ギルドに行きました。《画像 美羽》
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「ミライ、なんか気分悪そうですネ。何かありましタ?」
「お前は昨日自分が何をしたのか覚えとらんのか」
今、俺達二人は大勢の人が賑わう通りを歩いていた。
しかし、身体がとてつもなくダルい。
理由なんて知れている。隣にいる猫耳生やした「ミ」で始まって「ャ」で終わるやつのせいだ。
脳内で見ていたが、昨日はあのあとミーニャの唇が妹のそれに触れる直前に、ミーニャに悪酔いの反動が。
それによってぶちまけられた吐瀉物を諸に食らい、妹も貰い嘔吐。
それらの処理に加え再びシャワーを浴びなければならなかったので、結局就寝できたのは夜中。ダルくなるのも当たり前だ。
ちなみに妹はまだ脳内で寝ている。妹は休みの日は昼近くまで寝ている程の低血圧なのだ。
「すいませン。昨日のDinnerの後の記憶は朧気にしか覚えてなくテ……」
「まぁ、昨日のはミーニャが悪いんじゃない。酒が悪い。あと、ミーニャは酒禁止な」
「はイ、以後気を付けまス」
気を落とすミーニャの肩を叩き更に歩を進めると、目の前に屋台市場が姿を現した。
ぐぅー。
それと同時に鳴る腹。分かってる、食欲を欲しているのだろう胃よ。
「ミーニャ、ちょっと屋台で何か買ってかないか?」
「あ、いいですネ! じゃア、さっそク!」
と、ミーニャは一番近くの屋台に駆け出した。暖簾を見ると、堂々とした明朝体での《焼き鳥》の文字が。ファンタジー設定仕事しろ。
「すいませーン! 焼き鳥2本くださーイ!」
「あいよ! ちょっと焼くから待ってな嬢ちゃん!」
屋台を覗き込むと、店主も法被に捻り鉢巻きという出で立ち。だからファンタジー設定仕事しろ。
「おらよ、焼き鳥3本! 1本は嬢ちゃんが可愛いからサービスだぁ!」
「いヨッ、大将太っぱラ!」
ミーニャ、お前はアメリカのオハイオ出身と言ってなかったか。
「はイ、こレ。ミライに1本あげまス!」
「おっ、サンキューな」
折角のご厚意なので受け取って口にしてみると、これが中々美味い。部位は知らないが、オーソドックスなタレの味が濃厚かつ鶏肉の旨味を引き立てており、実に美味。
「じゃあ、俺はこっちで」
そう言って1つの屋台に向かって歩き出す。その屋台の暖簾には、《豚汁》の文字。ファンタジー設定は職務放棄したようだ。
「おばちゃん、1杯頂戴!」
「はいよ。私の豚汁はハルトーバ最高の味だから、きっと病み付きになるわよ?」
お代の150円を渡すと、熱々の豚汁入りの器を手渡された。
早速啜って見ると、味噌の旨味が堪らない。豚肉も程よく脂が抜けており、舌の上でとろけていく食感がこれまた堪らん。
断言する。豚汁は美味い。
「おばちゃん、ご馳走さま!」
「ありがとねー。毎日やってるから、良かったらまた来てねー」
「ええ、いつか近いうちに!」
器を返してミーニャと合流すると、再びある目的地を目指して歩き続ける。
道に迷うかと思ったが、ミーニャがこの町の地図を持っていたのでそんなことはなかった。何だかんだで目的は同じらしい。
そして歩くこと数分。
「やっと着いたか……」
俺達の目の前に現れたのは、他とは一線を凌駕した雰囲気の建物。
看板には《冒険者ギルド》の文字。ファンタジー設定は職務復帰したようだ。
ここにきたのは言うまでもなく、冒険者になるためだ。
昨夜寝る前に妹と相談した結果、ファンタジーではよくある事だし面白そうでやり甲斐がある、ということで冒険者になることに決めたのだ。
聞くとミーニャも冒険者志願でこの町にやって来たらしく、折角なので冒険者になったらパーティ組もうということで意気投合。
そして今に至るという訳だ。
早速中に入ると、予想通り人が混雑していた。結構、というか殆どはパーティで談笑しており、入りにくさは意外にない。
「あ、そこのお二方。冒険者登録の申請でしょうか?」
辺りを見回していると、受付らしき所から声を掛けられた。
