表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
陽の下、揺ぐ  作者: カナメ
五章 木陽
15/31

煌の眼

 

 二人は集落の奥まった一軒の家に通され、素朴だが清潔な部屋に腰を落ち着けた。

藁敷きの床には柔らかい布団が敷かれ、どこか懐かしいような木の香りがする。


シズクはそっと窓を開け、夕闇に染まりゆく空を見上げた。


静かな夜が、ゆっくりと集落を包み込んでいく。

風の音だけが、遠くで優しく鳴っていた。


夜が更け、かすかな虫の声と、藁を踏むような風の音だけが漂っていた。

ミナトは横になっていたが、すぐに眠りについたわけではなかった。

コハルの言葉が頭の中に何度も反響していた。


「あのひかりのこと、しってるよ」

煌。それは、ただの脅威ではない。記憶と心を焼き尽くす、名前のない悪夢そのものだった。


やがて、意識が薄れていく。



夢の中で、彼はヒノモトの神社に立っていた。

長い階段を昇りきると、目の前には古びた鳥居があり、神社の静かな雰囲気が包み込む。

ミナトはその鳥居の前に立ち、手を合わせて祈りを捧げていた。

何を祈っているのか、明確に覚えていないが、心の奥底から湧き上がる静かな想いが、手のひらを通して天へ向かっていく。


そのとき、背後から声がした。


「祈っているだけじゃ、何も変わらないぞ」

その声は、ミナトにはすぐにわかった。

父、カナギリの声だった。

振り返ると、そこには、確かにカナギリが立っていた。

ミナトの目をじっと見つめている。


だが、父の瞳が、少しずつ不気味に深くなっていく。

その視線に引き寄せられるように、ミナトは足を動かすこともできず、ただその瞳に引き寄せられるばかりだった。

そして、瞬間、視界が一変した。

カナギリの目に吸い込まれるように、ミナトの周囲の景色が消え、代わりに真っ暗な空が広がった。


次の瞬間、彼は別の場所に立っていた。

目の前には、見覚えのない、そして恐ろしい光景が広がっていた。

周囲の空気は重く、異常なほどの熱気が漂う。

彼の視線はとても高く、足元には、崩れた家々、燃え上がる木々が見える。


気づけば、ミナトは“それ”になっていた。


視界の先にあるのは、恐怖に満ちた顔。

逃げ惑う人々。

小さな村の家々が崩れていく。


違う、違うと叫びたくても声は出なかった。

自分の意思では止まらない破壊の波。

腕を動かせば、大地が裂け、

ただ立っているだけで、周囲の空気が焼ける。


火の粉が舞い、叫びが遠ざかる中、

誰かが震える声で叫ぶ。


「…あれは……“煌”だ!」

その言葉は不意に意味を持ち始める。

ミナトは“煌”として、世界を見ていた。


彼の目を通して見た景色は、まるで自分の身体が煌に取り込まれているような感覚だった。


煌は建物を粉々にしながら進み、辺りには煙が立ち込める。

その中で、幾つもの人々の悲鳴が響く。

ミナトはその力の前に無力であり、ただ破壊が進んでいくのを見守るしかなかった。


「誰か助けて……」

小さなその声が耳に届く。

だが、ミナトには何もできなかった。

涙さえも出せず、ただ煌の視点の中で見下ろすばかりだった。


そのとき、はっきりと響く声が聞こえた。


「おかあさん…!!」

その声は、コハルのものだった。


「……!!」

ミナトは、目を見開いて急に目を覚ました。

息を荒げ、胸の中に息苦しさを感じる。

汗ばんだ手を顔に押し当て、荒い息を吐いた。


そこには、シズクが静かに寝息を立てて横になっている姿があった。

彼女の寝顔は穏やかで、まるで何もなかったかのように眠っている。


「はあ…夢か…」

ミナトは、しばらくその姿を見つめた後、ゆっくりと息を整える。

夢の中の恐怖が、まだ心に重く残っていた。


※本作はすでに完結済みの長編ファンタジーです。現在、連載形式で投稿中です。物語は最後まで投稿される予定ですので、安心してお楽しみください。

気に入ったらブクマで応援お願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