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EP 4

神々の不法占拠。緩衝地帯の厄介な『路上生活者』たち

 ヤンデレ月兎族のキャルルが新村長に就任し、俺が『都市開発長官チーフ・アーキテクト』として実務の全権を握った翌朝。

 俺は真新しいタローマンジャージに袖を通し、自警団リーダーのマンミア(ケンタウロス)を案内役につけて、ポポロ村のインフラ状況の視察へと繰り出していた。

「……まずは現状把握ゾーニングだ。マンミア、村のインフラで現在最も致命的なエラー(問題点)は何だ? やはり強盗団への防衛設備か?」

 俺が腰袋から十徳測定スケールを取り出しながら尋ねると、マンミアはケンタウロスの美しい馬体をブルッと震わせ、深い疲労を滲ませた顔で首を振った。

「いえ……強盗団の脅威も深刻ですが、現在村の風紀と衛生環境を最も破壊しているのは、村のあちこちに住み着いている『不法占拠者(路上生活者)たち』なのです」

「不法占拠者? ただの浮浪者なら、自警団でつまみ出せば済む話だろ」

「それが……我々の手には負えないのです。彼らは、その……次元が違いすぎて」

 マンミアが言葉を濁していると、不意に風向きが変わり、村の裏山の方から『強烈な異臭』が漂ってきた。

 それは、ただの腐敗臭ではない。獣の骨を極限まで煮詰めたような、独特の獣臭と脂の匂い。

「……なんだこの匂いは。生ゴミの不法投棄か?」

「第一の不法占拠者です。……裏山の洞窟を無断で占拠し、昼夜を問わず謎の『スープ』を煮込んでいるのです。特に鼻の良い獣人の村民たちは、この匂いで頭痛と吐き気を訴えておりまして……」

 俺は眉をひそめ、マンミアと共に裏山へと向かった。

 洞窟の前に到着すると、そこには巨大な寸胴鍋を幾つも並べ、火を焚きながら巨大なしゃもじで鍋をかき混ぜている『葉巻を咥えたイケオジ』の姿があった。

「おうおう、しっかり乳化してきやがった。……これなら太郎に食わせた『豚骨ラーメン』の味に近づいてるはずだぜ」

 イケオジが、鍋から立ち上る強烈な豚骨臭を嗅ぎながら一人ごちている。

「あ、あの御方です……。少しでも注意しようものなら、『我は仕込みで忙しいのだ!』と、口から黄金の光線を吐き出して山を一つ消し飛ばすのです……」

 マンミアが怯えながら耳打ちしてくる。

 黄金の光線。どうやらこいつは、ただのラーメン親父ではなく、神話級の存在――『竜王デューク』らしい。

 だが。

「……おい、そこの仕込み親父」

 俺は、タローマンジャージのポケットに手を突っ込んだまま、ずかずかと洞窟の前に進み出た。

「んあ? なんだてめぇは。今はスープの黄金比を探る大事な時間だ、邪魔するな――」

「公衆衛生法違反だぞ」

「……は?」

「これほどの強烈な排気を、なんの処理もせずに野に放てば、周辺住民への悪臭公害になる。最低限、活性炭フィルター付きの『巨大排気ダクト』と、脂を分離させる『グリストラップ(油水分離槽)』を設置しろ。それと、直火での長時間の煮込みは火災予防条例にも引っかかる。ここは俺の現場だ、ルール(コンプライアンス)を守れない業者は即刻退場しろ」

 俺が法律と建築基準で容赦なく畳み掛けると、竜王デュークはぽかんと口を開けたまま、持っていたしゃもじを落としそうになった。

「な……て、てめぇ、俺を誰だと……」

不良建材ホームレスだろ。是正勧告に従わないなら、俺の【建築工房】でこの洞窟ごとコンクリートで封鎖(解体)するぞ」

「わ、分かった! 分かったから封鎖だけはやめろ! このスープを仕込むのに三日三晩寝てねえんだ!」

 神話級の竜王が、現場監督(俺)の正論の前にタジタジになっていた。

 マンミアが「ひぃっ、トリス殿、命知らずにも程があります!」と顔を青ざめさせているが、俺にとっては相手が神だろうが竜だろうが関係ない。現場の風紀を乱す奴は全員「クレーマー」だ。

「よし、一つ解決だ。次はどうした?」

「は、はい……次は、村のメインストリートの騒音問題です」

 マンミアに案内されて村の中央に戻ると、今度は耳をつんざくような爆音が響き渡っていた。

 パラリラパラリラパラリラッ!!

 ブゥォォォォォォォンッ!!

 村の広場のど真ん中で、暴走族風のロケットカウルを付けた特注魔導旧車『爆音天聖号』に跨り、けたたましい魔導排気音を鳴らしている男。

 黄金のリーゼントをビシッと決め、光沢のある金ジャージを着て、足元は便所サンダルという、絵に描いたような昭和のヤンキー。

「あー、キャブの調子がいまいちだな。もっと魔力を濃く吹かねえと……」

 彼こそが、次元を超越する第六の聖獣『リキ兄貴(麒麟)』だ。

 毎朝こうして村の広場で暖機運転を行うため、村民は不眠症に悩まされているという。

「リキ兄貴には、村の不良たちも全員震え上がっておりまして……彼が本気を出せば、拳一つで対象を次元ごと消し炭にするという噂です……」

「そうか」

 俺は、再びスタスタと歩み寄り、爆音を鳴らすリキ兄貴の肩をポンと叩いた。

「あァ? なんだ兄ちゃん。俺の『爆音天聖号』に触んじゃ――」

「アイドリングストップ条例違反だ」

「……あ?」

「ここは住宅指定地域だ。早朝からの整備(暖機運転)は、環境基準法の騒音規制値デシベルを大幅に超過している。整備不良の魔導車を公道でふかすのは、近隣住民への深刻な騒音公害エラーだ。整備なら、防音設備の整った専用ガレージの中でやれ」