「はい、その通りです」
「そちらの方も同様ですか?」
「はイ、そうでース!」
「では、こちらに必要事項の記入を」
そう言って、受付嬢は俺達2人に一枚の紙を手渡した。
そこには、実名・年齢・生年月日・出身地など、多岐に渡る項目が。
しかし、一番眼を引くのは最後の項目。
《あなたは異世界出身ですか?》
『はい・いいえ』
「あの……すいません」
「はい、何でしょう?」
「ラグナノヴァって異世界出身の人……多いんですか?」
「はい、その通りでございます。実際の所、10000人に1人と数は少ないですが。異世界出身といって差別や迫害、偏見はありませんのでご安心を」
「ご親切にどうも。えっと……じゃあこれで」
一応全ての項目を埋め、受付嬢に返却する。
「えっと……ミライ・ニノミヤ……。では、こちらの名前で登録しますね」
返却した紙を見ながら、受付嬢は受付横の機械に何やら打ち込んでいく。ミーニャの紙も同様だ。
「では、申請完了まで10数分かかりますので、しばし時間をお潰しなさってください。あ、それとニノミヤ様」
「はい?」
「運送ギルドから、貴女様にお荷物が届いております」
「荷物? 誰からだ?」
受付嬢は一旦奥に消えると、複数の荷物を持って戻ってきた。
抱えられないと持てない程の箱に、手の平サイズの箱、その中間の箱と、布で巻かれた細長い物体が1つずつ。
差出人は不明。伝票には、確かに「ニノミヤ・ミライ宛」と書かれている。
「あの、ここで開けてもいいですか?」
「構いませんよ」
「じゃあ早速……」
まずは、一番小さな箱を開けてみる。
見ると、中に入っていたのは水晶のような宝石の付いた髪飾り。人間界でのサクラをイメージした形状をしている。
「それはMPアップのアイテム、『桜花の結晶』ですね」
「あ、この世界MPとか存在してたんだな。で、これってどんな効果があるんですか?」
「最大MPの上限を元MP上限に50%プラスの値に……。これ、普通は100万は軽く越える品ですよ」
「げっ、そんなにレアなアイテムなのかこれ。じゃあ次は……」
今度は一番大きな箱を開けてみる。
入っていたのは、冒険者装備が上下一式。
「それは特に特別な品では無いですね。普通の冒険者装備よりは高価ですが」
「こいつもか……。これって着れるの?」
「このタイプは手を触れれば自動的に着れますよ」
「なるほど……便利なもんだな」
受付嬢の言う通りに箱の中の冒険者装備に触れると、瞬きする間も無く着替えが完了していた。
要所要所はアーマーで守られた革製だが、運動性は抜群のようだ。ブーツやショートパンツ、腰に装備されたマントなど、冒険者らしさが満載されてて素直に嬉しくなる。
「それじゃ、次は……」
次に開けたのは、中くらいの箱。大きさのわりにずしりと重いそれの中身は、2丁の小型銃。やたらとメカメカしいデザインで、接近戦も考慮してか銃身の下部にはナイフのような刃も装備されている。
「それは、MP変換型ショートライフルですね」
「MP変換型?」
「つまりはMPを銃弾に変換して発射する銃です。MPが多ければ多いほど打てるのが利点ですね。リロードをする手間もありませんし」
「なるほど。じゃあ、最後のこれだな」
最後に残ったのは、布に巻かれた細長い物体。
恐る恐る布を巻き取ってみると、姿を現したのは1本の刀だった。
しかし普通でないのは、鍔が龍の形を模した装飾になっていること。明らかに普通の刀では無いことは想像がつく。
「そ、それは……」
突然、その刀を見た受付嬢が狼狽し始めた。まさか、それほどの代物だというのかこれは。
「あの……その反応からして、この刀とんでもなさそうな気がするんですが」
「は、はい。その通りです……。でもまさか、こんな所で眼にできるなんて……」
「一体、これどんな刀なんですか?」
俺がそう聞くと、受付嬢は冷静さを取り戻し、真剣な表情で告げた。
「その刀の銘は『覇龍』。ラグナノヴァに19工しか存在しない、『超級大業物』の1本です」




