EP 9
遅すぎた変身と、愛と正義のRPG-7(ロケラン)反射撃ち
――ピュロリロリロリ〜ン♪ シャラララララ〜ン☆
ポポロ村の広場に、無駄に壮大でポップな『変身完了』のファンファーレが鳴り響いた。
天から降り注いでいたピンク色のスポットライトが収束し、桜吹雪のような光のエフェクトの中から、一人の少女が勢いよく飛び出してくる。
「みんなー! お待たせーっ!」
装飾過多なフリルアーマーに身を包み、天使の双翼を大きく広げたトップゴッドチューバー、キュララ。
彼女は、自律浮遊するドローンカメラ『パパラッチ君』のレンズに向かって、バッチリと完璧なアイドルウインクを決めた。
「変身完了! 愛と! 正義と! マネーの為の黄金聖騎士! ゴッドチューバー・キュララ……ここに参上ぉぉっ!! 悪い虫さんは、私がみんなのPV(撮れ高)のために、ド派手に退治しちゃうぞっ♡」
ババァァァァンッ!!
彼女の背後で、魔力によるピンク色の爆発エフェクトが派手に上がる。
「さぁ、かかってきなさ――……え?」
キュララは、愛用の『Glock 19』を構えながら、得意げに正面を見据えた。
だが。
彼女の視線の先に『巨大な虫のバケモノ(死蟷螂)』の姿はなかった。
代わりにそこにあったのは、見事に真っ二つに両断され、冷たい氷の結晶に覆われた『ただの鉄と骨の粗大ゴミ』と。
夕飯の仕込みで使っていた『三徳包丁』をタローマンジャージのポケットにしまいながら、やれやれと首を振っている、一級建築士の姿だけだった。
「……あれ? 敵は? 十メートルくらいあった、凶悪なボスキャラは……?」
キュララが、銃を下ろしてポカンと口を開ける。
「もう終わったんですのよ」
瓦礫の陰から、芋ジャージ姿の極貧アイドル(リーザ)が、半目になりながら歩み出てきた。
「何のためにあんなに長く変身(無敵時間)してたんですの!? この手羽先天使! 敵なら、トリス様たちが三分前に綺麗サッパリ片付けちゃいましたのよ!」
「……ええええええええええっ!?」
キュララの絶叫が、ポポロ村に響き渡った。
彼女は慌ててエンジェルすまーとふぉんの配信画面(コメント欄)を確認する。
『キュララちゃん遅すぎwww』
『変身なっっっがwww カップ麺伸びるわww』
『ジャージのお兄さんが包丁で瞬殺してて草』
『魔法少女(笑)ただの遅刻魔じゃんww』
『撮れ高ゼロでフィニッシュです』
「あ、あ、あああああっ……!」
リスナーからの容赦ない煽りコメントと、『草(w)』の大群。
月収二億円、常にトップを走り続けてきた承認欲求モンスター(キュララ)にとって、これほどの『屈辱(放送事故)』は前代未聞だった。
「わ、私の……私の撮れ高(PV)がぁぁぁっ!!」
キュララが、頭を抱えて地面に膝をつく。
「ざまぁみやがれですの! 普段、私の太客(石油王)を奪ってタダ飯食ってる罰が当たったんですのよ! 変身だけして何もしないなんて、給料泥棒にも程がありますの!」
「キイイイイイイイイイッ!! うるさいうるさいうるさぁぁいっ!!」
リーザの容赦ない追撃に、キュララの『外面(愛嬌)』のメッキが完全に吹き飛んだ。
「何よ何よ! この貧乏魚ああああっ! せっかく最高視聴率(同接二千万人)だったのに、バトルの見せ場がないなんて配信者として致命傷じゃないのよぉぉっ!!」
ブチギレたキュララは、虚空から、彼女の最終兵器を取り出した。
弾頭に『キュララ参上♡』とポップなデコレーションが施された、巨大な魔導対戦車ロケットランチャー『RPG-7』である。
「敵がいないなら……撮れ高(爆発)は私が自分で作る!!」
「えっ……ちょ、お前、それ味方に向けて……!」
リーザが顔を青ざめさせる。
完全に理性を失い、撮れ高の亡者と化した手羽先天使は、ロケランを肩に担ぐと、あろうことかトリスたちやリーザがいる方向へ向けて、躊躇なく引き金を引いた。
「キュララ特製、愛のロケットランチャー! ド派手に散りなさぁぁぁいっ!!」
ドシュゥゥゥゥゥッ!!
