煌、来たる
※本作はすでに完結済みの長編ファンタジーです。現在、連載形式で投稿中です。物語は最後まで投稿される予定ですので、安心してお楽しみください。
暗い谷底の町の中を、ミナトは駆けていた。
冷たい風が頬を切り裂くように吹きつける。風に押されて揺れる町の光が、どこか不安げだった。
「すみません!すぐに家から出て、広場の方へ避難を!」
声を張り上げるたび、住民の顔が強張っていくのがわかった。中には不安げに首を傾げる者もいたが、討滅団の団員が後ろに立ち、頷いてみせると、次々と人々が動き出した。
「まさか、本当に……」
「煌が…この町に…?」
ささやきが、風と共に広がる。
誰もが半信半疑のまま、それでもその足を止めなかった。
「シズク……」
心の中で彼女の名を呟く。どこかで、祠の確認をしているはずだ。
あの強い彼女も、今は孤独な場所で、たったひとりで何かに向き合っている。
「…今は、俺にできることをやるしかない」
立ち止まり、息を整えて次の家へと向かおうとしたその時だった。
"ゴオォー……"
遠く、山が鳴った。空気そのものが低く唸り始める。
「な…んだ?」
ミナトが反射的に上を向いた。
峡谷の隙間から見える青空が、じわりと色を失っていた。
少しずつ黒に染まっている。いや、黒に染まる、というよりも、光そのものが引き剥がされるような、不気味な闇が峡谷を包み込み始めていた。
そして、街のあちこちで、光が消える。
ぼんやりと灯っていた町の灯りが、気配ごとすっと消える。
家々の灯りも、まるで何かが手をかざしたかのように、順番に、静かに、息を引き取るように。
「きたのか…」
それはまるで、巨大な何かの気配が、空から迫ってくるような感覚だった。
目には見えないはずなのに、確かに“在る”とわかる。
それは峡谷の上から、ゆっくりと谷を見下ろし、住民たちを見つめているような……そんな、底冷えするような威圧と、静寂と、絶望の気配だった。
「煌……」
ミナトは、ヒヨリの腕を引いて身を屈める。
灯りの消えた町が、風の音だけを響かせて、ひとつの呼吸の中に飲まれていく。
遠く、討滅団の拠点の方向で、誰かが警鐘を鳴らした。
その高くて乾いた音が、あまりにも頼りなく、闇の中で震えていた。
ミナトはその音に背を押されるようにして、街の細い路地を駆けた。
「…くそっ!はやく避難してください!町の中心の広場へ!」
戸を叩き、窓を叩き、叫ぶ。
言葉にならない悲鳴と混乱。
それでもミナトの声に気づいた住民は、顔を強ばらせながらも子供を連れて表に出てきた。
「広場って…本当に大丈夫なのか……」
「なんなんだよ、この音は……!」
そんな言葉も耳に入らない。
ただ前へ。ひとりでも多く、そう思っていた。
ヒヨリは何も言わず、ただミナトのすぐ後ろをひたすら着いてきていた。
「次の家は……」
そう呟いた瞬間だった。
――ゴゴゴ……ォォ……ン!
地面が鳴った。
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