EP 8
氷狼一閃! 凍結包丁のロングソードと、最強コンビの雷氷撃
ピュロリロリロリ〜ン♪ シャラララララ〜ン☆
天界の奈落から投下された巨大生物兵器『死蟷螂』が、ポポロ村の広場で凶悪な双鎌を振り上げている、その真横。
未だに終わらない魔法少女の長すぎる変身バンクのBGMが、間抜けに響き渡っていた。
「くそっ、この手羽先女、まだキラキラ回ってるんですの!? 戦闘シーン(本番)はもう始まってるんですのよ!」
極貧アイドル(リーザ)が、変身中のキュララを盾にしながら喚き散らしているが、俺の『脳内CAD』は、すでに目前の巨大な『不良建材(死蟷螂)』の解体手順を完全に構築し終えていた。
「いいか、お前ら。相手は天界謹製の魔導合金と白骨のハイブリッド(複合装甲)だ。正面から適当に叩いても刃が通らない」
俺は、右手に構えた『氷狼のロングソード(元・特売の三徳包丁)』から立ち昇る絶対零度の冷気をコントロールしながら、二人の職人へ端的に指示を出した。
「まずは外装(足場)を崩し、標的を固定(養生)する。その上で、温度変化と電撃による『材質疲労』を引き起こして、一気に両断するぞ」
「オオッス! 俺、全力で痺れさせるッスよ!」
「ふふっ♡ トリス君の『工程表』通りに、完璧に解体(お掃除)してあげるね!」
ヤンデレ月兎族の村長・キャルルが、ウサギ耳をピンと立てて、特注安全靴のドワーフ鋼の爪先を広場の石畳にカツン、と鳴らした。
「ギチィィィッ!!」
死蟷螂が、目の前で殺気を練り上げている俺たちを最大の脅威と認識したのか。巨大な複眼を赤く明滅させ、両腕の鎌を交差させて突進してきた。
十メートル超の巨体が、重戦車のような速度で距離を詰める。
だが、その速度において。
月兎族の最上位種であるキャルル・ムーンハートを上回る存在は、この下界にはそうそう存在しない。
「遅いよ。……害虫は、さっさと駆除(更地)されなきゃね」
ドンッ!!
キャルルが踏み込んだ瞬間、彼女の足元の石畳がクレーター状に爆散した。
クラウチングスタートからの、100m5秒台(通常時)という異常なトップスピード。彼女の姿は、死蟷螂の複眼にすら捉えきれない『残像』と化していた。
「トリス君! 合わせるよ!」
死蟷螂の懐へ、瞬きする間もなく潜り込んだキャルル。
彼女は、振り下ろされようとした右の死鎌に対して、手にした『ダブルトンファー』を交差させて下からカチ上げた。
ガキィィィンッ!!
火花が散り、死蟷螂の右腕が大きく上空へと弾かれる。
相手のガード(装甲)が開き、無防備になった頭部――強固な魔導合金で覆われた顎が、完全にガラ空きになった。
「月影流――『顎砕き』ッ!!」
キャルルが、トンファーで弾いた勢いそのままに、闘気を極限まで圧縮した『膝蹴り』を、死蟷螂の顎のど真ん中へ向けて突き上げた。
ドワーフ鋼の芯材が入ったタローマン製『特注安全靴』による、数トンの破壊力を伴うカチ上げ。
メキャァァァァァァッ!!!
「ギ、ギギガァァァァッ!?」
天界の魔導合金が、ただの安全靴(物理)によってひしゃげ、ひび割れる凄まじい音。
死蟷螂の巨大な頭部が天を仰ぎ、巨体そのものが後ろへのけ反り、完全に体勢(足場)を崩した。
「すごいッス、キャルルちゃん! ……次は俺の番ッス!」
キャルルが崩した絶好の隙を見逃さず、タローマンの鉄鎧を纏った勇者ユートが、猛然と前に躍り出た。
彼は、手にした鉄剣を天高く掲げ、自身の内なる『真の勇者』の魔力を雷へと変換し、剣身へと収束させる。
「逃がさないッス! これで……動くなァッ!」
ユートが、雷を纏った鉄剣を、広場の地面へと力強く突き立てた。
「『サンダー・プリズン』!!」
バチバチバチバチッ!!
