EP 4
情弱狩りのサロン。借金取りと、解体工事の予告
神話級アイテムと偽られた『ただの泥壺』のメッキが剥がれ、ポポロ村の村長宅で駄女神と極貧アイドルが絶望の涙を流してから、わずか数時間後。
「へっへっへ……。鮫島さんよぉ、あのバカ女ども、今頃あの泥壺を後生大事に磨いてやがるぜ」
「クククッ。笑いが止まりませんねぇ、火原さん。私の【ステータス偽装】で情弱を狩るこのビジネスモデル、まさに異世界じゃブルーオーシャンですよ」
ポポロ村のメインストリートを、肩で風を切って歩く二人の男がいた。
テカテカの青スーツを着た自称ITコンサル(詐欺師)の鮫島と、ドロドロの作業着姿で首にタオルを巻いた悪徳転生者の火原である。
「で、今日は何しに行くんで? トイチの回収にはまだ早いだろ」
「決まってるじゃないですか。『アフターフォロー』という名の追加営業ですよ。あの手の情弱は、一度信じ込ませれば何度でも搾り取れる。……次はあなたが作った『SSRの聖剣』を、魔除けのセットとして金貨二十枚で買わせるんです」
二人は下品な笑い声を上げながら、村の最前線にそびえ立つ木造三階建てアパート『ポポロ・コーポ』のエントランスへと足を踏み入れた。
「ちわーっす! サメジマ・アドベンチャー・サロンの定期訪問でーす! ルチアナさーん、リーザさーん、いらっしゃいますかー?」
鮫島が、わざとらしく明るい声を張り上げて管理室(村長宅と繋がっている)のドアをノックする。
ガチャリ。
ドアが開いた。
だが、そこに立っていたのは、カモにしたはずの頭の悪い女たちではなく。
無精髭を生やし、タローマンジャージのポケットに両手を突っ込んだ、ひどく目つきの悪い男――ポポロ・コーポの大家兼、最高現場監督のトリスだった。
「……あ? なんだてめえは。あの女たちはどうした」
火原がガンの飛ばし合いに持ち込もうと、顎をしゃくる。
「当物件(現場)の管理責任者だ。……お前らが、うちの住人に『不良建材』を売りつけた三流業者か?」
俺の低く冷たい声に、鮫島が愛想笑いを浮かべながら前に出た。
「おや、大家さんでしたか。不良建材だなんて人聞きの悪い。私たちは彼女たちの『マインドセット』を向上させ、ウィンウィンの関係を築くためのビジネスを……」
「トイチの違法金利で泥壺を売りつけるのがビジネスだと? ポポロ村の特区指定法を舐めるな」
俺が冷酷に事実を突きつけると、鮫島の顔から作り笑いがスッと消えた。
「……チッ。なんだ、バレてんのか。なら話はえーわ」
火原が、首をボキボキと鳴らしながら、腰に提げていた『立派な装飾の長剣』を引き抜いた。
鮫島の【ステータス偽装】によって、空中に『SSR・攻撃力+5000』というホログラムが浮かび上がる。
「大家だか何だか知らねえが、すっこんでろ。俺たちは正式な借用書(契約)を交わしてんだよ。邪魔するってんなら、この『神話級の聖剣』で真っ二つにしてやるぜ!」
火原が、ドヤ顔で長剣を大上段に構え、俺の脳天に向かって振り下ろしてきた。
だが、俺はポケットから手を出すことすらなく、ただ静かに息を吐いた。
「……バカが。外見だけコピーしても、金属の『炭素含有量』も『焼き入れ』の工程も理解していない素人のナマクラが、俺の『現場』で通用すると思うな」
俺は、振り下ろされた長剣の刃の腹(最も強度が弱いポイント)に向けて、タローマン製『特注安全靴(ドワーフ鋼入り)』の爪先で、軽くカウンターの蹴り(タップ)を入れた。
パキンッ!!
