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先生と禁断の恋、始めません。  作者: 五月雨恋
高校2年3学期

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24/50

第24話 冬の体育

 白い息を吐いて走る。

 走るのは苦手じゃないけど、冬の寒さは喉にキツくて、耳の穴まで何かジンジンする。


「寒ーい!疲れたーッ!!」

「運動部なのに何言ってんの?」


 お団子ヘアにした金髪をポンポン跳ねさせて、隣のミカがごねだした。


「目的のないランニングってしんどくない? どうせならさ、こう変な動きを足したら楽しいと思うんだよね!」


 そう言うと、体力を無駄に消費しそうな、とにかく無駄の多いフォームで走りだす。


「ウケる」

葉月(はづき)も一緒にやろ?」

「嫌だ」


 その変な動きは、先生に怒られるまで続いた。

 私たちは列を整えて、また走る。


「走る焼き芋たち」

「いきなりどうした」


 神妙な顔で走るミカがボソっと変なことを言い出した。


「前々から思ってたんだけどさ。ウチらの体操服ってダサくない?」

「まぁ、たしかに」


 学校指定の体操服は、トップスこそ白の半袖だけど、上着とズボンは暗めの赤いジャージだ。


「どう見ても焼き芋カラーじゃん」

「でも、ミカの金髪にはよく似合ってるよ」


 芋の中身って黄色いし。


「紫に染めたら、紅芋にランクアップできるねぇ」

「紅芋の方が上なのかな……?」


 そうやって、どうでもいい話をしながら走っていると、ふと視線を感じた。

 グラウンド脇、校舎に沿うように置かれたベンチ。

 そこで三山先生が、紙パックのジュースを飲みながら――じぃ……と、こちらを凝視していた。

 

 しばらく無視して走っていると、その姿に気付いたミカを筆頭に、各々が先生に手を振り出したので私も同調しておく。

 先生も無言で手を振り返していたけど――

 

「三山先生ー!後でジュース奢ってー!!」


 ミカがそういうと、両手で大きくバッテンを作ってそそくさと校舎へ戻っていった。

 ……何なの、あの人。


 * * *


 放課後。

 進路指導室で一冊のワークを完遂した私が大きく伸びをすると、先生が追加のお菓子を持って隣の席にやって来る。


 ……暇なのか?


「いや、ちょうど甘いものが欲しい頃合いかと思ってな」


 あれ、口に出てた? ごめん先生。


「不本意ながらグッドタイミングでございました」


 うやうやしくお菓子を受け取る。カカオ高めのチョコレート。……あ、これ丁度良いやつ。


「俺さ。(ひいらぎ)の制服姿、結構好きなんだよね」


 前言撤回。アウト発言が飛び出した。


「変態ですか?」

「違う。……いやアウトか?」


 そう言って胸ポケットからいつもの退職届を取り出すと、机の上に置いた。


「判定は任せた」


 この退職届はレッドカードの代わりなのだろうか。

 

「それでさ。今日体育の時見ていて思ったんだけど、俺(ひいらぎ)の体操服姿が一番好きかもしれない」


 続けていいとは、誰も言っていない。

 キラキラした瞳で語る先生は初めて見た海へ駆け出す少年のようだったけど、そこは立ち入り禁止の地雷地帯だ。


「……あの芋みたいなジャージが?」

「うん。芋みたいな(ひいらぎ)が……好きなんだ……」


 どこか遠い目をする先生を無視して、私は退職届を一度手に取る。

 うーん……と何度も何度も熟考(じゅっこう)を重ねて――机の上に置くと同時にふと思う。

 

 ……あ。審判の忖度って、こういう事かも。

 ルールに忠実に沿うと、三山先生は一発退場なのだから。

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