第31話 クラス替え
四月。
住宅街を抜けた先の桜は、こっちの事情なんか知るかと散っていて。私は、茶色く変色した足元の花びらを踏みながら歩く。
……や、別に桜に恨みとかないし。これは不可抗力だし。
いつものバス停には初めて見る顔も増えている。何となくスーツや制服の皺を探して、「ああ、新学期なんだな」……と思った。
バスに揺られて駅まで少し。この時期はいつも混むけどひと月もすれば空いてくる。……なんでだろ?
* * *
学校に着くと同時に、貼りだされたクラス発表の人混みの中でミカの金髪頭を見つけた。
「ミカ、おはよ」
「おはよーッ! でさ、葉月。……このクラスどう思う?」
ミカは腕を組み、自分のクラスの名簿を見つめている。
「……こんなもんじゃない? サオリとヨッシーが離れたのは寂しいけどねぇ」
でもまぁ、二人とも六組だし心配なさそうではある。ぼっちじゃなければ、とりあえずセーフ……かな。
「サオリとヨッシー残った状態でさ、芦原さんと上野さんコンビ加入だったら熱かったよね」
「え? あんまり話したことないかも」
陸上部って事しか知らない。
「……葉月、何言ってんの?」
ミカが頬っぺたをプクーと膨らませて私を見上げる。
「新生三年七組が体育祭で勝てるかどうかの話だよッ!? このクラスじゃ戦力が上がりも下がりもしてないじゃんッ!!」
僅差で逆転勝利のはずが、集計間違いで逆転サヨナラ敗北。去年の体育祭の結果は、ミカに深い影を落としていたらしい。
私はスマホを取り出して、事前にミカから送られてきていたクラス発表の写真を見返す。
『3年7組 担任:三山昌』
……む。ちなみにミカとは、3年連続同じクラスだった。
* * *
新年度初日だからか、教室に着くとすでに三山先生の姿があった。
「先生おはよーッ! ねぇねぇ。今日って席替えしないの??」
先生はミカに挨拶を返しながら、談笑していたクラスメイト達との会話を中断して振り返る。
「……いきなり何言ってんだ?」
「だって名簿順、嫌なんだもん」
ミカがニュッと私を抱きしめる。
「んー。……アリなのか?」
先生がチラリと見てくる。……いや、こっち見んな。そんなこと私が知るわけない。
丁重な朝の挨拶を、本件のお返事とさせていただきまーす。
朝のHRはいつも通りの三山先生で、緩い感じで始まったけれど。
「進路の話が本格的になるから覚悟しとけ。悔いのない1年を過ごそう」
先生の締めの言葉は、普段より重かった。
* * *
放課後はいつも通り進路指導室へ向かう。
「失礼します」
「柊か。ちょうどいいところに来たな」
棚の資料を整理していた先生は手を止めて、私の横を通り過ぎるとドアの前まで行く。「相談中」のプレートを出すと同時にカシャンッと音がして――いや、だから鍵閉めんなって。
「好きだ。付き合ってくれ」
「聞こえません……っていうか……あれ?」
いつもの『退職届』が『辞表』に変わっていた。
「調べたら、公務員は退職届じゃなくて辞表になるらしい」
「そうなんだ」
「つまり今年の俺は……少しだけ本気だ」
「え、転職するんですか?」
「いや、そういう意味じゃなくて」
今までは溢れる思いだけで書き上げたけど、今回は……みたいなどうでも良い説明が続く。
今年度最初の学びは――どうでも良さそうな雑学だった。
………………ん? そういえば告白の先に何があるんだろ?




