出てきたのは──。
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「いヤー、助かりましタ! ミライが助けてくれなかったラ、今頃どうなっていたカ……」
装備に付いた返り血を洗い流す俺の後ろから、ミーニャが声を掛けてくる。その格好といえば、川原の岩場ですっぽんぽん。ボロ布すら身に付けていない産まれたままの姿なので、正直言って眼のやり所に困る。
何故ミーニャがこんな格好なのかというと──。
ジャイアント・スネークを無事倒した俺らは、奴の腹がやけに膨らんでいるのに気が付いた。気になったのでナイフで腹をかっ捌いてみると、胃袋からミーニャ+αが。どうやら別れた後に食われてたらしい。素っ裸なのは胃液で服が全て消化されたからだろう。
そして、ミーニャと一緒に胃袋から出てきた+αというのが──。
「私死んじゃう私死んじゃう私死んじゃう私死んじゃうもう無理一貫の終わり何で私がこんな所で死なないといけないの私が何か悪いことしたのそうだきっとそうだでもそんなの覚えてないしじゃあ一体なんでなのまだ読み終わっていない小説だってあったのに使ってないお金もいっぱいあったのにこの世に未練たらたらなのに何で何で何で」
すっぽんぽんで精神崩壊を起こし踞っている少女。
どうやら、「食われた=死ぬ」という固定観念に囚われ、自分の生まれの不幸を呪った挙げ句の末路らしい。
『どうしよっか、お兄ちゃん?』
『どうするっつってもなぁ……』
医療は傷の手当てやその他怪我の処置くらいなら知っているが、心の傷を治す方法は身に付けていない。カウンセリングなら尚更だ。
この子を無事に家まで送り届けてやりたいが、肝心の彼女がこの状況ではどうしようも無い。
「あノー、大丈夫ですカ? しっかりしてくださーイ」
「もう無理だ私こんな所で死ぬんだこればかりは絶対に避けられないよねあはははははははははははははははははは」
まずい、そろそろ廃人寸前だ。早く何とかしないと。
こうなったら形振り構っていられない。
「ミーニャ、少しの間あっち向いててくれないか? 出来れば耳も塞いで」
「え、別にいいですケド……?」
ミーニャにそう言い聞かせ、少し離れた所で耳を塞ぎながらこちらに背を向けさせる。
『お前もちょっと耳塞いでろ』
『残念だけど、この場合お兄ちゃんが耳塞がないとこっちもシャットアウトできないんだよね。ってかお兄ちゃんこの子を正気に戻せるの?』
『少々荒っぽいうえに上手くいくか分からんけどな。まぁ、やらないよりはマシだろ』
再びミーニャを見てこちらを向いてないことを確認すると、少女の目前に立ちはだかる。
「あはは私何でここにいるんだろ私は死んだんだよダメだよね死んだやつが出てきちゃ死んでなきゃねあはははははははははははは」
感情を処理できない人類はゴミだと何処かの貴族主義者は言った。だから、俺がそのゴミとやらを浄化しよう。感情を処理出来るようにしよう。
※ここから少しの間台詞のみでお楽しみください。
「ひっ!? な、何!? ちょっ、どこ触って……んんっ! ん……ら、らめぇ……! んあっ!? いや……やめ……ひぅっ……! これ……以上は…………ああぁんっ!!」
──何とか終わった。
額の汗を拭うと、少女の顔色を窺う。
焦点の合っていない虚ろな瞳は熱っぽく潤み、頬は紅葉のように赤く染まっている。口からは一本の唾液が垂れ、大変にエロティ──ゲフンゲフン。
取り合えずさっきよりはマシみたいだ。
『いや、これ明らかに悪化してない?』
『俺にはそうは見えないが……』
確認の為、少女の眼前で手を振ってみる。
「あ……あれ? 私、どうしてたんだっけ?」
「あ、よかった。正気に戻ったみたいだな」
何はともあれ、これで話が進む。
「あの……私、草原でビッグバイパーに襲われたんですけど……」
「ビッグバイパー? ああ、あれのこと?」
「あ、はい。そうです」
後ろで頭部半分をえぐりとられたジャイアント・スネークを指差すと、少女は首を立てに振って肯定した。どうやらあのジャイアント・スネークの正式名称はビッグバイパーと言うらしい。
「でも……襲われてからの記憶が無くって……」
「ああ。俺らも襲われたんだけど、何とか倒したんだ。で、腹が膨れてたんで裂いたら君とあそこの猫人が胃袋から出てきたんだよ。素っ裸で」
「すっぱ……? って、ひゃわわっ!? な、何か下隠すものくださいっ!!」
俺に素っ裸なのを指摘された瞬間、少女は酷く狼狽し始めた。どうやら素で気付いてなかったらしい。
取り合えずリュックからタオルを出して渡してやる。
「うぅ……っ! 他人に恥ずかしい所見せちゃいました……」
少女は酷く赤面した。
「いや、別にいいよ。気にしないで」
「す、すいません……。ところで、何かさっきから身体中が精気に満ち溢れる気がするんですが……?」
「き、気のせいじゃない?」
まずい、やはり感じていたか。間違ってもさっきの行為のせいとは言えない。
しかし、適当に流したのが功を奏したのか、それ以上少女が追求してくることはなかった。
「てか、草原って暑いな……。えっとタオルタオル……」
からん。
と、リュックからタオルを出そうとした時、何かが地面に落ちて渇いた金属音を立てた。
それは昨日、森で謎の少女と戦った際の戦利品であるビキニアーマーの上だった。何だかんだあって拾っていたのを忘れていた。
その時、少女の顔から血の気が退いた。
「そ、それ……私の……。何で持ってるんですか……?」




