、カロリーオーバーだし」
「……そこのベンチで自販機のジュース飲むのは? そんくらい良いじゃん」
「面倒くさ……」
そう言いつつ、私は一緒に駅前のベンチへと向かう。せっかくだし、今日の話は明日の雑談ネタにでもしてやろう。学年一の遊び人、リョースケ君の独占インタビューのはじまりである。
* * *
私がベンチで待っていると、リョースケがコーラを2本持ってやってくる。
「ほい」
「え、なんでコーラ?」
「いや、水にしようと思ってたんだけどさ、水ってちょっと安いじゃん? なんだかな……って」
「そんな気遣い、いらないし」
「だよなぁ……」
リョースケはトボトボ歩いて、再び自販機へ向かう。私はその背を見ながら――ベンチに置かれたコーラを一本手に取り、プシュっと蓋を開けた。
「結局飲むのかよ」
帰ってきたリョースケは、水のキャップを空けながら笑った。……あれ、その水って私のじゃなかった?
リョースケは私の水を一口飲んで話し出す。仕方ない、その水は君に贈呈しよう。君のお金で買った君の水である。
「今気づいたけど、ここだよな」
何か思い出があるのか、リョースケはベンチの座面をなぞる。コーラを飲みながら話の続きを待っていると、その顔は呆れた表情へと変わる。
「……葉月。お前、マジか」
「え、何が?」
大きくため息をついて水を煽る。
「このベンチ、俺らが別れた場所」
「よく覚えてるなぁ……」
駅で別れたのは覚えてるけど。
「ここで俺の恋は終わったんだよ」
「え? フラれたの私だし、フったのそっちだよね?」
「いや、結果的にフラれたの俺だもん」
何言ってんだこいつ。私がジっと見つめているとリョースケは「やれやれ」、みたいな顔をする。え、ちょっと待って。ムカつくんだけど。
「だって葉月、俺の事別に好きじゃなかっただろ?」
「ううん、ちゃんと好きだったよ」
……たぶん。
「いやもう最初から目が恋してなかったもん。クリスマスのダブルデートだって、俺にピータン押し付けてミカとイチャイチャしてたし」
「あれはミカが照れて、私に逃げてただけだし」
「ピータン静かにキレてて、機嫌悪いし」
「ごめんって」
リョースケは水を飲み干して、コーラも開ける。
「結局、葉月の気持ちを動かせなかった俺は、今もこうして引きずってるんだよ」
「私のせいにされてもなぁ……」
そう言って、二人揃ってコーラを飲む。――綺麗な夕焼け空だった。私がなんとなく空に見惚れていると、隣から謎の主張が始まる。
「つまり俺たちは、お互いに真実の愛を探してるんだと思う」
「……なにそれ?」
「えっとな。葉月って今彼氏いないだろ? たぶんそれは、本当に好きな人が居ないからだと思うんだ」
「うーん……」
……いや、間違ってはいないか。
「で、俺は葉月を忘れたくて、色んな子と付き合ってるんだよ」
「いや、クズなのを正当化しちゃダメでしょ」
「葉月よりも好きになれる女の子が見つかった時、俺の旅は終わると思う。でも高校の間は、無理っぽいなぁ……」
「早めに終わると良いね」
「ん? そこは『そんなに私の事好きなんだ』ってキュンとするところじゃね?」
「しないから。それより勉強頑張るべきじゃないの?」
「いや、俺は愛を先に見つける。それがないと正直、頑張れない」
部活を辞めさせたら、さらに女遊びに専念するなんて。彼の父親も、さすがに予想していなかったと思う。
最初はリョースケが可哀そうに見えたけど、今は――。
会った事のないお父さんの方が、よっぽど不憫だと思う。




