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EP 6

【A棟・男子寮】面倒くさい神々と、家賃回収の貧乏神

 神々をも収容・管理するための最強インフラ、集合独身寮『ポポロ・コーポ』。

 完成からわずか数日。俺の読み通り、「家賃三万円・光熱費込み・男女別サウナ付き大浴場完備」という破格の条件エサに釣られ、村で野宿や不法占拠をしていた神話級のホームレスどもは、ホイホイとこのアパートに入居手続き(サイン)を済ませた。

 現在、A棟(男子寮)の入居状況は以下の通りだ。

 101号室:竜王デューク(ラーメン屋台の仕込み部屋)。

 102号室:狼王フェンリル(ヒモニート兼パチンカス)。

 103号室:次元超越者リキ兄貴(ヤンキー旧車會)。

 201号室:ヒエン(太郎の息子。真面目な鍛冶師)。

 202号室:聖獣ガオン(社内不倫問題で出社拒否中の獅子)。

 203号室:朱雀(ガオンの隣部屋を陣取ったサークルクラッシャー)。

 ステータスだけを見れば、大陸が三つ四つ消し飛ぶほどの過剰戦力だ。

 だが。

「……おい、101号室デューク。誰が部屋の中で『豚骨スープ』を煮込んでいいと言った?」

 俺が、マスターキーでガチャリと101号室の扉を開けると、そこには換気扇をフル稼働させながら、備え付けのIHコンロに寸胴鍋を二つも乗せ、腕組みをしているイケオジの姿があった。

「ああっ!? なんだ大家トリスか。ノックくらいしやがれ! ここは俺のテナントだぞ!」

「居住用物件(1LDK)だ。テナント契約は結んでねえ」

 俺は、部屋中に充満する強烈な獣臭に眉をひそめ、持っていた『ポポロ・コーポ入居のしおり(極厚)』でデュークの頭をスパンッ! と叩いた。

「いてっ!? 貴様、竜王の頭を……!」

「第六条第三項『居室内での業務用の大量調理および、異臭を放つ行為の禁止』。……てめえ、入居初日に防音断熱材に匂いが染み付いたら、退去時のハウスクリーニング代(敷金礼金)から全額差し引くからな」

「な、なんだと!? だが俺のラーメンの仕込みはどうなる!?」

「庭に共同の『仕込み用プレハブ』を建ててやっただろ。そこでやれ」

 俺がピシャリと言い放つと、竜王は「ち、ちくしょう、大家の権限が強すぎる……」とブツブツ文句を言いながら、重い寸胴鍋を抱えてトボトボと部屋を出ていった。

 一つ片付いた。俺が息をつく間もなく、今度は廊下でガチャン、ガチャンと金属音が響く。

「おい、103号室(リキ兄貴)。廊下の共用スペースに、バイクの予備パーツとタバコの吸いハイライトを放置するな。消防法違反で撤去するぞ」

「あァ!? 堅ぇこと言うなよ大家ァ! 部屋ん中には『爆音天聖号』が入ってて、もう置く場所がねえんだよ!」

「1LDKの部屋に単車を入れるな!! 駐輪場を使え!」

 黄金のリーゼントを揺らして凄んでくる次元超越者(リキ兄貴)の首根っこを掴み、俺は容赦なく説教をかました。

 彼は本気を出せば次元ごと対象を消し炭にする技を持つが、契約書ルールで縛られているため、俺には手を出せない。

 リキ兄貴は「チッ……分かったよ、片付けりゃいいんだろ、片付けりゃ」と舌打ちしながら、廊下のパーツをそそくさと駐輪場へ運び始めた。

 さらに、二階の踊り場からは、ヒソヒソと陰湿な声が聞こえてくる。

「ねぇガオン……私、今日のご飯作りすぎちゃって。もしよかったら、一緒に食べない? あ、白虎には内緒ね……♡」

「……朱雀。貴様、私がそういう関係を望んでいないと何度言えば……ッ、それに青龍はどうしたのだ!」

「もぉ、あの堅物(青龍)の話はしないでよ。私はガオンに食べてほしいの」

 203号室の朱雀が、202号室のドアの隙間からガオン(人間形態の金髪イケメン)にタッパーを押し付けようと粘っている。

 天界の業務を麻痺させている、ドロドロの社内恋愛劇サークルクラッシャーだ。

「……おい、お前ら」

 俺が階段を上って睨みつけると、二人はビクッと肩を揺らした。

「夜の十時以降の廊下での立ち話は騒音トラブルの元だ。色恋沙汰は勝手だが、共用スペースで痴話喧嘩をしたら家賃一ヶ月分増額ペナルティだからな。さっさと部屋に入れ」

「ひぃっ、は、はい……」

「申し訳ない、大家殿……」

 神話級の聖獣たちが、出稼ぎ現場監督の俺にペコペコと頭を下げて各々の部屋へ逃げ帰っていく。

 まったく、どいつもこいつも、ステータスが異常なだけで中身はただの『マナーの悪い隣人』だ。インフラ(器)を与えて管理ルールを徹底すれば、こんなにも簡単に統制できる。

