EP 9
詐欺結社の解体。一億円の請求と、マグローザ漁船(地下懲役)
魔王城から三キロ離れた、安全な後方地帯の小高い丘。
ADPの首謀者である円城寺明は、設営された超豪華なVIPテントの寝椅子に深く腰掛け、バカラ製のグラスで高級ワインを揺らしていた。
「……おかしいですね。映像が途絶えましたよ」
円城寺が、完璧にセットされたツーブロックの髪を撫でつけながら眉をひそめる。
先ほどまで、魔王ラスティアの『グラビティ・プレス』によって数万人の会員たちが地面に這いつくばる最高のショーが映し出されていた魔導スクリーンが、突如として砂嵐に変わっていたのだ。
「通信エラーですか? まあいいでしょう。十分に絶望(敗北感)は与えました。……さあ、幹部の諸君! ボロボロになって逃げ帰ってくる会員たちを、最高の笑顔と『次こそ勝てる!』という魔法の言葉で出迎えなさい! 第2期討伐隊の追加集金フェーズのスタートです!」
円城寺が立ち上がり、純白のタキシードの埃を払う。
その時だった。
ズバァァァァァァンッ!!!
VIPテントの入り口の分厚い防刃生地が、まるで紙切れのように引き裂かれ、強烈な突風と共に吹き飛んだ。
「なっ!? なんだ!?」
円城寺と数人の幹部たちが、驚愕して入り口を振り返る。
舞い散る土煙の中から、タローマンジャージのポケットに両手を突っ込んだ無精髭の男――俺が、ゆっくりとした足取りでテントの中へと足を踏み入れた。
俺の背後からは、タローマンの鉄鎧を纏った勇者ユートが、簀巻きにされた二人の男(火原と鮫島)を両手に提げて入ってくる。
さらにその後ろには、返り血(※魔王城の扉やゴーレムを粉砕した際の破片)を浴びた特売芋ジャージ姿の世界神ルチアナと、極貧アイドル人魚リーザが、完全に『その筋の取り立て屋』の瞳孔を開いてヌッと顔を出した。
「ひっ……! さ、鮫島!? 火原!? お前たち、なぜそんな無様な姿で……!」
円城寺が、ユートの手からボロ雑巾のように放り出された部下たちを見て、顔を引き攣らせた。
「え、円城寺さぁぁん……! 逃げてください、こいつらバケモノです……! 魔王のヤラセも全部バレてます……っ!」
「俺たちのスキルじゃ太刀打ちできねえ……! この現場監督、頭のネジが外れてやがるんだよぉっ!」
涙と鼻水まみれで這いつくばる詐欺師コンビ。
その報告を聞いた円城寺の顔色が一瞬だけ青ざめたが、すぐに『カリスマ詐欺師』としての強靭な営業スマイルを取り戻した。
「……なるほど。少々イレギュラーな事態が起きたようですが……あなた方が、私のビジネスモデルにケチをつけに来た野蛮な方々ですか」
円城寺は、ワイングラスをテーブルに置き、両手を広げて大げさな身振りを交えながら俺へと語りかけてきた。
「素晴らしい行動力です! その圧倒的なバイタリティ、まさに成功者のマインドセット! ……どうです? 暴力で解決するより、私と一緒に『ウィンウィン』の関係を築きませんか? あなた方を私の組織の『特別エグゼクティブ』として優遇しましょう。何もせずとも、毎月金貨千枚が転がり込む不労所得のシステムを……」
「口を閉じろ、三流が。お前のペラペラな建材(営業トーク)を聞きに来たんじゃない」
俺は、懐から取り出した『丸めたルナミス新聞』で、自分の肩をポンポンと叩きながら、円城寺の言葉を冷酷に遮った。
「俺は、請負業者(ADP)に対する『完了検査』に来たんだ」
「……完了、検査?」
「ああ」
俺は、無造作にテントの中央へ歩み寄り、円城寺の目と鼻の先で足を止めた。
