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The Collapsing Univers ー崩壊宇宙ー  作者: よしぞう
第1章 蒼いグリアラール

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第6話 マハラジャ・スペース・カンパニーの謎の実験機

 ガーディアン警備保障に所属する中型警備船、アークエンジェルⅨ号は、廃墟となったフォースコロニーの横を通過した。


 全長約420m、重量5万9千トンのこの船には、軍の巡洋艦並みの武装が施されている。さらに、艦載機として6機の戦闘機を搭載可能で、相手が海賊程度であれば、簡単に殲滅することができた。


 アークエンジェルⅨ号は、サードコロニーの作業艇の列と10kmほど離れてすれ違った。


 この距離は、広大な宇宙空間においては十分にニアミスと言ってもよかったが、まあ、お互いに低速で航行していたため、危険はなかった。





 その船内の格納庫では、別の騒ぎが起こっていた。


 船首から中央部にかけて、船内を貫くように広大な格納庫が造られている。


 そこには、ガーディアン警備保障が正式採用しているセントラル・ダイナミック社製の戦闘機が4機、きちんと並べられていた。


 人間で言うところの足の位置に取り付けられているスタビライザーウィングは、まるで足を前に投げ出して座っているかのような状態で折り畳まれている。


 そうしないと、場所を取って仕方がないからだ。


 船内の有人区画はすべて1G環境に設定されていたが、この格納庫だけは0.3Gという低重力状態になっていた。


 なぜそのような中途半端なことをするのか?いっそのこと無重力にすればいいのに、と思うかもしれない。


 しかし、無重力にすると、いろいろと困った事態が続出する。


 無重力では、細かな部品や工具を落としたときに、どこかへふわふわと飛んでいってしまう。


 それがほかの機体や機械の隙間に入り込んだりすれば、事故や故障の原因になるわけだ。


 ありとあらゆる物をしっかりと固定する手間を考えれば、低重力の方がいろいろと便利な点が多い。


 少なくとも、物を落としても、ゆっくりと床に落下するのだから、見つけやすい。


 その格納庫の一番奥には、1機だけ、まったく違う形の戦闘機が置かれていた。


 その機体は、ほかの4機よりもサイズが二回りも大きく、一目で試験段階の新型機だと分かる。


 4機のガーディアン警備保障の戦闘機には、当然、会社の整備員たちが取りついて作業をしていたが、その新型機には、まったく違う作業着姿の人間たちが張りついていた。


 彼らが着ているのは、マハラジャ・スペース・カンパニーの作業服。それも、開発部のものだった。


 マハラジャ・スペース・カンパニーとは、宇宙戦闘機や宇宙船などを製造している会社で、ソロマニ帝国の企業だが、主にルーニオン惑星同盟や中立星系向けの戦闘機や艦艇を多く製造していた。


 この時代は、いくつもの軍需産業が宇宙に存在していたが、基本的には、どこの国であろうと注文があれば兵器を製造・販売していた。


 どの国も少しでも高性能な物を少しでも安く、そして大量に購入したいので、主力兵器を購入する際には、取引先を一つの企業に絞り込むことが多かった。


 それでも、時々、その贔屓にしている企業が調子に乗って商品の値段を不当に引き上げたりすると、ほかの会社の製品を買ったりすることもあったが。


 さらにソロマニ帝国を例にとって説明をすると、この大国の中には二種類の軍隊が存在した。


 ひとつは帝国軍で、その名の通り、ソロマニ帝国元老院の指揮下にある正規軍だ。


 そしてもう一つは、帝国領の各星系が保有する星系軍だった。


 こちらは平時は各星系の航路の安全確保や治安維持を行い、戦時になると、ソロマニ帝国宇宙軍に編入されることになっている。


 そして、ソロマニ帝国宇宙軍はセントラル・ダイナミック社の戦闘機を主力戦闘機として採用していたが、高性能だが値段が高いため、各星系宇宙軍は同じものを採用することが難しかった。


 そこで、そこそこ性能が良くて、お手頃価格なマハラジャ・スペース・カンパニーの戦闘機を採用している星系宇宙軍が複数あったのだ。


 であるので、今ガーディアン警備保障の警備船内に実験機があるということは、普通に考えれば帝国宇宙軍かどこかの星系宇宙軍に売り込みに行く途中と考えるのが普通だった。





 格納庫内には、戦闘機だけではなく、それらを整備するための機材や、さまざまな部品も置かれている。


 その間を縫うように、マハラジャ・スペース・カンパニーのつなぎを着た女性が歩いていた。


 年齢は30代前半で、かなりきつめの顔つきをしている。だが、彼女を美人だと言っても、反発する人間は少ないだろう。


 その彼女の進路上にある1機のセントラル・ダイナミック社製戦闘機の足元では、ガーディアン警備保障の整備員たちが何やらもめていた。


「どうしたの?」


 気になった彼女が、整備員たちに近づいて話しかけた。


「あっ、マハラジャさんのチーフ」


「何かトラブル?」


「ええ、どうもこいつの右足、スタビライザーウィングの調子が悪いんですよ」


「原因は?」


「どうも、動力伝達系の部品がやられたみたいですね」


 整備員はそう言って、自分の身長より、10倍以上も背の高い戦闘機を見上げた。


 セントラル・ダイナミック社製のSFー10スペースタイガー。最新型ではないが、ソロマニ帝国宇宙軍の主力戦闘機であり、現在は後継機の新型宇宙戦闘機SFー11イーグルとともに、第一線に配備されている。