凄まじいバックブラスト(後方爆風)を撒き散らしながら、巨大な魔導ロケット弾が白煙を引いて真っ直ぐに飛んでくる。
死蟷螂を倒して安堵していた村人たちが、再び「ひぃぃっ!」と悲鳴を上げた。
「なんのっ! こんな八つ当たり、食らってたまるかですの!」
だが、リーザは逃げなかった。
彼女は、背中に背負っていた巨大な【お賽銭箱型掃除機(貧乏神)】のノズルを、飛来するロケット弾へと真っ直ぐに向けた。
「私の貧乏神スキルは、あらゆる理不尽(と金)を強制没収するんですの! とおりゃあああああっ!!」
ヴゥォォォォォォォォォォォォォンッ!!!
掃除機が最大出力で唸りを上げる。
直撃コースだったロケット弾は、お賽銭箱の圧倒的な吸引力によって『運動エネルギー』と『魔力』だけを理不尽に吸い取られ――軌道をグンッと真上(上空)へ逸らされた。
「えっ!? 私のロケランが……!」
「反射ですのぉぉっ!!」
上空へ跳ね上げられた魔導ロケット弾は、そのままポポロ村の遥か上空で、大輪の花火のようにド派手に大爆発を起こした。
ドッゴォォォォォォォォォォォォンッ!!!!
夜空を真っ昼間のように照らし出す、凄まじい爆炎。
強烈な爆風が村の広場を吹き抜け、キュララのフリルアーマーを激しく揺らし、ドローンカメラをグルグルとスピンさせる。
「…………」
その、ド派手な大爆発を背にして。
俺は、全く動じることなく、ゆっくりとタローマンジャージの襟を正した。
「……良いから、早く帰るぞ」
俺は、背後で燃え盛る爆炎を一瞥だにせず、ポケットに両手を突っ込んだまま、呆れたようにため息をついた。
「無駄な爆薬(資材)を浪費しやがって。……これ以上現場で遊んでる暇はない。キッチンに残してきたシチューの仕込み(タスク)が遅れる」
背後の大爆発。
舞い散る火の粉。
そして、一切振り返らずに冷静沈着に立ち去ろうとする、無精髭の現場監督の横顔。
それは、映画のワンシーンを切り取ったかのような、究極に『男臭く、そしてイケメンすぎる光景』だった。
「……あ」
ドローンカメラが、その爆発を背にした俺の姿を、偶然にも最高のアングルで捉え、全世界へと配信してしまった。
『うおおおおおおおおっ!!!』
『ジャージの兄ちゃんクッソイケメン!!』
『爆発を振り返らない男! 渋すぎる!!』
『今のスクショ撮った! 神回確定だろこれ!』
『虹スパ(五万円)投げるわ!!』
コメント欄が、死蟷螂登場時以上の大熱狂で埋め尽くされる。
そして、その『漢の背中』に魅了されたのは、リスナーたちだけではなかった。
「ふふっ……♡ やっぱり私のトリス君、世界一かっこいい……♡」
キャルルが、ウサギ耳をくねらせて頬を赤らめ、熱っぽい吐息を漏らす。
「ほえぇ……っ♡ な、なんて渋くてイケメンなボイス……それにあの余裕の態度……私の周りのチャラい神様たちとは全然違う……♡」
ブチギレていたはずのキュララが、手からRPGを落とし、完全にハート目になって俺の背中を見つめている。
「トリス様……! あんなにカッコよくて、しかも今から私にシチュー(タダ飯)を作ってくれるなんて……もう一生ついていく私の大スポンサー様ですのぉぉっ♡」
リーザが、ヨダレを垂らしながら俺の背中に向かって拝み倒している。
「あの……俺の活躍(雷)の感想は誰も無いッスか……?」
一人ポツンと取り残された勇者ユートが、哀愁漂う声を漏らしたが、誰の耳にも届かなかった。
かくして。
天界の炎上神が放った最悪の刺客は、トップゴッドチューバーの『遅すぎる変身』と『味方へのロケラン乱射』という最悪の放送事故を巻き起こした末に。
なぜか俺(現場監督)の『漢の株(好感度)』をストップ高まで押し上げるという、謎の大団円(?)を迎えたのである。
読んでいただきありがとうございます。
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