↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
72/81

EP 7

 重力崩壊グラビティ・プレスと、最強の免震基礎

 アバロン魔皇国、魔王城前広場。

 魔王ラスティアが指パッチン一つで放った超広域重力魔法『グラビティ・プレス』によって、一億円の夢に目が眩んだ数万人のADP会員たちは、まるで見えない巨大なハエ叩きで叩き落とされたかのように、地面に這いつくばっていた。

「ぎぃぃっ……! か、体が……っ!」

「息ができない……! これが、魔王の力……っ!」

 悲鳴と呻き声が広場を覆い尽くす。

 だが、その絶望のドームの中心で、トリスたち『ホープ・クローバー』の面々だけは、タローマンジャージのポケットに手を突っ込んだまま、余裕の態度で直立していた。

「な、なんで……!? なんであんたたちだけ、私の重力魔法が効いてないのよぉっ!?」

 はるか上方のバルコニーから、魔王ラスティアの裏返った悲鳴が響き渡る。

 威厳たっぷりの魔王マントの下に隠されたスウェットパジャマの裾が、ガクガクと震えているのが、俺の視力(空間把握能力)にはハッキリと見て取れた。

「……簡単な構造力学だ」

 俺は、足元の石畳をトントンと『特注安全靴』の爪先で叩いた。

「上空からの過重プレスが強大なら、それを受け止める『基礎(足場)』を強化し、反発力(地耐力)を上げればいい。……俺は今、お前の魔法が発動するコンマ一秒前に、自分たちの足元の地盤へ【建築工房アーキテクト・スタジオ】による『魔導免震チタン合金基礎』を打ち込んだ」

 俺の言葉と共に、足元の石畳が微かに光を放つ。

 地下深くまで打ち込まれた見えないチタン合金の杭が、ラスティアの放つ重力波のエネルギーを完全に吸収し、地脈へと分散アースさせているのだ。

「俺の引いた完璧な基礎構造の上では、いかなる理不尽な上部過重(魔法)も『ゼロ』に相殺される。……現場監督プロの足場を、その程度のヤラセ魔法で崩せると思うな」

「チッ、チタン合金基礎を瞬時に錬成!? 意味わかんない! あんた相変わらず、魔法の概念システム建築力学バグで上書きしてくるじゃないのよぉぉっ!」

 ラスティアが、バルコニーの手すりをバンバンと叩いて地団駄を踏む。

 だが、俺の防圧(免震)フィールドの中にいるルチアナとリーザの表情は、そんな魔王の焦りすらも凍りつかせるほど、尋常ではないドス黒さに染まり上がっていた。

「……ねえ、ラスティア」

 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ……。

 特売の芋ジャージを着たルチアナが、ギリィッ! と奥歯を噛み砕くような音を立てて、魔王城を睨み上げた。

「あんた、さっき『殺さない程度に重力魔法でペチッて弾き飛ばして帰してやる』って、自分で暴露したわよね……? トリスが言った通り、最初からあの円城寺って詐欺師とグル(共犯)で、この『八百長プロレス』をやってたのね?」

「あ、いや、ちがっ……! これはその、国事行為というか、外貨獲得のための正当なビジネススキームで……!」

 焦るラスティアに、今度は極貧アイドルのリーザが、血走った目で一歩前に出た。

「つまり……私たちから巻き上げた『金貨十枚(十万円)』と『トイチの借金』は、あの円城寺経由で……あんたの裏口座(オタ活資金)に流れてるってことですのね……?」

 リーザの背後で、巨大な【お賽銭箱型掃除機(貧乏神)】が、ヴゥォォォォン! と怒りの産声を上げた。

「わ、私は知らないわよ! 円城寺クンが勝手に情弱あんたたちから集めただけで……!」

「情弱って言ったわねぇぇぇぇっ!!?」

 ブチィィィィィィンッ!!!!

 ついに、世界神と海中国家王女の、なけなしの理性の糸が完全に千切れた。

「私の……もやし生活の血と涙の結晶(借金)を! よくも純金フィギュア(オタ活)に変えてくれたわねぇぇっ!」

「お前が優雅にフィレステーキを食べていたあの時間、私はタローソンの試食ウインナーで命を繋いでいたんですのよ! 許さない……絶対に許しませんのぉぉぉぉっ!!」

 ズッゴォォォォォンッ!!

