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EP 3

 新村長・キャルル爆誕! と、頭を抱える最高現場監督

 クレーマー盗賊団による理不尽な襲撃は、キャルルの『特注安全靴(物理)』と『月光薬(無償の愛)』によって、ものの数分で完全な鎮火を迎えた。

 だが、ポポロ村の広場を包む空気は、安堵というよりも『異様な熱狂』へと変貌していた。

「おおお……女神様だ。我らがポポロ村に、真の聖女様が降臨なされただ!」

「どうか、ロップ村長に捨てられた我々をお救いくだせえ!」

 血を吐いて俺の腕の中で眠るキャルルに向かって、数百人の農民たちが地面に額を擦りつけ、涙ながらに祈りを捧げている。

(……おいおい。ただのヤンデレお掃除ウサギだぞ。信仰の対象ベクトルを間違えてるだろ)

 俺がタローマンジャージのポケットに手を突っ込みながら呆れていると、人だかりを割って、一人の『異形の美女』が進み出てきた。

 カツッ、カツッ、とひづめの音が石畳を叩く。

 上半身は、豊満な胸と引き締まった腹筋を持つ凛々しい美女。しかし、腰から下は、艶やかな毛並みを持つ漆黒の名馬。

 ケンタウロス種の女性だった。彼女の背には、鈍く光る巨大な刺突型シールド(パイルバンカー)と、極太の鋼鉄鎖が背負われている。

「……お騒がせして申し訳ありません。私はマンミア。このポポロ村で、自警団のリーダーを務めている者です」

 マンミアは、俺の腕の中で眠るキャルルを見つめ、ケンタウロスの前脚を折って深々と頭を下げた。

 その所作には、ただの自警団員ではない、どこか洗練された帝国の騎士エリートのような品格が漂っていた。

「先ほどの戦いぶり、そして自己犠牲を厭わぬ癒やしの御業……感服いたしました。ロップ村長が村の資金を持ち逃げし、絶望に暮れていた我々にとって、あなた方はまさに希望のホープ・クローバーです」

「状況はギルドで聞いてる。だが、俺たちはただの『地域応援依頼』で来ただけの出稼ぎ職人(冒険者)だ。村の再建まで面倒を見る契約プランにはなってないぞ」

 俺が冷徹に釘を刺すと、マンミアは悲痛な顔で唇を噛んだ。

「分かっています。ですが……村にはもう、防衛の予算インフラも、民をまとめる指導者もいないのです。このままでは、第二、第三の盗賊団に蹂躙されるのを待つだけ……」

 マンミアが言葉を詰まらせた、その時だった。

「……指導者トップがいないなら、私がやろうか?」

 俺の腕の中で眠っていたはずのキャルルが、パチリと目を開け、スッと立ち上がった。

 先ほどまで血を吐いてフラフラだったはずだが、その瞳には謎の凄まじい『覇気』が宿っている。

「キャルルちゃん!? 無理しちゃ駄目ッスよ!」

「そうですよ! まだ安静にしてないと……」

 ユートとリーザが慌てるが、キャルルはウサギ耳をピンと立てて、熱っぽい視線で俺を見つめてきた。

「ねえ、トリス君。私が村長になって、トリス君がこの村の『専属建築士』になったらさ。……それってつまり、この村全体が私たちの『愛のマイホーム』になるってことだよね?」

「……は?」

「トリス君と私で、理想のかていを築き上げる……。きゃあっ♡ どうしよう、実質的な新婚生活プロポーズじゃない! 私、やる! 絶対やる!!」

 キャルルのヤンデレ脳内変換回路フィルターが、完全にレッドゾーンを振り切っていた。

 村人たちが感動の涙を流している裏で、このウサギの行動原理は100%「トリスとの同棲生活の拡大解釈」でしかなかったのだ。

「おおおっ! 引き受けてくださるか、聖女様!」

「マンミア! すぐに村長就任の儀式の準備だ!」

「はいっ! ただちに!」

 キャルルの暴走に、農民たちとマンミアが歓喜の声を上げて爆速で話を進めていく。

「おい、勝手に着工するな。俺は承認ハンコを押してないぞ」

 俺はため息をつき、歓喜に沸くマンミアを冷たい声で呼び止めた。

「マンミアとやら。情熱だけで現場は回らない。お前たち、ロップ村長に『暴行しない券』のプール金を全額持ち逃げされたと言ったな。……まずは、この村の『帳簿』を出せ」

「帳簿……ですか?」

「当たり前だ。トップが変わるなら、現状の予算と負債の構造インフラを把握するのが現場監督の義務だ。数字の裏付けがない現場は、必ず倒壊する」

 俺の凄みのある声に、マンミアは息を呑み、慌てて自警団の詰め所から分厚い帳簿と金庫の明細を持ってこさせた。

 俺は『脳内CAD』の演算領域をフル稼働させ、パラパラと数秒で村の財務状況(全データ)をスキャンしていく。

(……ひどいな。見事なまでの自転車操業だ。村の特産品(太陽芋やタバコ)の利益は出ているが、その大半が強盗への上納金と、ロップの私的流用(ゲートボール接待費)に消えている。残金はほぼゼロ。完全な債務超過レッドゾーンだ)

