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陽の下、揺ぐ  作者: カナメ
十章 とこしえの夜語
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風は夜を越えて

※本作はすでに完結済みの長編ファンタジーです。現在、連載形式で投稿中です。物語は最後まで投稿される予定ですので、安心してお楽しみください。


そこから先のことは、よく覚えていない。


ただ、必死だった。

目の前の人を助けること。

目の前の命をつなぐこと。

ただそれだけに縋りつくように、動いていた。

 

燃え落ちる家の影で、血に染まった腕を引き。

瓦礫の下に閉じ込められた誰かの声に、耳をすませ。

逃げ惑う人々を、背中で庇いながら、走り回った。


助けられた命がいくつあったのか。

助けられなかった命が、いくつあったのか。

わからない。数える余裕も、意味もなかった。

 

ヒヨリもまた、黙って彼の背に付き従い、時に自らも不器用に手を差し伸べていた。

自分の意思で、誰かのために。


 

煌はまるで嵐のようだった。

目の前の全てを引き裂き、焼き尽くし、呑み込んでいく。


意思があるようにも見えた。だが、ないようにも見えた。

怒りでも憎しみでも、なかった。

それは感情すら持たず、ただ存在するだけの災厄だった。


黒い影は、峡谷を岩を崩しながら、破壊的に進んでいき、やがて峡谷の向こうへと、まるで何もなかったかのように消えていった。

 

煌が過ぎ去った後のヨナカノフの町には、静寂だけが残っていた。

生き残った者たちが、壊れた町の中で肩を寄せ合い、ただそこにいる。


 

夜と風の町――ヨナカノフ。


あの恐るべき「煌」が通過した直後とは思えないほど、町を包む空気は変わっていた。

峡谷に挟まれたこの町は、かつて、空を仰ぐことすらままならなかった。

天井のように覆いかぶさっていた岩の隙間から、わずかに覗く光だけが、そこに空があることを教えていた。


だが今――

 

天は裂け、岩の天井は崩れ落ち、町の上には広大な青空が開けていた。

 

黒く重かった雲はすでに流れ去り、ぽっかりと空いた空には、まるで何事もなかったかのように陽が差していた。


だが、その陽光は――

崩壊した町を照らしていた。

瓦礫と化した家々、潰された道、折れた橋、砕けた街灯……

光は優しいほどに、残酷だった。

 

そして、吹き抜ける風は、かつてのような冷たい突風ではなかった。

どこか、懐かしさすら感じる穏やかな風。

まるでこの町が、長い夜を越えて朝を迎えたかのようだった。

 

町に静寂が響く中、ミナトは崩れた屋根の影、血に染まった袖を握り締め、膝をついていた。

呼吸が荒い。喉が焼ける。視界が揺れて、何もかもが遠くなる。


けれど、まだ終わっていない。

まだ、探していない。


「…シズク……」

震える声が、静寂の中に吸い込まれていった。


ミナトは瓦礫の間を縫うように歩き始めた。

足元はまだ安定せず、何度も転びかけ、そのたびに血塗れの手で地を支えた。

光は町の隅々にまで届いていたが、捜し求める姿は、どこにも見えなかった。


「シズク……っ!」

声を張り上げる。返事はない。

ただ、風が静かに吹いていた。


その時だった。近くの家の影から、男が現れた。傷だらけの体を引きずりながら、歩いていた。


「……おいあんた、討滅団か?」

ミナトの声に、男は振り返った。

血が滲んでいたが、その眼はまだ死んでいなかった。


「…あなたは…逝導様の…」

 

「なあ、祠の場所知ってるか…?行かなきゃ行けないんだ…そこにシズクがいるはずなんだ」

ミナトが小さく詰め寄ると、男はゆっくりと頷いた。


「…町の西の外れ。峡谷の端に小さな岩山があります…祠は、その上に」


「…ありがとう」

礼を言い終わると、すぐにミナトは駆け出した。

傷ついた体が軋む。血の気が引いていくようなめまいがする。だが、止まるわけにはいかなかった。


峡谷の西端。町を突き当たったところに、確かに岩山があった。

そこだけ、まるで最初から崩壊を免れていたかのように、祠がぽつりと建っていた。


その前に、一つの姿があった。

シズクだった。


彼女は、変わり果てた町を、静かに見下ろしていた。

風に髪が揺れる。その瞳はどこか遠いところを見ているようだった。

それでも、そこにいた。


ミナトは息を呑んだ。


その姿があまりに静かで、あまりに孤独で、言葉が出なかった。


読んでくださりありがとうございます!よければ、ブクマや感想いただけるととっても励みになります!

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