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先生と禁断の恋、始めません。  作者: 五月雨恋
高校2年3学期

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第26話 バレンタインのチョコホールケーキ(巨大)

 バレンタイン前日の夜。

 色々と買い込んだ私は、何作ろうかと考えつつ手を動かす。レシピを検索して、ひたすら作っていくのは中々に楽しい。

 出来上がったのはトリュフ、クランキーチョコ、グミ入りチョコ。それから、チョコバーとタブレット形のチョコ。


 そして――


 大きめ……いやかなり大きいチョコホールケーキ。後片付けを手伝いがてら味見に来たママも、苦笑いを浮かべた。


「……それ、どうするの……?」


 うーん。私にも分からない。

 

「どうしよ……。家で食べる?」

「流石に三人家族じゃ無理でしょ……」

 

 チラっとこちらを見たパパは見て見ぬふりをして、ビール片手にリビングへと消えた。


 * * *

 

 朝。

 私はスクールバッグに加えて、大きめのトートバッグに入ったチョコと大きなホールケーキを手に持って家を出る。

 ホールケーキを入れる箱は、昨日パパが作ってくれた。……家にあるのが、そんなに嫌だったのかな?

 思ったより大荷物になったので、ほんの一瞬「先生に電話したら迎えに来てくれるかな?」なんて妄想をする。

 電話番号とか、知らないけど。


 時間を早めて、朝のラッシュを避けつつ電車に乗った私は、右手、左手と持ち替えながら慎重に学校へと向かう。

 ……途中で捨てて行こうかと思ったけど、『家庭ゴミの持ち込みはご遠慮ください』の張り紙に救われてしまった。


 

 教室に付くと、いつもより早く登校してる女子達で賑わっている。今日はドキドキのバレンタインデー。乙女の朝は早いらしい。

 

「私なんて、朝練終わりのオヤツ抜いてきたからねっ!」


 ふふん、とミカが言う。抜くなら朝ごはんでは? と一瞬思ったけど、そうしたら動けないか。


 友達同士で交換したり、「せっかくだし」とあまり話したことがない他クラスの女の子とも交流を兼ねて交換したり。私のバレンタインは今年も慌ただしく動き出した。

 意中の相手の机に仕込む子、下駄箱で待ち伏せに行く子、ミカは「ちょいと失礼ッ!」と彼氏のピータンの元へと走り去っていく。

 去年は私も駅で待ち伏せとかしてたなぁ……と思い出して、笑う。

 あの時は風が強くて……すっっごく寒かった。

 

 チョコはどんどん掃けていく。最後に残ったのは――。


「……ところでさ、このデッカいの、なーに?」


 一仕事終えたミカが私の机に視線を落とす。

 

「チョコホールケーキ」

「おおーっ!」


 ワクワクした顔のミカは箱をほんの少し開けて覗いて、真顔で私を見つめる。


「……えっ、なんで?」

「何となく買った型が、大きかったっぽい」

「大きすぎんかッ!?」


 お腹を抱えて笑うミカの声に釣られてクラスメイト達が集まってくる。

 見た目の評価は上々だったけれど……。後で食べようにも常温保存は不安だし、廊下に出しておくのも微妙だしどうしよう? と皆で頭を抱える。


 最終的に、田中(ハゲ)によって『本命サイズに見せかけた嫌がらせ』と命名された。

 


 やがてチャイムが鳴り、ほとんど同時に三山(みやま)先生が姿を現す。

 出席簿と紙袋、そして脇にはいくつかの小袋を抱えていた。


「おはようございます。じゃあ、これ前から順に配って」


 そう言って配られたのは一粒十円のチョコ。先生もバレンタインするんだなぁと思ったら、『お返し防止』との事だった。


「はい、じゃあ俺からはこれで終わり。今日はバレンタイン貰ってもお返し無しな。」


 クラス中からは「せこいぞー!」「大人なら三倍返しで誠意を見せろー!」なんて言葉が飛んだ。

 三山(みやま)先生はニッコリと笑うと、何事も無かったかのように出席簿を開いた。


「じゃあ出席とるぞー。青木」

「はーい」


 青木さんは返事をしつつ立ち上がり……小さな袋を教卓の上へと置いた。


「大野」

「はいはい。……原価でもこっちの方が高いと思う」


 大野さんも倣って箱を前へ持っていく。

 出席とともに先生へチョコを渡す流れになっていき、机の上に積み重なっていった。


「田中」

「ほい。……つまらない物ですが、どうぞ」

「いや、強制じゃないから。というか使いさしの消しゴムとか要らないから」


 ……途中から要らないものを渡す奴も現れた。


(ひいらぎ)