地面から、幾筋もの青白い雷の柱が噴き上がり、のけ反った死蟷螂の巨体を四方から囲い込むように『雷の檻』を形成した。
「ギチィィッ!? ギギギギギギギッ!!」
死蟷螂が暴れようとするが、数万ボルトの雷撃がその白骨と合金の身体に絶え間なく流れ込み、神経系(魔力伝導回路)を完全に麻痺させていく。
さらに、高圧電流による『超高温』が、死蟷螂の魔導合金の装甲を真っ赤に熱していた。
「完璧な拘束と、適切な熱処理だ。よくやった、ユート!」
俺は、雷の檻の中で身動きが取れなくなった死蟷螂を見据え、深く息を吸い込んだ。
右手に握られた『氷狼のロングソード』。
狼王フェンリルの『絶対零度の冷気』を建築スキルで束ねたこの特注剣からは、触れるもの全てを凍てつかせる極低温の魔力が溢れ出している。
熱で真っ赤に膨張した魔導合金に、絶対零度の冷気を叩き込む。
急激な温度変化(熱膨張と収縮)は、いかなる強固な物質であろうと、分子構造を破壊し、ガラスのように脆く(クラック)させる。これこそが、俺の描いた『解体のロジック』だ。
「いくぞ、ユート! 俺の斬撃(冷気)と同時に、お前の最大火力(雷)を叩き込め!」
「オオッス!!」
俺は、タローマンジャージの裾を翻し、雷の檻へと向かって一直線に踏み込んだ。
同時に、ユートも地面に突き立てていた鉄剣を引き抜き、ありったけの勇者の雷を剣身に収束させて並走する。
「ギ、ギギギガァァァッ!!」
死蟷螂が、死の恐怖に抗うように、痺れる両腕の鎌を無理やり振り下ろそうとする。
「無駄だ。……お前の基礎(構造)は、すでに死んでいる」
俺は、氷狼のロングソードを上段に構え、百馬力の魔力を刃に乗せて一気に振り抜いた。
絶対零度の斬撃が、空気を凍らせながら、真っ赤に熱された死蟷螂の硬い胸部装甲へと吸い込まれていく。
「『氷狼一閃』!!」
パキィィィィィィィンッ!!!!
俺の氷剣が触れた瞬間。
急激な冷却に耐えきれず、死蟷螂の絶対防壁(魔導合金)が、まるで薄いガラスのようにあっけなく砕け散った。
絶対零度の冷気が、装甲の裂け目から内部の白骨構造へと一気に侵入し、巨大な体を内側から完全に凍結させていく。
「いっけえぇぇぇぇぇぇっ!!」
装甲が完全に消失したその中心部へ、ユートが跳躍し、渾身の力を込めた雷の鉄剣を叩き込んだ。
「『ライトニング・ブレイク』!!」
ドッシャァァァァァァァァァンッ!!!!
俺の『氷』と、ユートの『雷』。
二つの極限のエネルギーが、死蟷螂の体内で衝突し、臨界点を超えて大爆発を起こした。
「ギ、ギャァァァァァァァァァァァァ…………ッ!!」
天界の処刑獣の断末魔が、広場に響き渡る。
次の瞬間、内部から凍結され、雷撃で粉砕された死蟷螂の巨体は、一筋の巨大な亀裂を起点にして――完全に『真っ二つ』に両断された。
ズゴォォォォォォォォンッ!!!
真っ二つに分かたれた巨体が、左右の地面に轟音を立てて崩れ落ちる。
断面からは血の一滴も流れず、ただ冷たい氷の結晶と、パチパチと弾ける紫電の残り火だけが散っていた。
炎上神ワイズが放った最強の生物兵器は、ホープ・クローバーの連携(工程表)の前に、わずか数分で完全なる『解体(更地)』へと追いやられたのだ。
「ふぅ……」
俺は、右手のロングソードを振り抜き、刃についた氷の結晶を払い落とした。
俺の魔力供給が途絶えると、フェンリルの冷気は空気中に溶けて霧散し、手元には元の『タローマートの特売三徳包丁』だけが残った。
「やったぁぁっ! トリス君、ユート君、お見事だったね!」
「へへっ……! 俺たち、最強のパーティーッスね!」
キャルルが嬉しそうに俺の首に抱きつき、ユートが鉄剣を掲げて満面の笑みを浮かべる。
俺は、タローマンジャージのポケットに包丁をしまい、「ああ、お前らの働き(施工)は完璧だった」と短く労った。
圧倒的な勝利。
村人たちが歓声を上げ、マンミアが「信じられない……トリス殿たちは、神の使いすら凌駕するのですね」と畏敬の念に震えている。
これで、この馬鹿げた炎上トラブルも完全解決――。
そう思った、まさにその時だった。
『――愛と! 正義と! マネーの為の黄金聖騎士! ゴッドチューバー・キュララ……参上ぉぉっ!!』
ババァァァァンッ!! という無駄に派手な効果音と共に。
広場の隅で、ついに『魔法少女の変身バンク』が終了した。
「……あ」
俺たち全員の視線が、ポーズを決めている月収二億円の手羽先天使へと向けられる。
そして、キュララもまた、ドローンカメラを引き連れたまま、誇らしげな笑顔で『敵(死蟷螂)』の姿を探し……。
そこに、すでに真っ二つになって凍りついている残骸しかないことに気づいた。
「えっ……? うそ……敵は……? 私の、私の戦闘シーン(撮れ高)は……!?」
キュララが、手にした『RPG-7(魔導対戦車ロケットランチャー)』をプルプルと震わせながら、絶望の声を上げた。
全てが解決し、現場が片付いた後に変身を終えた、哀れなトップ配信者。
この圧倒的な『間の悪さ』が、次の最悪の放送事故(味方撃ち)を引き起こすことになるとは、誰も予想していなかったのである。




