第29話 お花見②
「おぅ、ハヅキチも一緒か。朝から大変だな」
二人、両手を合わせてスリスリしながら話していると、ミカのパパがやってきた。座布団を小脇に抱え、鍋と風呂敷を持っている。……今日もパンチの効いた見た目だなぁ。なんていうか、面識がなければ目を逸らす系?
「おはようございます。コンちゃんもお疲れさまです」
「いや俺は元々朝早ぇからな」
そう言って、コンちゃんは鍋を座布団の上にゴスッと置いて蓋を開く。
「これ、なんです?」
「聞いて驚け。これは――」「おでんだよー♪」
パパが蓋を空けると同時にミカが声を被せる。コンちゃんの顔が阿修羅になった。……やっぱり、顔怖いなぁ。
「コンちゃんが作ったんですか?」
「あたりめえよ。金剛乗家は、おでんもガチだからな」
ミカパパこと金剛乗勝利は、器に盛りつけた大根の上に……からしを絞った。
* * *
熱々だったおでんは、良い感じに温くなってきた。コンちゃんが風呂敷から日本酒を取り出したころ、田中率いる野球部三人がやってきた。
「ミ、ミカと……柊。おっす……」
「おっはよー!早いねー!今何時? まだ7時前だよ!!」
私もチクワをモグモグしながら、手を挙げて応える。野球部たちは何故か、いつになくよそよそしい。
いやなんで? ……あ、そういう事か。ちょっと待って。まだチクワが口の中にいるから。普段より咀嚼を早めて……飲み込む。
「こちら、ミカのお父さん。おでんを差し入れてくれました」
「おう坊主。俺のことはコンちゃんで良いぞ!」
「初めまして!田中秀人です! ミカさんのクラスメイトっす!!」
田中は、ホっとした表情とともに、元気な挨拶をしていた。
一通りの自己紹介が済むと、コンちゃんは「男が三人もいりゃ安心だ」と一升瓶片手に立ち去ってゆく。その背中を見送っていると――
「俺ら、柊達がヤバいオッサンに絡まれてるって思ったわ」
「へー。そんな中声かけるとか、やるじゃん」
田中のジョリジョリの坊主頭を撫でると、ミカもノってきた。二人で、ジョーリジョリ。
残りの男子二人も寄ってくる。
「え、俺らも撫でてよ」
「坊主じゃないからなぁ……」
田中は「坊主にしてて良かった」と、真っ赤な顔で微笑んだ。
「てか、なんでこんなに早いのー?」
撫でるのに飽きたミカが田中の頭をペシペシ叩きながら言う。
「え?だって時間おかしくね? こんな早朝から場所取り一人とか、普通に無茶じゃね?」
「つーか、元々俺ら三人で場所取り行こうぜってなってて。ミカの方が早かったけど」
「……お、お前らぁ~!!」
感極まったミカが野球部三人をまとめて抱きしめる。青春ドラマか何かみたいだけど……ミカの彼氏、ピータンが見たら発狂しそうだ。
私は鼻にツーンとしたカラシの辛みを感じながら上を見上げる。
桜は、まさに満開だ。