「ついさっき、お前らが依頼(募集)した『魔王討伐プロジェクト』の最終工程を、俺のパーティーが完了させてきた。……魔王ラスティアは現在、うちの『取り立て屋』のテキサスクローバーホールドによって背骨を粉砕され、玉座の間で泡を吹いて気絶している」
「…………は?」
円城寺の完璧な営業スマイルが、ピシリと凍りついた。
「ま、魔王が……倒された? バカな……あいつは裏取引でプロレスをする手はずだったはず……! それに、あの絶大な魔力と防衛設備を、お前らみたいな数人のチンピラが突破できるわけが……っ!」
「おい、魔王を倒したぞ? さっさと『一億円(金貨一万枚)』の懸賞金を払え」
俺が、右手の平を円城寺の目の前にスッと突き出す。
正当な報酬の請求。
現場監督としての、一切の妥協を許さない『債権回収』の宣言である。
「な、舐めるなァッ!!」
ついに円城寺が余裕を失い、顔を真っ赤にして激高した。
「たかが底辺の土方崩れが、私に指図をするな! 私の【熱狂空間】で、お前らのその貧相な脳髄を完全に洗脳して……!」
ブゥゥゥゥンッ!!
円城寺の全身から、先ほど数万人を狂わせた精神干渉のオーラが最大出力で放たれる。
「ひれ伏せ! そして私のために一生タダ働きする奴隷となれぇぇっ!!」
「うるさい」
ポカッ!!
俺は、丸めたルナミス新聞の角で、円城寺の完璧にセットされたツーブロックの側頭部を、スナップを効かせて強烈に引ばたいた。
「あべっ!?」
情けない悲鳴と共に、円城寺が吹き飛び、高級なテーブルに突っ込んでワインボトルを粉々に粉砕した。
最大出力で放たれたはずの【熱狂空間】の洗脳波は、俺の『絶対的なコンプライアンス(論理)』の壁の前に、そよ風以下のノイズとして完全無効化されていた。
「な、なぜだ……!? なぜ私の洗脳が効かない……っ!」
「言ったはずだ。お前の引いた図面は、基礎から腐っていると」
俺は、床に這いつくばる円城寺を見下ろし、冷酷な宣告を下した。
「討伐不可能という前提で募集をかけ、手元に『一億円』の懸賞金(予算)すら用意していない。……これはただの誇大広告(詐欺)だ。予算の裏付けもないのに下請けを現場に突っ込ませるようなクソ元請けは、業界(この世界)から永久追放されるのがルールだ」
「ひぃっ……!」
「さあ、払え。一億円だ。もし金がない(不渡り)と言うなら、お前のその無駄に白いセラミックの歯から、内臓の隅々まで解体(換金)して回収することになるが」
俺の背後で、リーザが【お賽銭箱型掃除機】のノズルをチャキッ!と構え、ルチアナが指の関節をバキバキと鳴らす。
「あ……あ、あ、ありませぇぇんっ!!」
円城寺が、純白のスーツを泥とワインで汚しながら、無様に土下座をして泣き叫んだ。
「一億円なんて持ってるわけないじゃないですかぁっ! 集めた金貨のほとんどは、魔王へのキックバックと、犯罪組織の幹部への上納金に消えてるんです! 私の手元には、もう金貨数枚しか残ってないんですぅぅっ!!」
「あーあ。完全に『破産』宣告ね。……リーザ、やっちゃいなさい」
「はいですの。……命(魂)ごと、吸い尽くしてやりますのぉぉっ!」
極貧コンビが、ついに詐欺結社の首謀者へトドメを刺そうと襲いかかる。
だが、俺は片手で二人を制止した。
「待て。……こいつは、ただ殺して(吸い尽くして)終わらせるには、あまりにも多くの人間(建材)を粗末に扱いすぎた」
俺は、タローマンジャージのポケットから、一枚の『魔導契約書』を取り出した。
