第20話 冬休みに登校してみる①
もうすぐ冬休みが終わろうかという、平日の昼過ぎ。
私は制服を着て、家を出た。
部活にも入っていないから、長期休みのあいだに学校へ行くのは妙に新鮮だ。
前に行ったのは……夏休みの文化祭打ち合わせのときだったっけ。
――なぜ冬休みに、わざわざ学校へ?
理由は単純だ。使っていた参考書がちょうど終わってしまったので、進路指導室に置いてあるやつを数冊借りに行くだけ。
……ということにしておいてほしい。
誰もいない通学路を、いつもと違う時間に歩くだけで、なんだか世界がずれて見える。
ミカでも誘えばよかったかな、と少し後悔する。
高校の近くまで来たとき、前方からランニング姿の田中が駆けてきた。
「柊? 何してんの?」
「参考書借りに学校行こうかなって。そっちは?」
「見ての通り、部活だよ」
「陸上部だっけ?」
「野球部! 投げて打つ以外にも走るんだぞ!? ってか知ってるだろ!?」
「坊主頭だから、野球部っぽいとは思ってたけど」
「いや、実際野球部だからな!?」
「ふふ。知ってるよ」
「なんだそれ! ……じゃーな!」
そう言って田中は、また走り去っていった。
――あいつ、毎回走って去ってくよな。元気すぎでしょ。
* * *
やがて学校に着いた。そのまま進路指導室へ向かうと――電気が消えていた。
……鍵も掛かっているらしい。
数秒ほど立ち尽くして、仕方なく職員室へ向かう。
「失礼しまーす」
中は、思ったより普通だった。人は少なめだけど、空気感はいつも通り。
私の姿に気づいた数学の先生が、顔を上げる。
「おー、どうした?」
「参考書借りに進路指導室行ったんですけど、誰もいなくて」
「……進路指導室は始業式の翌日まで閉鎖だぞ」
「え、マジですか?」
「掲示板に貼ってたと思うけどなぁ。まぁいいや、そこに鍵あるから持ってけ」
先生はそう言って、棚の方を指さすと、また読書に戻った。
……暇そうだなぁ。
職員室を出る前に、なんとなく辺りを見回す。三山先生の姿は――なかった。
* * *
進路指導室の鍵を開け、心の中で「失礼します」とつぶやきながら中に入った。
いつもと変わらない部屋。――だけど、そこにいるはずの三山先生の姿はなかった。
「……変な感じ」
電気もつけず、窓から差し込む淡い光だけを頼りに本棚の参考書を探す。
いくつか手に取ったあと、なんとなく――先生がいつも座っている席に腰を下ろしてみた。
机の上には透明のデスクマット。
その下には、文化祭や修学旅行の写真がいくつも挟まれていて……その中に、私のメイド姿や教会で撮った写真もあった。
「……こんなの、挟んでたんだ。知らなかった」
指先で写真をなぞりながら、ツーショットの数を数えてみる。
――私のだけ、1枚多かった。
……たまたま、だよね?
小さく息を吐いて、気を取り直すように参考書を開く。けれど、文字を目で追っても頭には入ってこなかった。
少しだけ考えてみよう。
――私は、先生のことが……好きなのか?