「修理はできないの?」


「それが、難しい場所なんですよ」


 何せ、ソロマニ帝国宇宙軍でも旧式とは言え主力戦闘機として使われているほどの機体だ。


 おいそれとは分解できない箇所がいくつかある。


 そういった箇所の修理は、セントラル・ダイナミック社の工場に持ち込んで直してもらうか、逆に技術者に来てもらって修理してもらうしかない。


「ちょっと、ちょっと、困るわよ。いざというときに動かないなんて、どうするの?」


「これから入るコロニーに腕のいい整備士がいるんで、そこで見てもらおうと思っています」


「そんな、セントラルの戦闘機を民間で直せる人間がいるの?」


「ええ、けっこう有名な人ですよ。マハラジャさんはこの付近には来ないでしょうから、知らないでしょうけど」


 整備員たちはそう言って、お互いに顔を見合わせてうなずき合った。


 何だか、自分だけ仲間外れにされたようで面白くない。


「フンッ。セントラルの戦闘機なんて、コストが高い割に故障が多いんだから、うちの会社の機体を使えばいいのに」


「こればっかりは、俺たちにはどうすることもできませんよ」





 チーフは彼らに「早く直してね」と言ってから、格納庫の一番奥にある、自社の最新鋭機のところまで移動した。


 0.3Gという低重力のため、すり足のような感じで歩かないと、飛び跳ねてしまう。


 別にスカートを履いているわけではないので、それでも構わないのだが、低重力環境下でピョンピョンと跳ねながら歩く人間は「バッタ」と呼ばれて馬鹿にされる。


 それは彼女のプライドが許さないし、宇宙で働く整備士にとっては、最も屈辱的なことだった。


「やっぱり、この子が一番よね」


 思わずハートマークが浮かび上がるような台詞を口にしながら、彼女はひときわ大きな戦闘機を見上げた。


 この機体に張りついているのは、マハラジャ・スペース・カンパニーの整備員だけだ。


 アークエンジェルⅨ号の乗員は、近づくことすら禁止されていた。


「衣舞、衣舞っ!!」


 両手でメガホンを作り、そう大声で呼んだ。


「ハァ~イ」


 少し間が空いて、間の抜けた返事が聞こえてきた。


 開いたままの装甲ハッチから、ヒョコッと女子整備士が顔を出した。


 そして、下を見下ろしてくる。


「調整は終わったの?」


「もちろん、全然ですよぉ」


 笑顔で、衣舞と呼ばれた女子整備士がそう答えた。


 その直後、チーフがジャンプした。


 一気に20mも跳べるわけではないので、途中で機体のさまざまな部分を足場にしながら、コックピットまでやって来る。


「よく聞こえなかったんだけど?」


 笑顔のまま額に血管を浮かべたチーフが、衣舞に顔を近づけた。


「アハハハハ、さっぱりです」


「ふぅ~ん。今の季節の宇宙空間って、寒いでしょうね」


「先輩、笑顔が怖いですよ。ついでに言うと、宇宙空間に季節はありません」


 大量の冷や汗を流しつつ、衣舞が後ずさる。


 小柄な彼女は、大柄なチーフに押し込まれるようにして、コックピットの中に入った。


 そこは、戦闘機にしては珍しく前と後ろにシートがある複座だった。


 これは実験機にはよくある配置で、テストパイロットが機体を操縦して、エンジニアなどが後席に座って機体の状況を逐一記録できる仕様になっている。 


「先輩じゃないでしょう。チーフ、もしくは主任と呼びなさい」


「はぁい、チーフ」


 大量の冷や汗を流しつつ衣舞がそう答えると、ようやくチーフは顔を離した。


「まったく、あなたは頭はいいけど、グズなのが玉にきずよね」


「でも、この機体ってゴチャゴチャしてて、これで本当に動くの、って感じなんですよぉ」


「自分のところの機体を、そんなふうに言うんじゃありません」


「すいませぇん」


「この機体は特別なことに使われる特殊なものなの。もともと量産するつもりなんてないんだから」


「それで、こんな生産性の悪そうなパーツばっかり使ってるんですね。まったく、調整する前に、動くようにするだけで精一杯ですよぉ」


「あなた、この子のこと嫌いなの?」


「いいえ。ただ、面倒くさいだけです」


「…………一度、生身で大気圏突入を試してみる?」

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