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先生と禁断の恋、始めません。  作者: 五月雨恋
高校2年3学期

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23/50

第23話 昼休みの先生

 三学期が始まった。

 一月なのに、ふと虫のことを考えた。

 冬に鳴く虫なんて思い浮かばなくて、代わりに夏の(せみ)を一瞬だけ思い出す。

 そんな朝のHRは三山(みやま)先生の淡々とした棒読みから始まった。


「あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします」

「出席取るぞー」


 新年の挨拶は、出席のオマケのように付け足されていた。


(ひいらぎ) 葉月(はづき)

「はい」


 先生は久々に私の名前をフルネームで呼んでしまっていたけど、周りがそれに気付くことはなかった。

 ……まぁ、ミカはいつもミカって呼ばれてるしなぁ。


 冬にも関わらず空は晴天だった。

 

 * * *


 昼休み。

 ミカは部活の集まりに顔を出すらしいので、一人で購買へ向かう。

 弁当じゃないのって? 母が登校日を間違えて作り忘れていたから、仕方ない。

 焼きそばパンか、フレンチトーストか。久々の購買のパンに何故か私の心はちょっぴり弾んでいた。


 購買でサンドイッチを買った私の足は、何となく進路指導室の前で止まる。

 ……先生は、ここでお昼ご飯を食べているんだろうか?

 ふと気になってドアを開けると、そこには数人の生徒と――白石(しらいし)(もえ)先輩が居た。


(あきら)の鬼!悪魔!変態!」

「誰が変態だ。辞めたいなら辞めれば良い。でも白石(しらいし)が大学に行きたいというのなら俺は魔王にだってなってやる」

「ぬぐぐ……」


 大量のプリントを抱え込んだ白石(しらいし)先輩は紙と先生を交互に見ながら苦悶の表情を浮かべる。

 ……あの先輩に厳しくする人って、初めて見たかも。あと、私も先生は変態だと思う。

 

 何してるんだろ?と私が購買の袋をプラプラ下げて見ていると、白石(しらいし)先輩が私の姿に気づいた。


「……(ひいらぎ)ちゃん!? 聞いて、コイツ酷いんだよ!! 来る日も来る日も宿題のプリント押し付けてくるのッ!!」

「うわぁ……」


 先輩がバッと見せてきたのは英語や現代文の過去問や、共通テスト形式の標準問題の束だった。


「年末年始も家に電話かけてきてさ!親に進捗確認するし!ここ最近、勉強しかしてないんだけど私!?」

「受験生なんだから当たり前だろう」


 先輩の悲痛な叫びの背後から三山(みやま)先生のツッコミが飛ぶ。


「そもそも私や(ひいらぎ)ちゃんはね、この生まれ持ったルックスで人生とか大体何とかなるもんなの!!」

「ルックスで突破出来る大学があるなら、そこに行けばいい。あと(ひいらぎ)は普通に優等生だ。一緒にするな」


 そうなの!?みたいな目が私を見る。優等生……って言われると違う気がするけど。


「……成績はちょっとだけ、良くなりました」

「同じアホだと思ってたのに……」


 ドストレートにアホ扱いされたのが面白くて、ついつい笑ってしまう。


「でも実際そんなに。勉強する癖がちょっぴりついただけです」

「それ、頭の良い人がサラっと言うやつぅ~……」


 項垂れて私の肩にポンと頭を預けてくる白石(しらいし)先輩を抱きしめると、先生と目があった。

 私は美少女の味方なので、一言いうことにした。


「乙女を泣かせるのは、良くないと思います」

「そーだそーだ!」


 白石(しらいし)先輩は即座に先生へ向き直り同調してくる。


 「鬼ー!」「悪魔ー!」

「「変態メガネー!」」


 教室なら確実に注意されるレベルの大合唱だった。

 思いつく限りの罵詈雑言(ばりぞうごん)――要するにただの悪口を、二人からぶつけられた先生は一段落ついたところで


「気が済んだら、さっさと勉強してこい」


 いつも通りの穏やかな笑みを浮かべて、それ以上は何も言わずに――そう締めくくった。


 * * *


 放課後。

 誰もいない進路指導室へ、私はいつものように足を運ぶ。


「……昼休みの方が、ここって人多いんですね」

「みんな塾とか部活とかあるし、無くてもさっさと家に帰りたいだろうからな」

 

 いつもの席に座った私の問いかけに、先生は机をゴソゴソしながら答える。

 放課後、毎日ここに入り浸ってる私はかなりの少数派なのかもしれない。


「じゃあ、私も家で勉強しようかな。問題集のコピーはお昼休みでも良いわけだし」


 思えば最近、寄り道ショッピングとかもあまりしてない気がする。

 

「……これは、放課後限定のサービスなんだがな」


 そういうと先生は小袋に入ったチョコレート菓子を私の机の上に置いた。


「お代わりも自由だし」


 加えて置かれたのはコーヒー。


「……そんなに私に来てほしいんですか?」

「いや別に」


 一瞬、先生は何か続きを言おうとして。


「……しかし、(ひいらぎ)は今日も可愛いな」


 誤魔化そうとした先で、見事に自爆した。

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