 俺の淡々としたクレームに、リキ兄貴はリーゼントをピクッと動かし、凄みを効かせた顔で俺を睨み下ろした。

「おいおい……俺に説教垂れるとは、いい度胸してんじゃねえか。俺を誰だと――」

「家なし(ホームレス)の旧車會だろ」

「グハッ……!?」

 リキ兄貴が、図星を突かれて胸を押さえた。

 そう、彼らは圧倒的な力を持っているくせに、「定住する家」を持っていない。毎日次元を渡り歩いては、こうして村の広場などを勝手に駐車場代わりにしているのだ。

「……チッ。分かったよ、エンジン切るから通報ギルドへのチクリだけはやめてくれ。今点数がヤバいんだ」

「次やったら、タイヤに魔導ロックをかけるからな」

 次元超越者が、現場監督の静かな圧力に屈してエンジンを切った。

「す、すごいですトリス殿……! あの方々を言葉だけで……!」

「当たり前だ。ルール無用の現場は必ず崩壊する。プロとして、当たり前の安全管理基準コンプライアンスを執行しただけだ。……で、最後の厄介者はどこだ?」

 俺の問いに、マンミアは少しだけ顔を赤らめ、村の外れの河川敷を指差した。

 そこには、イケメンの美青年が、昼間から缶チューハイ(イモッカのソーダ割り)を片手に、村の娘たちに声をかけてはフラれている姿があった。

「やあそこのお嬢さん、俺と一緒にサーフィンでもどう? あ、俺の奢りじゃないよ、君が奢るんだぜ?」

「最低! 近寄らないでよヒモニート!」

 パシッ! と平手打ちを食らった美青年は、落ち込む様子もなく、タバコ(マルボロ・アイスブラスト)をふかしては、ポイッと河川敷に吸い殻を投げ捨てた。

 彼が、バトルジャンキーにして最強のヒモニート『狼王フェンリル』だ。

「あの方は……村の女性をナンパしてはヒモになろうとし、フラれると河川敷で野宿をするのです。空き缶や吸い殻のポイ捨ても酷く、村の景観が……」

 俺は、こめかみに青筋を浮かべながら、フェンリルの背後へと忍び寄った。

「不法投棄(ポイ捨て)は、美観を損ねるだけでなく、村の資産価値を下げる」

「うおっ!? なんだお前、いきなり背後から……」

 俺は、タローマンジャージのポケットからゴミ袋を取り出し、フェンリルに押し付けた。

「ここは俺の管理する村(現場)だ。ゴミの分別もできねえ、清掃(5S)も守れねえ奴は、現場に出入りする資格はねえ。今すぐ拾え。拾わないなら、お前のその顔面を『不燃ゴミ』として処理してやる」

 俺の背後に『建築工房』の魔力が渦巻き、ドワーフ鋼のハンマーが錬成されようとしているのを見て、フェンリルは顔を青ざめさせた。

「わ、分かったッス! 拾う! ちゃんと分別して捨てるッスから、武器をしまってくれ!」

 狼王が、涙目で河川敷の吸い殻を拾い始めた。

 これで、村の三大不法占拠者に対する一次指導(クレーム対応)は完了だ。

「……ふぅ。どいつもこいつも、ステータスだけは一丁前だが、社会性インフラが完全に欠如している」

 俺がため息をつくと、マンミアが信じられないものを見るような目で俺を尊敬のまなざしで見つめていた。

「トリス殿……あなたという人は、神話の存在すらも法と秩序で屈服させてしまうのですね……! ですが、彼らは根無し草です。明日になれば、また別の場所で同じように問題を起こすのでは?」

 マンミアの懸念はもっともだ。

 浮浪者ホームレスをその場から追い出しても、根本的な解決にはならない。彼らが迷惑行為を繰り返す原因は、彼らの有り余る力ではなく、彼らの『居場所(管理されたインフラ)』が存在しないことにある。

(……なら、答えは一つだ)

 俺の『脳内CAD』に、一つの巨大な建築図面が浮かび上がった。

「マンミア。村の端にある、あの空き地……あそこは村(自治体)の所有地か?」

「へ? ええ、元々はロップ村長がゲートボール場を作ろうとして放置された荒れ地ですが……」

「丁度いい」

 俺はニヤリと笑い、十徳スケールを空き地へ向けてビシッと突きつけた。

「奴らを野に放っておくから、村の風紀インフラが乱れるんだ。……なら、奴らを一箇所に収容・管理するための『最強の物件』を、俺が直々に建ててやる」

「ぶ、物件、ですか?」

「ああ。名付けて――集合独身寮『ポポロ・コーポ』だ。……家賃回収とルール徹底で、あの神様どもを立派な『社会人(入居者)』に再教育リフォームしてやるよ」

 最強の現場監督による、前代未聞の『神々収容アパート建設プロジェクト』が、今ここに幕を開けた。

読んでいただきありがとうございます。

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