EP 5
着工『ポポロ・コーポ』。一級建築士の引く、最強の木造1LDK
ポポロ村の外れ。ロップ元村長がゲートボール場を作るために買収し、そのまま放置されていた広大な荒れ地。
そこに、俺たち『ホープ・クローバー』の面々と、自警団リーダーのマンミア、そして物珍しそうに集まった村人たちが立ち並んでいた。
「トリス君、トリス君! ここに私たち夫婦の『マイホーム』を建てるの!?」
「違う。何度言えば分かるんだ、村長。これは『公共事業』だ」
俺のタローマンジャージの袖を引いて目を輝かせるキャルル(ヤンデレ新村長)の頭を小突いて黙らせる。
彼女は新村長として、村人たちからの熱狂的な支持(信仰)を受けているが、頭の中は常に俺との新婚生活でいっぱいだ。現場の指揮に私情を挟まれては困る。
「マンミア。村の倉庫にあった資材の搬入は済んでいるな?」
「は、はい。ドンガン地下帝国との『特別な取引(密輸)』で備蓄されていた、ドワーフ製の特殊合金や魔導免震ゴム、それにポポロ村周辺で伐採された極上の木材……全て手配いたしました。ですが、本当にこれを人力で建てるおつもりで……?」
マンミアが、山のように積まれた数千トン規模の資材を見上げて絶句する。
普通なら、これだけの資材を加工し、百人規模の職人を動員して数ヶ月から半年はかかる大工事だ。
「人力じゃない。……『俺一人』で建てるんだよ」
俺は、腰袋から『十徳測定スケール』を引き抜き、シャキッ! と音を立てて展開した。
「さあ、着工の時間だ。神々(ホームレス)どもを収容し、完全に管理・再教育するための最高峰の檻……集合独身寮『ポポロ・コーポ』の建設を始めるぞ!」
俺が両手を地面に叩きつけた瞬間、俺の『脳内CAD』がフル稼働を開始した。
視界に青白いワイヤーフレームの建築図面(3Dモデル)がオーバーレイ表示され、完璧な構造計算と強度シミュレーションがミリ単位で行われていく。
「【建築工房】――フルオート施工!!」
ゴゴゴゴゴゴゴゴォォォォォォッ!!!
大地が鳴動し、空き地の地盤が一瞬にして沈み込んだかと思うと、そこに超高密度に圧縮された『コンクリートの基礎(ベタ基礎)』が形成された。
ただの基礎ではない。ドンガン製の魔導免震ゴムと、ドワーフ鋼のH鋼をグリッド状に埋め込んだ、前世の軍事用地下シェルターすら凌駕する『対ミサイル・対魔導砲撃仕様のスーパー基礎』だ。
神々が室内で暴れても、震度七クラスの地震が来ても、一ミリも歪まない。
「な、なんだぁっ!? 地面が一瞬で真っ平らのカチカチに!?」
「す、すげえッス、トリス! これならワイバーンの群れが突っ込んできてもビクともしないッスよ!」
村人たちがパニックになり、ユートが目を輝かせて歓声を上げる。
「基礎工事(フェーズ1)完了。……続いて、骨組み(フレーム)と外装だ」
俺の百馬力の魔力が、山積みにされた木材やドワーフ製の建材へと注ぎ込まれる。
木材が自動的に宙に浮き上がり、ノコギリも釘も使わずに、完璧な『ホゾ穴(継手)』が形成され、空中で次々と噛み合っていく。
ガキンッ! ドゴォォォンッ!!
パチパチパチパチッ!!
