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EP 5

【突撃】女子会部屋の真実! コタツとジャージと、愚痴る女神たち

「みんなー! こんにちはー! 愛と正義とマネーのためのトップゴッドチューバー、キュララだよ〜っ♡」

 ポポロ・コーポのピカピカに磨かれた廊下。

 月収二億円の下級天使キュララは、今日も露出度の高いフリルアーマーを身にまとい、四機の魔導ドローンカメラ『パパラッチ君』を従えて、あざとい笑顔を全世界へと生配信していた。

「今日はね、予告していた超・特別企画! 『突撃! 女神様の実態は!?』をお送りしま〜す! ここは私が新しくスタジオ(拠点)にしたアパート『ポポロ・コーポ』のB棟・女子寮なんだけど……なんとこの103号室には、天界の女神様たちが夜な夜な集まる『秘密の女子会部屋』があるって噂なの!」

 キュララのエンジェルすまーとふぉんの画面には、すでに数百万人の同接(同時接続)リスナーからのコメントが滝のように流れている。

『女神のプライベート!?』『見たい見たい!』『赤スパ投げとく!』

「みんなの期待に応えて、アポなしで突撃しちゃうぞっ☆ それじゃあ、レッツ・ゴ〜♡」

 キュララが、103号室のドアノブに手をかける。

 ポポロ・コーポは、トリスが【建築工房】で錬成した『完全防音』仕様だ。そのため、廊下には一切の物音が漏れてこない。

 だが、その重厚な防音扉がガチャリと開かれた瞬間。

「――っくぅ〜! やっぱ昼間から飲む発泡酒(第三の魔導麦酒)は臓腑に染み渡るわねぇっ!!」

「ちょっとルチアナ! あんた私のスルメ食ったでしょ! それタローマートで半額になってた大事なおつまみなんだからね!」

「うぅぅっ……太郎ぉぉっ! ルナキンの安いワインでも、貴方と一緒に飲みたかったわぁぁっ……!」

 ドアの向こうに広がっていたのは、天界の神秘など微塵も存在しない、ただの『終わっている独身女の巣窟スラム』だった。

「……えっと……」

 キュララが、計算されたアイドルスマイルを少しだけ引き攣らせる。

 部屋の中央には、季節外れの『コタツ』がデデンと鎮座していた。その上には、ストロング系の酎ハイや安酒の空き缶、スルメやポテトチップスの空き袋が散乱している。

 コタツに下半身を突っ込み、色気ゼロの特売芋ジャージ姿で管を巻いているのは、天界の駄女神ルチアナと、その同僚である女神ラスティア。

 そして、一升瓶を抱えてコタツの横で泣き崩れているのは、101号室の住人である不死鳥フレア(自称・未亡人)だった。

「あーもう! マジで今月ヤバい! クレカの引き落とし日が迫ってるのに残高足りないわよ!」

 女神ルチアナが、スルメを前歯で引きちぎりながら、ゴロンと畳(ドンガン製の魔導畳)の上に寝転がった。

「私、永遠の十七歳(女神)よ!? なんでこんな下界のボロ……いや、トリス君が建ててくれた快適なアパートで、カツカツの生活してなきゃいけないのよ! 天界の基本給(二十五万)安すぎでしょ!」

「仕方ないじゃない。あんたが担当してる勇者って、あのゼロスとかいうすぐ調子に乗る『ゴミ』みたいな奴しかいないんだから。あれじゃ視聴率(信仰心)も稼げないし、インセンティブなんて入るわけないわよ」

 同僚のラスティアが、酎ハイのプルタブをプシュッと開けながら、冷酷な正論を突きつける。

「なっ……ちょっとラスティア! あんた、それ言っちゃダメなやつ!」

 ルチアナが顔を真っ赤にして起き上がり、バンッ! とコタツを叩いた。

「アレ(ゼロス)は私の管轄じゃないわよ! 私の大切な太郎ホープ・クローバーを理不尽に殺して、代わりにあのクズ勇者を勝手に下界に送り込んだのは……あの反社チックな炎上神・ワイズなんだからね!」

「あー、ワイズね。あいつ、わざとクズ勇者を暴れさせて『炎上商法』で信者を煽って、裏金ブラックマネー作ってるっていう噂だもんね。ほんと、神の風上にも置けないクソ野郎よ」

