第27話 卒業式
暖かくなり、氷が解ける頃。……や、言ってみたかっただけでこの辺雪あんまり降らないんだけど。
いつも通りの日常の中、ほんの少しだけ切なさが空気に混ざってる気がした。
今日は卒業式。
お世話になった先輩へのプレゼントが数個入っただけの軽い鞄を持って私は家を出た。川沿いの桜並木は枝先に小さな蕾をつけている。
「……お花見するなら早めにしないとだなぁ」
なぜか感傷的な気持ちでいっぱいだった私の口から出た言葉は、お花見の心配なのだった。
* * *
学校へ着く。
卒業式はまだ体育館の中で行われていて、校庭には主に部活の在校生たちで溢れかえっている。
フライングで既に泣いている子もいたりして。これぞ青春って感じがした。
「おー柊!!」
友人の姿を探していると、何故か上半身裸の田中がバットを持って現れた。
下は野球のユニフォーム……かな。いや、なんで?
「……寒くないの? それ」
「普通に寒いから筋トレしながら暖とってる」
その場で高速スクワットして見せる田中は、弾けるような笑顔でそう告げた。変態にしか見えない。
少し離れた野球部の面々を見ると、マネージャーを除いて皆服を脱いでいる。漏れなく装備されているのは田中と同じくバットである。
「儀式でもするの?」
「おうっ!野球部伝統、送別のケツバットだ」
田中はプラスチックバットをペンペン叩きながら説明してくれたけど……うーん。
「普通に痛そう」
「世話になった先輩だからな。思いっきり振り抜いてやるぜ!」
悪そうな笑みから見るに、先輩というのは大半が恨まれてそうだ。
ミカの姿も見つけたけど、バレー部仲間とチア衣装を着て固まっていたので、遠目に手を振りあった。私はそのまま、友人たちの場所へと向かう。
……チア衣装で送別のエールでも送るのかな? 見れたら見てみたいかも。
じっとしてると寒いよね、なんて話をしながらグラウンドを眺めていると朝礼台を運び出しているのが見えた。
その周りには大勢の男子生徒達がたむろしている。あれは何だろう?
そうこうしてるうちに卒業式と最後のHRが終わり、卒業生たちが一斉に昇降口から歩き出す。
私がお世話になった数人の先輩たちへ、小さなプレゼントをお礼の言葉とともに渡していると、遠くからバレー部女子たちのエールが聞こえてきた。華やかな声援の傍らでは――後輩達に羽交い絞めにされた野球部が全力のケツバットを浴びていた。
「したぁああああああああ!」
パーン、という音とともに聞こえるのは……たぶん、感謝の言葉だと思う。
* * *
超絶美少女白雪姫こと、白石先輩はどこだろう? とその姿を探していると、グラウンドの朝礼台に立つ姿が見えた。
「周りの迷惑にならないよう、こちらに集まってくださーい!」
壇上に立つ白石先輩の隣には友達だろうか?メガホンを持ってテキパキと場を仕切っている。
「え、なにあれ?」
「うわー、やっば。ホントにやるんだねぇ~」
思わず口から出た言葉に、ひょっこり現れたチア姿のミカが応える。金髪ツインテール姿が可愛かったので、とりあえずギュっと抱きしめておいた。
「なにが始まるの?」
「白雪姫の告白大会だって。すっごいよねあのモテっぷり」
「えぇ……」
ミカと抱きしめあいながら話していると、紙袋をたくさんぶら下げた三山先生も隣にやって来て。
「……なんだあれ」
私と似たような言葉を呟いた。
やがてジャンケン大会が始まり、グラウンドは熱狂の渦に包まれた。その周囲では何事か?と見る在校生たちと保護者が取り囲む。
「モテるとは聞いてたが、ここまでとは思ってなかったな」
卒業生から貰ったプレゼントを、一つの大きな紙袋に入れ替えながら三山先生が言う。
「モテるっていうか崇拝だよね〜。下手に告白しようとしたら闇討ちに遭うなんて話もあったじゃん?」
「え?実際にあったんじゃなかったっけ?」
ミカと私の話に先生はドン引きしていた。
ジャンケン大会も佳境を迎え、残りは五人。司会者が告げる。
「じゃあ、残った五人で最終決戦をして――え? なに??」
司会者の耳元で、白石先輩が何かを囁いた。
「白雪姫の許可が出たので、五人! 代表してお願いします!」
そう言った瞬間――
「萌ちゃん!」「白石先輩!」「白雪姫ー!」「結婚してくれー!」「付き合ってください!」
五人がそれぞれ告白を始めた。そして最後に、
「ごめんなさーい!」
白石先輩はそう叫ぶと、壇上を軽やかに降りた。
数人の友人とともにこちらへ向かってくるその姿は英雄か、はたまた大統領か。
「人波が割れるのが面白いな。モーゼみたいだ」
三山先生は誰かから貰ったドーナツを頬張りながらそれを眺めていた。
「柊ちゃんとミカちゃんっ!!」
やがて目の前にやって来た白石先輩は、私達の姿を見るや否や、小走りに駆け寄り抱きしめてくれた。
「ついでに昌も」
「せめて先生つけろ」
三山先生はオマケで、ミカは美少女に抱きしめられて『ほおおおおお!』と興奮していた。
その場で少し話していると白石先輩はふいに言った。
「あ、柊ちゃん。ちょっとだけ二人で話していい?」
「大丈夫ですけど……」
手招きされるまま人込みを少し離れ、その綺麗な顔が私の耳元へと近づいてくる。……や、ちょっと緊張するんですけど。なんの話だろ?
「……三山先生とお幸せにね」
「はぁ!?違いますけど!?!?」
私の抗議を無視した先輩が、笑顔で去ろうとするので引き留める。この誤解は解かなければならない。
そんなドラマみたいな話があるわけないし、そもそも好きじゃないし、恋なんてものは一切芽生えていないし、私たちは良く言って勉強する生徒とコーヒーを淹れる教師なのだ。
……なんて事を恐れ多くも先輩を抱きしめて、耳元で囁いたけれど。
白石先輩は、ただニンマリと微笑んで頷くだけだった。
* * *
その後も多くの人と話を交わしつつ校門へと向かう白石先輩を遠目に見守っていると、ミカが口を開いた。
「ねぇねぇ葉月。白石先輩と何話してたの?」
「三山先生って男前だねって言われたから否定しておいた」
「えー!? 先生カッコ良いじゃん! 私好きだよ!?」
「学園の白雪姫に比べたら勝てないでしょ」
「あははー、比べたらアカンてっ!」
傍らでは三山先生が、明後日の方向を見てクッキーを齧っていた。
……やば。横顔も、結構タイプかも。