それは、オルウェル内務官(ルナミス帝国警察)経由で手配しておいた、国際的な『労働者派遣契約書』である。
「円城寺明。そして火原元、鮫島剛。……お前らの犯した施工不良(詐欺)と、数万人の冒険者を危険に晒した罪。……完全なる『ギルティ(有罪)』だ」
俺が契約書を円城寺の顔面に叩きつけると、そこには恐ろしい赴任先の名前が記されていた。
「てめえらには、シーラン国の『マグローザ漁船』に乗ってもらう」
「マ、マグローザ漁船……っ!?」
鮫島と火原が、白目を剥いて泡を吹いた。
円城寺も、その最悪の懲罰施設の名前を聞いてガタガタと震え出した。
「う、嘘だろ……! あそこは、一度乗ったら借金を返すまで一生陸には上がれない、海の底の強制労働施設(ブラック現場)……! ふざけるな、私はエリートだぞ! そんな潮臭い底辺の仕事など……っ!」
「船内通貨は『K』らしいな。……安心しろ、お前らの得意な『労働搾取(ネズミ講)』や『地下チンチロ』が横行している、実力主義の素晴らしい現場(職場)だ。そこで一生かけて、一億円分の汗と血を流してこい」
俺が顎でしゃくると、勇者ユートが「オオッス!」と威勢よく返事をし、円城寺の首根っこを掴んで軽々と持ち上げた。
「い、いやだぁぁぁっ! マグローザの餌にはなりたくないぃぃっ! 助けて、助けてくれぇぇっ!」
「往生際が悪いですの! 私の【貧乏神】のスキルで、お前らの運気を『一生大不漁』に固定してやりますのぉぉっ!」
リーザが、泣き叫ぶクズトリオの背中に向かって、容赦のない呪い(デバフ)を叩き込む。
ユートに引きずられていく彼らの悲鳴は、夜の魔皇国に虚しく響き渡り、やがて完全に聞こえなくなった。
「……ふぅ。これで、腐った違法建築(ADP)の解体工事は完了だ」
俺は、誰もいなくなったVIPテントの中で、大きく伸びをした。
数万人の洗脳された冒険者たちは、魔王城のプロレスが崩壊したことと、円城寺の失脚を知り、今頃になってようやく正気を取り戻して散り散りになっていることだろう。
「トリス、お疲れ様。……でも、結局私たち、一億円も、騙し取られた金貨十枚も返ってこなかったわね……」
ルチアナが、肩を落としてため息をつく。
詐欺に遭った金は、大半が魔王のオタ活と、見えざる犯罪組織の闇の中へと消えてしまった。
「……まあ、仕方ないですの。あの詐欺師どもがマグローザ漁船で地獄を見るなら、それで少しは溜飲が下がりますの」
「気にするな。……お前らが失った『金貨十枚(十万円)』くらいなら、俺の現場(ポポロ村)の経費から立て替えてやる。ただし、明日から時給千円で畑の開墾作業(肉体労働)をしてもらうがな」
俺がニヤリと笑うと、極貧コンビがパァッ!と顔を輝かせた。
「ほ、本当!? トリス、あんたってやっぱり神様より神様だわ!」
「一生ついていきますの、現場監督様ぁぁっ♡」
泣きながら俺のジャージにすがりついてくる二人を引き剥がし、俺はテントの外へと歩き出した。
「よし、今日の残業はここまでだ。……ポポロ村に帰るぞ。ルナミス帝国との国境沿いにある『太郎握り(回転寿司)』で、大々的な打ち上げだ」
最強の現場監督と、愉快で強欲な職人たちによる、詐欺結社の完全解体工事。
その見事なまでの『ざまぁ』の結末は、俺たちの満面の笑顔と、回る寿司への果てしない食欲と共に、最高のフィナーレ(宴会)へと向かっていくのであった。
読んでいただきありがとうございます。
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