「……は?」
火原が間抜けな声を漏らす。
神話級の聖剣(という設定のゴミ)は、俺の蹴りを側面から受けただけで、まるで薄いガラスのようにあっけなく粉々に砕け散った。
材料工学を無視した【劣化複写】の限界である。
「な、なんだとぉっ!? 俺のコピーした剣が、蹴り一発で……!?」
「ひぃっ!? ひ、火原さん、こいつヤバいです! 逃げ……っ!」
鮫島が顔を青ざめさせて踵を返そうとするが、遅い。
「安全管理がなってないな。現場の敷地をまたいだ時点で、お前らは俺の『管理下』だ」
俺が指を鳴らすと、アパートの廊下の天井から、俺が事前に【建築工房】で仕掛けていた『魔導ワイヤー』が射出され、二人の体を瞬時に簀巻き(すまき)にして宙吊りにした。
「ぎゃあああっ!」
「い、痛い痛い! スーツがシワになるぅっ!」
ミノムシのように吊るし上げられ、ジタバタと暴れる詐欺師コンビ。
その背後から、「トリス様ぁっ! やっちゃってくださいですのぉぉっ!」と、鬼の形相になったルチアナとリーザが飛び出してきた。
「さあ、監査の時間だ。……お前らのそのショボいスキルで、これだけ大掛かりな詐欺が回せるとは思えない。元請け(黒幕)は誰だ? どこから指示を受けている?」
俺が、丸めたルナミス新聞で鮫島の頭をペチッと叩くと、この自称ITコンサルは、1秒も耐えることなくあっさりとゲロ(自白)した。
「ひぃぃぃっ! 言います、全部言いますから叩かないで! 私たちはただの末端(下請け)なんです! 本当の元請けは『ADP』っていう組織で……!」
「エーディーピー?」
「はいっ! 代表の『円城寺明』っていう男が、全国の貧乏な冒険者を集めて……【魔王ラスティアを討伐して一億円の懸賞金を山分けしよう!】っていう、大規模な討伐隊を組んでるんです!」
鮫島の口から飛び出した『魔王ラスティア』という名前に、ルチアナとリーザがピクリと反応した。
「ちょ、ちょっと待ちなさい! 魔王を倒して一億円? そんなの、どう考えても普通の冒険者じゃ無理に決まってるじゃない!」
「そうですよ! だから最初から『絶対に失敗する』ように作られた詐欺なんです!」
宙吊りのまま、鮫島が涙声でビジネスモデル(詐欺の全貌)を暴露し始めた。
「円城寺の【熱狂空間】ってスキルでカモを洗脳して、参加費として一人『金貨十枚(十万円)』を巻き上げるんです。……で、魔王城に突撃させて、魔王にボコボコにされて帰ってきた連中に、『惜しかった! 次こそ勝てるから追加資金を!』ってさらに搾り取る……そういうネズミ講なんです!」
「……なるほどな。典型的なピラミッド構造(詐欺)だ。だが、相手は本物の魔王だぞ? 万が一、殺されたらどうするんだ?」
俺の極めて論理的な疑問に対し。
今度は、火原がヤケクソ気味に叫んだ。
「殺されねえんだよ! 円城寺の野郎、魔王ラスティア本人と『裏取引』してやがるんだ!」
「「……は?」」
ルチアナとリーザの顔から、スッと血の気が引いた。
「魔王は、カモどもを殺さねえ程度に魔法で弾き飛ばすだけだ(八百長プロレス)。その見返りとして、円城寺から集めた参加費の『30%』が、魔王の裏口座にキックバックされてんだよ!」
「そうそう! 魔王の奴、その裏金で地球の『朝倉月人』とかいうアイドルの福岡ドームツアーに行くんだ〜って、円城寺さんが笑ってましたよ!」
沈黙。
完全なる沈黙が、ポポロ・コーポの廊下に降り下りた。
――『そう? 偶々(たまたま)よ♡』
――『ちょっと手広く事業を展開しててね〜、その不労所得が入ってきただけだもん♡』
先ほど、女子会部屋でフィレステーキを頬張りながら、純金フィギュア(一千万円)を一括決済していた魔王ラスティアのドヤ顔が、ルチアナとリーザの脳裏にフラッシュバックする。
「…………」
「…………」
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ……。
ルチアナの全身から『世界神のガチの殺意』が、リーザの背後から『貧乏神のブラックホール級の怨念』が、物理的なオーラとなって噴き上がり始めた。
「……あ、あのクソアマァァァァァァッ!!」
「絶対に、絶対に許しませんのぉぉぉぉぉぉっ!!」
二人の絶叫が、ポポロ村の空を突き抜けた。
「私たちが食費を削って、トイチの借金までして巻き上げられた金が! あいつのステーキ代と、月人君のオタ活費用に消えてただとぉぉっ!?」
「私たちの寿司を返せですの! 純金フィギュアは溶かして換金しますのぉぉっ!」
怒り狂い、宙吊りの詐欺師二人にポカポカと殴りかかる極貧コンビ。
俺は、タローマンジャージのポケットに手を突っ込んだまま、呆れたようにため息をついた。
「やれやれ……。神と魔王が、ネズミ講の被害者と加害者(胴元)として繋がるとはな。世も末だ」
だが、事態の全容(構造)は完全に把握した。
円城寺という男が引いた『ADP』という詐欺の図面。それは、何万人もの弱者を建材としてすり潰し、一部の胴元だけが利益を吸い上げる、吐き気を催すほどの『違法建築』だ。
「……おい、お前ら」
俺が低くドスを効かせた声で呼ぶと、火原と鮫島が「ヒッ」と息を呑んだ。
「その『ADP』の次のセミナー(決起集会)はいつ、どこでやる?」
「あ、明日の夜……! ルナミス帝国の第三区画にある、大集会ホールでやります……っ!」
俺は、魔導ワイヤーのテンションを調整し、二人を床にドサッと落とした。
「よし。お前らは俺の『案内役』として連れて行く。……逃げようとしたら、その首の奴隷首輪より先に、俺が直接お前らの骨格(基礎)を解体するからな」
「ひぃぃっ! よ、喜んでご案内しますぅっ!」
俺は、怒りでゼーハーと息を切らしているルチアナとリーザを振り返った。
「泣き言を言ってる暇はないぞ。……奪われた資材(金)は、力ずくで取り返すのが現場の鉄則だ。明日、俺自らその『ADP』のセミナーに乗り込んで、強制監査(ガサ入れ)を行ってやる」
基礎から腐りきった詐欺結社と、調子に乗っているセレブ魔王。
プロの現場監督による、情け容赦のない『完全解体工事』の火蓋が、ついに切って落とされた。
読んでいただきありがとうございます。
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