第28話 お花見①
『セイヤッ!』
スマホから飛び出した謎の掛け声に、私は半分夢の中のまま目を開けた。……何?
画面を確認しようとして……諦めて毛布を被り直す。
『セイヤッ!』『セイヤッ!』
……あー。これ、LIMEの通知音かぁ。
『セイ』『セイヤッ!』
なんか微妙にムカツク。誰だ設定したの……あ、ミカだった。ついでに言うと、『ウケる』って納得したのは私である。
ウケないし。ばーか。
『セイヤッ!セイセイセイヤッ!』
「……うるさいなぁ、も~」
悪態をつきながら、私はようやくスマホを手に取る。寝起きだと顔認証が通らない。イライラしてきた。
クラスLIMEを開くと、ミカからのメッセージと数枚の写真。
『場所取り完了したよー!!』
……は? メッセージの受信時刻とホーム画面を何度も行き来しながら確認する。時刻はまだ朝5時にもなっていない。
「早すぎだって……」
今日はクラスのみんなで、お花見。集合は朝の十一時……まだ六時間以上ある。
「ぬー……ん」
ベッドの中で伸びをすると、変な声が出た。バスって、もう動いてるんだろうか? 重たい体を引きずりながら、私は部屋を出た。
* * *
手早く身支度を済ませる。雑に顔を水で洗って化粧水と乳液はテキトーに。日焼け止めと薄ファンデはマストだ。
眉も描く。何があっても描く。目元は合流してからでいいや。どうせミカしかいないし。カラコンは付ける。最近は直径小さめ。
髪はブラシしてヘアオイルだけでチャチャっと。毎日のヘアケアが今日の手抜きを助けるのだ。……たぶん?
ヨーグルトにオートミールを入れて食べていると、母が起きてきた。
「おはよ、ママ。ごめん、起こしちゃった?」
「……んー……おはよう……。大丈夫……いつもこのくらいには起きてるから……」
「もう三十分くらい遅くない?」
二人で揃って壁の時計を見上げ、何となく目を合わせて笑う。母の朝はいつも早いのだ。
「……それにしても、今日は早いのね? お花見だっけ?」
「そうなんだけど」
私は、とんでもない早朝から場所取りをしているミカの事を簡単に説明する。
「流石に暇だろうし、私も行ってくる」
「あらあらあら。そういう事なら」
私は母の送迎で公園へ向かうことになった。
目元すっぴんなので、私は黒ぶちメガネ。母はサングラスとマスクを装備。うむ、完璧だ。
玄関の鏡の前でステンドグラスのネックレスの位置を直して、軽く頷いて家を出る。
* * *
公園へ向かうと、まだ人影もまばらな中でミカが大きなブルーシートの真ん中に縮こまっていた。
「おはよ」
「えっ!? なんでぇ?!」
声をかけるとミカが首から上だけを急稼働させるみたいに、こっちを見て……そのままバランスを崩して後ろ向きに転がった。
靴を脱ぎつつ、辺りを見渡す。場所取りしてる人は意外と多いようだ。
「あ、これうちの母の気遣い」
「ありがたや~」
転がったミカをよっこいしょと起こしつつ、肩からブランケットをかける。
「お返しに、my父の気遣いでございます」
「いただきます」
差し出されたのは生姜湯だった。うーん、渋い。
「……集合時間まで、まだ五時間ほどありますが」
何故かミカが申し訳なさそうな顔で聞いてくる。ならば、すぐに駆け付けた私の事でも褒めてもらおう。
「五時間前行動の私、えらくない?」
「葉月好きぃー!!」
私達は広い公園の真ん中で、抱き合った。