「はい」


 私も席を立ち先生の元へ――行こうとして目の前にある巨大なホールケーキが目に入った。

 視線を少し上げると、同じくホールケーキを見つめていたミカと目が合う。

 親友二人の間に会話は要らない。私は大きな箱を教卓の上へと運ぶ。

 

「……なんだこれ」

「愛がきっとチョコには収まりきらなかったんスよー」


 固まる先生に田中(ハゲ)がちゃちゃを入れ、クラスから笑いが沸いた。

 先生は私を見る。その目は「そうなの?」でなく――困惑と恐怖だった。


「あ、要冷蔵でお願いします」


 私は颯爽と踵を返して、笑いを堪えながら席へ戻る。

 途中、ミカと目が合ったので、何も言わずに軽く拳を突き合わせた。


 * * *

 

 放課後。

 掃除当番を終えて、いつものように進路指導室に行くと田中(ハゲ)とミカの姿があった。


「え、珍し。なんで?」

「やー、美味しそうだなと思いまして。お裾分け貰いにきました」

「俺も俺も。(ひいらぎ)の作ったチョコケーキ食べてえし」


 二人は部活の練習着のままソファに座る。机の上のホールケーキはもう半分以上無くなっていた。


「もうそんなに食べたの? 早っ」

「ううん。ウチらが来たときはもう無くなってたけど……」


 ミカの問いかけに三山(みやま)先生が飲み物を淹れながら答える。

 

「進路指導室に来たヤツにちょこちょこ振舞ってたからな。評判良かったぞ」

 

 田中、ミカと残りを3等分して食べる。自分で作っておいてアレだけど、中々美味しいんじゃない?

 ピスタチオのトッピングは、やはり正解だったと思う。


「ピスタチオさえ無ければ最高なのになー。俺これ苦手なんだよ」


 黙れ田中(クソハゲ)


「先生は食べなくていいの?」

「昼に食べたから大丈夫。美味かったぞ」


 私の問いかけに、三山(みやま)先生は澄ました顔でコーヒーを啜りながら「ありがとう」と添えた。

 

 * * *

 

 少しの談笑を挟んで、ミカと田中は部活へと向かう。私もいつものように机の上に勉強道具を広げて――。

 

「……なんか先生、今日静かじゃない?」


 目が合う。しかし先生は何も答えない。


「え、体調悪いの?」

「いや。ただの胃もたれ」

「なんで?」

(ひいらぎ)のチョコケーキ、いっぱい食べたから」

「……え? ふるまったんじゃないの?」

「ふるまうわけないだろ。でもすまん、半分で限界だった……」

「なんかゴメン」


 先生は眼鏡を外して大きくため息をつく。

 

(ひいらぎ)の気持ちだから、全部食べたかったんだけどな」

「いや、大きい型しか無かったからで特に意味はなくて」

「えっ」

「なんとなく作ったけど、家で食べきれないから学校で皆で食べようとして」

「うん」

「そう思ったけど、冷蔵庫ないしなーって」

「……」

「だからまぁ……こっちの方が正直、気持ちこもってます。いつもお世話になってますって感じの」


 そう言って私は、一口サイズのウイスキーボンボンを先生に差し出す。三山(みやま)先生、お酒好きそうだし。

 

「……ありがとう。でも、今日はもうチョコ食べたくない」

「ごめん」


 先生は小包を愛おしそうに見つめながら小さく息を吐き――胃薬の瓶を空けた。

 

 * * *

 

 帰り際。先生は残念ながらいつもの調子を取り戻す。

 

「……バレンタインは私、ってことで済ませても良かったんだぞ?」

「三倍返しで先生が三人に増えたら嫌なのでお断りします」

「三人になるなら、親でいいな」


 先生はそう言って、穏やかに微笑んだ。……いや、先生の親と顔合わせとかしないから。

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