 ルチアナとリーザが、俺の『魔導免震基礎』の安全地帯から、文字通り弾丸のような速度で飛び出した。

 凄まじい怒りのオーラが、ラスティアの『グラビティ・プレス』の重力場すらも物理的に押し返し(気合いで無効化し)ながら、魔王城の巨大な正門へと猛ダッシュしていく。

「ひぃぃぃっ!? なんか目バキバキのヤバい女たちが突っ込んでくるぅぅっ!」

 ラスティアが、バルコニーでパニックに陥り、頭を抱える。

「ルーベンス! ルーベンス助けて! あの二人、目が完全に『借金取り』の目よ! 捕まったら私の月人君グッズ(資産)が全部差し押さえられちゃうぅぅっ!」

「……自業自得です、魔王様」

 バルコニーの奥でサケスキーのロックを傾けていたルーベンスは、冷ややかにグラスを置いた。

「詐欺の片棒を担いでいた挙句、よりにもよって『ポポロ村の大家殿トリス』の身内にまで手を出したとなれば、私に擁護フォローできる範疇を超えています。……私は、休日(ポポロ競馬)の平穏を失いたくありませんので、本日は『有給休暇』ということにさせていただきます。では」

「あっ!? ちょっと、裏切り者ぉぉっ!」

 ルーベンスが空間魔法でサッサと姿を消し、ラスティアは完全に孤立無援となった。

「ええいっ! こうなったら、証拠隠滅(皆殺し)よ! ルチアナ! リーザ! あんたたちだけでも、本気の闇魔法でブラックホールのチリにしてやるわぁぁっ!」

 ラスティアが、半ばヤケクソで両手に漆黒の魔力を集中させ、超高密度の『暗黒球ブラック・ホール』を生成し始める。

 それが放たれれば、城門はおろか、周囲の広場ごと空間が抉り取られるだろう。

「……させません!!」

 だが、その最悪の魔法が放たれるより早く。

 タローマンの鉄鎧を纏った真の勇者・ユートが、猛然と前線へ躍り出た。

 彼は、重力魔法で地面に這いつくばっている数万人の冒険者たち(ADPの被害者たち)を背中で庇うように立ち塞がり、鉄剣を天高く掲げた。

「罪なき人たちを……詐欺で騙した挙句、使い捨て(ゴミ)にするなんて、俺が絶対に許さないッス!! 『サンダー・バリア』!!」

 バリバリバリバリッ!!

 ユートの全身から、凄まじい雷の闘気が爆発的に噴き上がり、数万人の冒険者たちを覆い隠す巨大な『雷の防壁』を展開した。

 魔王の重力場を中和し、被害者たちを守り抜く真の勇者の姿。

 這いつくばっていた冒険者たちが、その眩い背中を見て息を呑む。

「あ、あいつ……俺たちをかばって……?」

「円城寺さんじゃなくて……あいつが、本物の……勇者様……?」

 洗脳ポンジ・スキームのメッキが剥がれ、人々が『真の光』を目の当たりにした瞬間だった。

「よくやった、ユート。被害者の安全確保(養生)は完了だ。……あとは、あの腐った不良物件(魔王)を解体するだけだな」

 俺は、タローマンジャージの襟を正し、ユートの横を通り抜けて魔王城へと歩みを進めた。

「待ってなさいラスティアァァッ!!」

「一億円(金貨十枚)とステーキの恨み、その身で味わうんですのぉぉぉっ!!」

 俺の前方では、すでにルチアナとリーザが、城門の警備をしていたオリハルコンゴーレムたちを「邪魔よぉぉっ!」とジャージのまま素手で粉砕し、城内へとカチコミをかけていた。

 いくら魔王といえど、全財産を騙し取られ、食い物の恨みまで重なった『神』と『貧乏神』のタッグを止められるはずもない。

「ひぃぃぃっ! 防衛ラインがあっさり突破されたぁっ!? くっ、こうなったら逃げるが勝ちよ! 月人君のフィギュアだけは持って……!」

 バルコニーから逃亡を図るラスティア。

 だが、彼女が逃げようとした玉座の間の『非常口バックドア』の扉には。

「……逃がすかよ。不良施工の責任ケツは、きっちり取ってもらうぞ」

 俺が、事前に【建築工房(空間座標指定)】のスキルで錬成した『絶対に開かない魔導チタン合金の南京錠』が、ガッチリと施錠されていた。

「ウソォォォォッ!? 扉が開かないぃぃぃっ!!」

「さあ、強制監査(ガサ入れ)の時間だ。……借金取りの恐ろしさ、身を以て思い知れ」

 俺の冷酷な呟きと共に、玉座の間の巨大な扉が、ルチアナの回し蹴りとリーザの突進によって、ドガンッ!! と粉々に蹴り破られた。

 魔王ラスティア vs 借金に狂った女子会コンビ。

 アバロン魔皇国の歴史上、最も情けなく、最も泥臭い『ステゴロ(物理)の大乱闘』のゴングが、今まさに鳴り響こうとしていた。

読んでいただきありがとうございます。

面白いと思っていただけましたら、★評価やブックマークで応援していただけると励みになります。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。