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先生と禁断の恋、始めません。  作者: 五月雨恋
高校3年1学期

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32/50

第32話 告白の先にあるもの

 新年度最初の進路指導室。――鍵は閉まったまま。

 私は先生と机を挟んで座る。テーブルにはコーヒーと、いくつかのチョコレートが置いてあって――なんかパーティみたいになってるけど、互いの目は真剣だ。


「72%が一番ちょうどいいと思います」

「気が合うな。(ひいらぎ)の意見を全面的に支持しよう」


 チョコレートのカカオ濃度についての話し合いが、今ちょうど終わったところだ。コーヒーを一口飲んで、リセットする。


「先生の告白の先って、何があるんですか?」


 同じようにコーヒーを啜る先生は視線だけで返事をすると、胸元から退職届――もとい、新年度版にアップデートされた辞表を机に置いた。


「退職以外にないだろうな」


 いや、そうじゃなくて。うーん……そうじゃなくってさ。


「でも、告白が上手くいったら付き合うわけじゃないですか?」

「それはない」


 即答。その目は私を突き放しているようで。胸の奥が少しだけ、寒い。


「……じゃあ、なんで告白するんですか?」

(ひいらぎ)が好きだから」


 再び即答。先生はいつものドヤ顔に戻っていて、少しだけ安心する。……何当たり前の事を? みたいな顔がムカつくけど。


「付き合わないなら、退職しなくても良いんじゃないですか?」

「いや、想いが通じ合った時点で倫理的にはダメだと思う」


 うーん。そうなると、なんていうか……。


「コスパ、悪くない?」


 教師を辞める理由がいまいちピンと来ない。


(ひいらぎ)と両想いになれた。それ以上の幸せが……この世のどこにあるって言うんだ」


 先生は目を伏せて、噛み締めるようにそう言った。……や、もっとあるんじゃない? たぶんだけど。

 私は背もたれに体重をかけて、うーん?と頭を悩ませ――気が付くと、真ん中で分けて前に持ってきた後ろ髪の毛先を弄っていた。理屈で考えてもよく分からなくなってきたので、ふと思いついた攻めた質問を先生に投げかけてみる。


「じゃあさ。もしこの世に倫理観がなくてさ。私になんでもして良いよって言われたら何がしたい?」


 さすがにはぐらかされるかな? と思ったけど……先生の答えは、驚くほど早かった。


「結婚したい」

「え?いやそうじゃなくて……」


 予想とは少しズレた方向に、積極的な回答が返って来てしまった。


「なんかこう、抱きしめたい! とか手を繋ぎたい!とかさ、あるじゃん?」

「そう言われてもな」


 先生は包み紙を剥いたばかりのチョコレートをお皿に置いて、それを見つめる。


「俺が欲しいのは、(ひいらぎ)の心だからなぁ」

「……ッ!」


 ピュアな純度真っすぐな言葉に、思わず心がキュっとなった。え、待って。私の心が汚れてる?? この変態教師より??


「じゃあ、結婚したら何がしたいんですか?」


 ちょっぴりパニックになった私の口はさらに踏み込む。……いやちょっと待って。なんで私が地雷地帯に足突っ込んでるの??


「未成年に言える訳がないだろ」


 余裕たっぷりに返すその顔が妙にムカついたので、先生が剥いたチョコレートを自分の口に放り込んだ。


「あっ、それ最後の一個なのに。三つずつって言っただろ?」


 私はその抗議に無言の咀嚼で返しながら――そろそろ自習始めないとな、と思った。

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