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陽の下、揺ぐ  作者: カナメ
九章 夜半の風
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煌、来たる

※本作はすでに完結済みの長編ファンタジーです。現在、連載形式で投稿中です。物語は最後まで投稿される予定ですので、安心してお楽しみください。


暗い谷底の町の中を、ミナトは駆けていた。


冷たい風が頬を切り裂くように吹きつける。風に押されて揺れる町の光が、どこか不安げだった。


「すみません!すぐに家から出て、広場の方へ避難を!」

声を張り上げるたび、住民の顔が強張っていくのがわかった。中には不安げに首を傾げる者もいたが、討滅団の団員が後ろに立ち、頷いてみせると、次々と人々が動き出した。


「まさか、本当に……」

「煌が…この町に…?」

ささやきが、風と共に広がる。

誰もが半信半疑のまま、それでもその足を止めなかった。


「シズク……」

心の中で彼女の名を呟く。どこかで、祠の確認をしているはずだ。

あの強い彼女も、今は孤独な場所で、たったひとりで何かに向き合っている。


「…今は、俺にできることをやるしかない」

立ち止まり、息を整えて次の家へと向かおうとしたその時だった。


"ゴオォー……"

遠く、山が鳴った。空気そのものが低く唸り始める。


「な…んだ?」

ミナトが反射的に上を向いた。

峡谷の隙間から見える青空が、じわりと色を失っていた。

少しずつ黒に染まっている。いや、黒に染まる、というよりも、光そのものが引き剥がされるような、不気味な闇が峡谷を包み込み始めていた。


そして、街のあちこちで、光が消える。

ぼんやりと灯っていた町の灯りが、気配ごとすっと消える。

家々の灯りも、まるで何かが手をかざしたかのように、順番に、静かに、息を引き取るように。


「きたのか…」

それはまるで、巨大な何かの気配が、空から迫ってくるような感覚だった。

目には見えないはずなのに、確かに“在る”とわかる。

それは峡谷の上から、ゆっくりと谷を見下ろし、住民たちを見つめているような……そんな、底冷えするような威圧と、静寂と、絶望の気配だった。


「煌……」

ミナトは、ヒヨリの腕を引いて身を屈める。

灯りの消えた町が、風の音だけを響かせて、ひとつの呼吸の中に飲まれていく。


遠く、討滅団の拠点の方向で、誰かが警鐘を鳴らした。

その高くて乾いた音が、あまりにも頼りなく、闇の中で震えていた。


ミナトはその音に背を押されるようにして、街の細い路地を駆けた。

「…くそっ!はやく避難してください!町の中心の広場へ!」

戸を叩き、窓を叩き、叫ぶ。


言葉にならない悲鳴と混乱。

それでもミナトの声に気づいた住民は、顔を強ばらせながらも子供を連れて表に出てきた。

「広場って…本当に大丈夫なのか……」

「なんなんだよ、この音は……!」

そんな言葉も耳に入らない。

ただ前へ。ひとりでも多く、そう思っていた。

ヒヨリは何も言わず、ただミナトのすぐ後ろをひたすら着いてきていた。


「次の家は……」

そう呟いた瞬間だった。


――ゴゴゴ……ォォ……ン!


地面が鳴った。


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