「うわぁぁぁっ! 家が……木材が勝手に組み上がっていきますの!」
リーザが麦わら帽子を押さえながら、ポカンと口を開ける。
俺の図面通りに、三階建ての巨大な木造アパートが、A棟・B棟の二棟同時に、まるで早送りの映像のように組み上がっていく。
壁と床の隙間には、ドンガン地下帝国の『最新鋭防音・断熱スライム材』を隙間なく充填。これによって、隣の部屋で竜王が宴会をしようが、狼王が遠吠えをしようが、完全防音のプライベート空間が約束される。
「内装および設備配管工事。一気に仕上げるぞ」
上水道、下水道、魔力配線(電気代わり)。全てを壁の内部に美しく隠蔽配管し、各部屋に最新式のキッチン、魔導水洗トイレを備え付ける。
間取りは全室、ゆったりとした1LDKだ。
さらに、一階部分には共用設備として、広々とした『共同食堂』と、ドンガンの魔力ヒーターを導入した『男女別サウナ付き大浴場』を錬成する。
「……フッ、完璧な仕上がりだ」
時間にして、わずか数分。
砂煙が晴れた後には、ポポロ村の景観に見事に溶け込む、昭和・平成の温かみを感じさせる『木造アパート(三階建て二棟)』が堂々と鎮座していた。
外観はどこか懐かしく親しみやすいが、その構造体は、大国のお城よりも頑丈で、最新鋭の機能美に満ちている。
「か、完成した……たったの数分で……こんな巨大な建物を……!」
マンミアが、信じられないものを見たというように、アパートと俺の顔を交互に見つめていた。
彼女の蹄が震え、その瞳には明らかな『畏敬』と、わずかな『熱』が混じっている。
帝国近衛騎士団の小隊長だった彼女にとって、武力でねじ伏せることなど誰にでもできる。しかし、「無から完璧な生活インフラを創造する」というこの神業は、彼女の戦士としての常識を根底から覆すものだったのだ。
「トリス殿……あなたは、一体何者なのですか? これほどの御業、神々に匹敵する、いや、それ以上では……!」
「勘違いするな。俺はただの出稼ぎ現場監督だ。施主(今回は村)の要望に応えて、予算と資材の中で最高の仕事(図面)を引いただけだ」
俺は十徳スケールを腰袋にしまい、ニヤリと笑った。
「さあ、見学会といこうか。中に入ってみろ」
俺が促すと、ユート、リーザ、キャルル、そしてマンミアたちが、おそるおそる『ポポロ・コーポ』の入り口へと足を踏み入れた。
「うおおおおっ! すっげえ綺麗ッス! 木の良い匂いがするッス!」
「信じられませんの……! 床がツルツルで、お風呂までついてますの! サウナ!? サウナがあるんですのぉぉっ!?」
ユートが廊下を走り回り、リーザが大浴場を見て狂喜乱舞する。
「トリス君、トリス君! このA棟とB棟って、どう分かれてるの?」
「A棟が男子寮、B棟が女子寮だ。風紀を保つための完全分離制。セキュリティも魔導ロックで完璧にしてある。万が一、変質者(狼王など)が女子寮に侵入しようとすれば、ドアノブから一万ボルトの電流が流れる仕様だ」
「な、なんて安心なセキュリティ……! ポポロ村の独身女性たちにとっても、夢のような物件です!」
マンミアが、感動のあまり両手で口を覆う。
前村長が持ち逃げし、絶望に暮れていた村に、突如として生まれた最新鋭の居住インフラ。
「……トリス殿。この素晴らしい物件の家賃は、一体おいくらに設定するおつもりですか? これほどの設備なら、王都の高級マンション並みの金貨数十枚でも安いかと……」
「いや。家賃は――『月額三万円(銀貨三十枚)』だ。光熱費・サウナ代込みでな」
「「「さ、三万円ですの(ッスか)!?」」」
リーザとユートの声が裏返った。
マンミアも目を丸くしている。
「いくらなんでも安すぎます! それでは利益が……」
「利益なんて後からいくらでも回収できる」
俺は、タローマンジャージのポケットに手を入れたまま、アパートの壁を軽く叩いた。
「この物件の最大の目的は、村で迷惑をかけている神々(厄介者)をここに『収容』し、村の風紀を正常化することだ。
あいつらに、人間の社会の『ルール』と『家賃を払う苦労』を叩き込む。……家賃が安ければ、あいつらもここを拠点にするだろう? だが、家賃滞納や騒音トラブルなどの『契約違反』を犯せば、即座に厳しいペナルティ(強制労働)を課す。これは、神々を管理するための『罠』なんだよ」
「……ああっ、なるほど! あの方々をこのアパートの『ルール』で縛り付けるのですね! なんという恐ろしい……いえ、素晴らしい知略……!」
マンミアが、俺の『社会のルール(コンプライアンス)で神を縛る』という悪魔的、いや、一級建築士的な発想に、ゾクゾクと身を震わせていた。
「トリス様! 私も! 私もここに住みたいですのぉぉっ! 村長宅の床で寝るのはもう嫌ですの! 三万円なら、パチンコ屋で拾った銀玉とポイ活でなんとかなりますの!」
「俺もッス! 毎日サウナに入りたいッス!」
極貧アイドルと勇者が、入居希望の列に並び始めた。
俺は苦笑しながら、「ああ、お前らも当然住み込み(入居)だ」と頷いた。
「さてと。器は完成した。……次は、村に散らばっている『厄介な入居希望者たち』を、このポポロ・コーポにぶち込む(入居させる)フェーズだ」
俺の視線の先。
村のあちこちで好き勝手に暮らしている、竜王、狼王、次元超越者、そして天界の神々。
彼らがこの『家賃三万円・光熱費込み・完全防音』の罠に抗えるはずがない。
最強の現場監督による、前代未聞の『神々アパート経営(再教育プログラム)』が、今、高らかに家賃徴収の鐘を鳴らそうとしていた。
読んでいただきありがとうございます。
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