第21話 冬休みに登校してみる②
私は今まで、まったく恋をしてこなかったわけじゃない。
普通の高校生らしく、誰かを好きになったり、付き合ったりしてきた。
――そう、普通の高校生らしく。
でも、ある時ふと気づいてしまったのだ。
周りと同じように恋しなきゃって思っていただけで、実は相手のことをそこまで好きじゃなかったって。
会いたいと思ったこともなかった。
会えなくて寂しくなったこともない。
ミカみたいに、束縛したいって思ったことも――一度もなかった。
――好きって、何?
大きく伸びをして、椅子をギィと軋ませる。
……全っ然分かんないんだけど。
先生のことは、どうだろう?
初めて会った時、「あ、良いな」と思った。それは認めよう。私のタイプはああいう眠そうな目をした、背が高い癖毛男子だ。
でも中身は?
最初に二人で話した時、いきなり告白されてドン引きしたし。ドヤ顔で退職届しまう姿は……まぁ、ちょっと笑えたけど。
それからも何だかんだで、好きとか可愛いとか言われて、分かっていながら特に理由もなく進路指導室に通い続けて――気づけば、日常的に自習してた。
……赤点ギリから平均以上、ついにはクラス一桁の順位になるくらいまで。
そして今。
「先生いないかな?」なんて思いながら、休みなのに学校まで来てしまった。
これはつまり――。
ドアをノックする音に、ビクッと肩が跳ねた。
うわ、誰か来た。影の感じからして……たぶん男。
「空いてますよー!」
少し大きめの声で言う。……先生は居ないけど。
ちょうどいいし、鍵をこの人に預けて帰ろう――そう思った、その瞬間。
「柊?」
顔を覗かせたのは、ずっと会いたかった――かと言われると微妙だけど、まぁ、最近会ってなかったなと思う三山先生だった。
やめろ、ええい、やめろ。私はまだ認めないからな!?
「……休みじゃなかったんですね」
「いや、今日は休みにしてた。忘れ物したから、ちょっと寄っただけ」
ここ最近はいつもスーツ姿だったのに、今日はラフな私服。
――ふむ。この私服、ポイント高いぞ?
「しかしなんというか」
「うん?」
「柊がそこに座って、俺が部屋に入ってくるって……いつもと逆だな」
「たしかに」
二人、顔を見合わせて笑った。
さっきまで『好きかどうか』なんて真剣に考えていたせいで、私の心臓は――バックンバックンとうるさかった。
その時、先生がゆっくりとこちらへ歩み寄ってきた。
鼓動が、さらに速くなる。
先生は私の隣に立ち、少し身を屈めて――耳元で囁いた。
……いや、近いって。近いってば!
「引き出し、開けていい?」
「あ、すみません」
慌てて立ち上がり、私は息を整える。
先生は何かを探すように引き出しをゴソゴソ漁っている。
ただ忘れ物をして、自分の机の引き出しを開けに来ただけの男に、私が勝手にラブコメを展開してドキドキしているのは、どう考えてもおかしい。
……よし、落ち着け。心臓、平常運転。やがて先生は引き出しの中から一枚の紙を取り出した。
「なんですか? それ」
「んー? 美容室のチラシ。クーポン付いてるんだよ」
そう言って、チラシをピラピラと私の前で振って見せる。
――20%オフ。たしかに、でかい。
その瞬間だった。
……たぶん、美容室が悪い。
20%オフなんて大盤振る舞いをするから。
しかもカラーもパーマも対象とか、気を取られるに決まってる。
――だから私は、油断してたのだ。
「柊、大好き」
不意打ち。
いつもの、聞き飽きたはずの言葉。
なのに、その声がやけに近くて、低くて、甘くて。
頬が、熱い。
あぁもう。絶対、今の顔、朱色じゃん。




