第33話 1冬は部活を辞めるらしい①
4月も終わりに差し掛かったころ。
私はいつものように進路指導室での自習を終えて、昇降口を出る。
グラウンドではサッカー部が練習をしていて――
「おう柊! 帰るのか??」
昇降口を出た所では野球部の田中が元気に半袖半ズボンでスクワットをしていた。……この時期、微妙に肌寒くない?
「……何で田中だけ半ズボンなの?」
「ユニパン忘れた!」
そう言って田中は、隣の部員のユニフォームパンツを引っ張る。
「元気余ってるだけかと思ってた」
「余ってるから、そのうち上は脱ぐぜッ!」
「俺達も脱ぐぞ!」と便乗してくる野球部連中が妙に面白かったので、とりあえず動画を撮っておいた。全員笑顔で上半身裸なのがツボである。あとでミカに送ってやろ。
半裸の変態筋トレ集団に別れを告げ、今日は雑貨屋でシャーペンでも買おうかなと歩いていると。
「あれ、葉月じゃん」
校門に差し掛かったあたりで声をかけられた。この時間に、なぜここに?
「……部活じゃないの?」
「いや、さっき辞めてきた」
「え、なんで?」
そこに居たのは――ミカ曰く『学校一のイケメン』、その他大勢からは『クズ』と名高い男。一年の冬に付き合っていた元カレ、リョースケの姿だった。
……ここにミカが居たら、「1冬じゃん」って言ってそう。指を立てて口パクする姿が、なんとなく浮かんだ。
リョースケは「色々あったんだよ」とヘラヘラ笑いながら歩き出す。
「え、帰るの?」
「うん。一緒に帰ろうぜ」
「嫌だ」
「えぇ……。せっかくだし俺の話を聞いてよ」
「あんまり興味ないしなぁ……」
ただ、部活を辞めた理由だけはちょっと気になるので、仕方なく隣を歩いてやる。途中、リョースケが昔みたいに手を伸ばしてきたので……私は反射的に足で蹴った。手を繋ぎたいなら握手券持ってきてくださーい。
* * *
「何組だっけ?」
「3組。7組が良かったなー。葉月いるし」
「いや、ウチのクラス文系だから。無理でしょ」
ミカは喜びそうだけど。『イケメンで足の速いリョースケ加入! 目の保養と体育祭優勝、どっちも頂きだーっ!』とか言いそう。
「そうなんだけどさ。せめてピータンとは別のクラスが良かったわ」
ピータンとはミカの彼氏である。
「あれ?仲良いんじゃなかった??」
「普通に無視される。ミカのせいだよ。アイツが俺の事イケメンとか言うから」
「あー……」
ピータンは、だいぶ嫉妬深い男なのであった。
「じゃあクラスに友達いないんだ?」
「いるわっ! 俺、けっこう人気者な方だと思うぞ?」
「そうかなぁ……」
噂聞いてる限りだと、アンチの方が多いんじゃない? ……む、これもある意味人気者なのだろうか??
ふと見上げたリョースケの横顔は相変わらず飄々としていて、ぶん殴りたいという男子の気持ちと、引っ叩きたいという女子の気持ちが何となく分かった。
「まぁ、それは良いとして。なんでサッカー部辞めたの?」
「葉月と一緒に帰りたいから」
「……今からでもサッカー部戻れば? 私の帰宅を邪魔しないでくれる?」
「ボール追うより、女追う方が楽しいんだもん」
肩をすくめて笑うその姿は、昔と全く変わらない。そして、リョースケはため息を一つつく。たぶん、ここからが本音。
「成績が悪かったから、親父に部活辞めろって言われたんだよ」
「……でも、あと少しで引退でしょ?」
「サッカーは一応冬まであるけどな」
そういえば、昔聞いたかも?
「……で。俺の親、医者じゃん? お前も医者になれって言うわけよ」
「じゃあ医学部受けるんだ?」
「いや、俺の頭じゃ絶対無理。だから歯科大目指す感じかなぁ」
リョースケ曰く、歯医者になる医者の息子はバカらしい。……全国の歯医者さんを敵に回してない?
「でも正直、歯科大どころかそこそこの大学すら行ける気がしないんだよ」
「ふーん」
歯医者さんに、歯を抜かれればいいのに。
「そういえば葉月、学年1位なんだろ? 俺の代わりに医者になって養ってくれ」
「1位じゃないし、文系だから無理」
誰に聞いたんだろ。……ミカかな。
「えぇ……じゃあさ」
「んー?」
話を聞きながら上着のポケットに手を突っ込むと、飴が入っていた。これ、誰に貰ったんだっけ?
「俺と、ヨリ戻そうぜ」
「…………は?」
ちなみにその飴は、青リンゴ味だった。