「……ふぅ。これで今夜は平和に寝られそうだ」

 俺がタローマンジャージの襟を直していると、一階の廊下から、ドスンドスンと荒々しい足音が響いてきた。

「ちょ、ちょっと待つッスよ、大家ァ!」

 狼王フェンリル(102号室)だ。

 彼は今日もチャラい服装で、なぜか片手に『CR異世界王道トラックでドン!』の景品袋(ティッシュ箱と飴玉)をぶら下げていた。

「なんだ、102号室。ナンパした女を部屋に連れ込むなら、宿泊者名簿に――」

「違うッスよ! 今月の家賃(三万円)の話ッス!」

 フェンリルは、大げさに身振り手振りを交えながら、悲痛な顔を作った。

「いやぁ〜、実は昨日、ルナミスパーラー(パチンコ)で『ガオガオン激アツ演出』を外しまくって、すっからかんなんスよ! だから、大家の情けで今月の家賃、三ヶ月くらい待ってくれないッスか?」

「……は?」

「なんなら、俺の舎弟が持ってくる上納品シノギで現物支給でも――」

 俺は、こめかみに青筋を浮かべた。

 家賃滞納。不動産経営(アパート管理)において、最も許されざる『大罪エラー』だ。

「おい、フェンリル。入居時の契約書コンプライアンスを読まなかったのか?」

「へ?」

「第十条第二項。『期日までに家賃の支払いが確認できない場合、当コーポ専属の【家賃回収特化型集金システム】を起動し、強制執行を行う』……と、明記してあるだろうが」

 俺が指を鳴らした瞬間。

 ――ズズズズズズズッ……!!

 一階の廊下の隅から、不気味なほどの怨念オーラを纏った『麦わら帽子と芋ジャージの少女』が、地を這うような足取りで姿を現した。

「……家賃……三万円……」

 リーザだ。

 彼女の背後には、禍々しいオーラを放つ巨大な【貧乏神(お賽銭箱型掃除機)】がヴゥォォォン! と唸りを上げている。

「ヒッ……!? な、なんだこのヤバいオーラは!?」

家賃回収代行業者リーザ仕事タスクの時間だ。102号室から、滞納分きっちり三万円(銀貨三十枚)と、延滞損害金を回収しろ」

「イエッサーですのぉぉぉぉっ!!」

 リーザの瞳に、金への異常な執着と狂気が宿る。

 彼女はパンの耳と雑草で命を繋ぐ極貧アイドルだ。金銭(家賃)を払わないという行為に対して、彼女のユニークスキル【貧乏神】は、最強のデバフ兵器として機能する。

「お家賃、払わないのは悪い子ですのぉぉっ!! 強制執行(差し押さえ)スタートですのッ!!」

 ヴゥォォォォォォォォォォォォォンッ!!!

「ぎゃああああああああっ!?」

 貧乏神のノズルが、狼王フェンリルへ向けられた。

 その瞬間、フェンリルのポケット、靴の裏、さらには彼が「次元の狭間アイテムボックス」に隠していた秘密のヘソクリまでが、掃除機の圧倒的な吸引力によってポンポンと吸い出されていく。

「ああっ! 俺の全財産(銀貨十五枚)が! 隠してたマルボロ・アイスブラストのカートンが! 今朝ナンパした女の子からもらった魔導通信石の番号メモまでぇぇぇっ!?」

「足りませんの! 現金が足りないなら、物納(差し押さえ)で容赦なく相殺しますの!!」

 ズッボォォォォォォンッ!!

「俺のシルバーアクセサリーがぁぁっ!! アウターの革ジャンまで吸い込まれるぅぅッ!!」

 パンツ一丁になったフェンリルが、廊下に爪を立てて必死に抵抗するが、貧乏神の強制没収(差し押さえ)からは逃れられない。

 フェンリルの身ぐるみ(および尊厳)が完全に剥がされると、リーザは掃除機のメーターを確認し、ニッコリと笑った。

「現金換算、三万一千五百円(銀貨三十一枚と銅貨五枚)。家賃と延滞損害金、きっちり回収しましたの♡」

「……うぅぅ……俺の……俺の財産が……」

 白目を剥いて廊下に突っ伏す狼王。

 その光景を、それぞれの部屋のドアの隙間から覗き見ていたデューク、リキ兄貴、ガオンたちは、顔面を蒼白にしてガタガタと震え上がっていた。

「お、おい見たか……あの大家、家賃を滞納しただけで、狼王を物理的かつ社会的に丸裸にしやがったぞ……!」

「あ、悪魔だ……あんな家賃回収システム、次元超越でも逃げ切れねえ……!」

「ら、来月分はちゃんと働いて払おう……絶対に滞納だけはしないようにしよう……」

 神々が、アパートのコンプライアンスの前に完全敗北した瞬間だった。

「……ご苦労だったな、リーザ」

「えへへっ、お安い御用ですの! これで今月の私の給料(パフェ代)、確定ですのね!」

「ああ。村の経費からきっちり出してやる」

 俺は、タローマンジャージのポケットに手を突っ込み、パンツ一丁で倒れているフェンリルを一瞥した。

「おい、102号室。風邪を引く前に部屋に戻れ。……来月も滞納したら、次は内臓(魔石)を売ってもらうからな」

「ヒィィッ! ハ、ハイッス大家さん! 明日から日雇い労働(ゴブリン討伐)行くッス!」

 見事なまでの秩序インフラ

 ポポロ・コーポ。それは、大陸で最もヤバい神々が住まう、最高に平穏で規律正しい集合独身寮である。

 俺は、ピカピカに磨かれた廊下を見渡し、満足げに頷いた。

「さて、次はB棟(女子寮)の設備点検だな。……ケンタウロス姫の『床の耐荷重計算』、やり直しておくか」

 最高現場監督の仕事は、まだまだ終わらない。

読んでいただきありがとうございます。

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