 スキャンを終えた俺は、バタンッと帳簿を閉じ、ヤンデレの妄想に浸っている新村長キャルルの方を向いた。

「キャルル。お前、自分がどれだけの負債デスマーチを背負い込んだか分かってるか?」

「えっ? 愛があればお金なんて……」

「馬鹿を言え。プロの現場は愛じゃ回らねえんだよ」

 俺は帳簿を指差し、容赦なく現実(数字)を突きつけた。

「ポポロ村の村長の年収は、公称で『1500万円』だ。……だがな、村の赤字補填と、自警団が使う魔導バズーカやライフルの最新弾薬代(経費)がここから引かれる。さらに、お前がさっきやったような『無償の治癒(月光薬)』。あれの材料である陽薬草の仕入れ値も、全部お前の自腹(手出し)になる計算だ」

「え……?」

「結果、お前の手元に残る実質的な可処分所得は、月に数千円。ルナキン(ファミレス)で『特製苺パフェ』を食ったら綺麗に消し飛ぶ額だ」

 俺の宣告に、広場が静まり返った。

 村長という名ばかりの最高責任者。その実態は、全責任を押し付けられてタダ働きさせられる『究極のブラック労働』だった。

「パ、パフェ一杯分……? 私の、トリス君とのマイホーム資金が……」

 キャルルのウサギ耳が、ショックでペタンと垂れ下がる。

 だが、その絶望の空気を打ち破ったのは、相変わらず極貧の底辺を這いずるアイドル、リーザだった。

「……月に一回、ルナキンの特製苺パフェが食べられるんですの?」

「ああ。本当にギリギリだがな」

「最高じゃないですかのぉぉぉっ!!」

 リーザが、血走った目でバンッ! と地面を叩いた。

「パンの耳と雑草サラダで命を繋いでいる私に比べたら、月に一回パフェが食べられるなんて大富豪のブルジョワ階級ですの! キャルルがやらないなら、私が村長になりますの! そして村の予算を全部パフェに回しますのぉぉっ!」

「……お前がトップに立ったら、村が半日で物理的に崩壊(破産)するから却下だ」

 俺は、ヨダレを垂らすリーザの頭に手刀を落として黙らせた。

「あの……申し訳ありません、トリス殿。やはり、我々の背負った負債は大きすぎました。新村長にこれ以上の負担を強いるのは……」

 マンミアが、申し訳なさそうに耳を伏せる。

 だが、俺はタローマンジャージの首元を緩め、ニヤリと獰猛な笑みを浮かべた。

「……誰が、この現場(仕事)を降りると言った?」

「え……?」

 俺は、呆然とするマンミアと村人たちを見渡し、力強く宣言した。

「マイナスからのスタート。予算ゼロ。インフラ崩壊。……上等だ。俺は前世から、こういう『終わってる現場』を死ぬ気で立て直すことにしか、脳内麻薬アドレナリンが出ない体質でね」

 俺は、ペタンと座り込んでいるキャルルの頭をポンと撫でた。

「お前は村長として、ドッシリ構えて村人たちに安心感スマイルを振りまいていればいい。……村のインフラ整備、防衛構築、そして資金繰り。その泥臭い実務タスクは全部、俺が『都市開発長官チーフ・アーキテクト』として引き受けてやる」

「トリス君……っ!」

 キャルルの瞳に、再びハートマークが灯る。

「おおおっ……! それでは、トリス殿が我々の村を……!」

「ああ。俺の引く図面ロジックで、この赤字まみれのポンコツ村を、大陸一の『超優良物件』にリフォームしてやる。……まずは、この村にはびこる『最悪の不良建材(不法占拠者)ども』の解体工事クリーンアップから着工だ」

 俺の言葉に、マンミアたち自警団が「おおおおおっ!!」と歓喜の雄叫びを上げる。

 こうして。

 ヤンデレ月兎族のポンコツ村長と、全てを実務でねじ伏せる最高現場監督による、ポポロ村の究極の村おこし(デスマーチ)が、産声を上げたのだった。

読んでいただきありがとうございます。

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