「そうよそうよ! あんなヤクザ神のせいで、私のボーナスが飛んだんだから! あーあ、ワイズの奴、どっかのダンジョンで足滑らせて神核コアごと砕け散ればいいのに!」

 ダハハハハッ! と、芋ジャージの女神たちが下品な笑い声を上げる。

「…………」

 ドアの隙間からその惨状を撮影していたドローンカメラの向こう側。

 全世界のゴッドチューブの画面の向こうで、数百万人のリスナー(神々や下界の権力者たち)が、完全なる『静寂』に包まれていた。

 そして、三秒後。

 コメント欄が、かつてない速度で大爆発バズを引き起こした。

『うおおおおおおおおっ!?』

『暴露キターーーーーーッ!!』

『女神の月給25万www 俺より低くて草www』

『ゼロスって勇者、炎上神の仕込みだったのかよ!』

『ワイズ黒幕確定www 天界の裏金問題暴露キタコレ!!』

『ヤバいヤバいヤバい、これ放送事故だろwww』

 赤、青、虹色のスーパーチャットが、滝のように画面を埋め尽くす。

 ゴッドチューブの同接数が、瞬く間に一千万人を突破した。

「……あははははっ! みんなー、見事な暴露トーク、バッチリ撮れたねーっ♡」

 撮れ高の化け物であるキュララは、この歴史的な大バズりの波を逃さなかった。

 彼女はバーン!とドアを全開にして、ドローンカメラを引き連れたまま、ずかずかとコタツ部屋へ踏み込んだ。

「やっほー! ルチアナ先輩、ラスティア先輩! それにフレアちゃん! 今、天界の裏事情ブラックコンプライアンス、全世界に生中継されてるよーっ♡」

「…………は?」

 スルメを咥えたルチアナと、酎ハイを持ったラスティアが、同時に硬直した。

 彼女たちの視線の先には、赤いランプ(録画中)を点滅させながら飛んでいる4Kドローンカメラと、スマホの画面を見せてニヤニヤと笑っている月収二億円の手羽先天使の姿があった。

「な、ななな……」

「な、生中継……!? ご、ゴッドチューブで……!?」

「うんっ! 今、同接一千五百万人突破! みんな、ワイズ様の裏金暴露トークに大ウケしてるよ! ルチアナ先輩、クレカ残高ヤバいなら、スパチャもらって払えば?♡」

 キュララが、無慈悲なトドメを刺す。

「ぎゃあああああああああああああああっ!!?」

 ルチアナとラスティアの、この世の終わりを見たような絶叫が、完全防音の部屋の壁に虚しく反響した。

「カメラ止めてぇぇぇっ! 今のナシ! 全部ナシ! ワイズに消されるぅぅっ!」

「あーっ、私のスッピン(寝起き)が全世界にぃぃっ! お嫁にいけないぃぃっ!」

 コタツをひっくり返して逃げ惑う女神たち。

 その醜態すらも、ドローンカメラは最高画質で克明に全世界へと配信し続けていた。

     ▽ ▽ ▽

「……見事なまでの『情報漏洩セキュリティ・エラー』だな」

 アパートの外。

 トリスは、タローマンジャージのポケットに手を突っ込みながら、手元の魔導端末でその大炎上配信(放送事故)を冷静に眺めていた。

「わぁ〜……ルチアナ様たち、終わったッスね。これ、神様として完全にアウトじゃないッスか?」

 隣で配信を覗き込んでいたユートが、ドン引きした顔で呟く。

「終わったのはルチアナたちだけじゃない。……この告発で一番致命傷ダメージを負ったのは、名前を出された『炎上神ワイズ』の方だ。天界でのコンプライアンス違反が事実なら、監査機関が動くはずだ」

 俺は、現場監督としての冷徹な目で『構造(相関図)』を分析した。

 キュララというバズ神が、ルチアナという愚痴神の口を滑らせたことで、天界の腐敗(不良施工)が全世界に白日の下に晒された。

「……だが。反社チックな神が、自分の裏のシノギを暴露されて、ただ黙って引き下がるはずがない」

 俺がポツリと呟いた、その時だった。

 空を覆っていた分厚い雲が、突如として禍々しい赤黒い色へと染まり始めた。

「と、トリス君! 空が……!」

 洗濯物を干していたキャルルが、ウサギ耳を逆立てて空を指差す。

 雲の切れ間から、凄まじい『悪意の魔力』がポポロ村へ向けて急降下してくるのが見えた。

(……早すぎるな。クレーム対応(報復)の速度だけは一丁前か)

 俺は、腰袋から『十徳測定スケール』を引き抜き、シャキッ!と展開した。

「ユート、キャルル。……どうやら、アパートの『防音性』じゃ防ぎきれない、とびきり厄介な飛び込み営業クレームが来ちまったようだぞ」

 全世界を巻き込んだゴッドチューブの大炎上は、単なる放送事故では終わらない。

 天界のタブーに触れた代償として、怒り狂った炎上神ワイズからの『最悪の刺客』が、今まさにポポロ村へと投下されようとしていた。

読んでいただきありがとうございます。

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