EP 10
【大宴会】俺たちの日常。そして次なる図面へ
ガレ村を襲った特級魔獣キマイラは、真の勇者へと覚醒したユートの『一億ボルトの雷撃』によって完全に塵と化した。
その後、俺たちは防護壁を解除し、無事だった村人たちから涙ながらの感謝と、特産の『太陽芋』を大量に受け取った。
もちろん、現場監督としての本来の目的である『紅蓮鉱石』の採掘も、キャルルの蹴りと俺の【建築工房】を使って光の速さで終わらせ、最高級のレンガ素材を大量に魔法ポーチへと収めた。
そして翌日。
王都へ凱旋した俺たちを待っていたのは、冒険者ギルドを巻き込んだ前代未聞の『大炎上の事後処理』だった。
「……離せ! 俺はS級勇者だぞ! こんなの何かの間違いだぁぁっ!」
王都ギルドの正面玄関。
両手に重厚な魔法手錠をかけられ、ルナミス帝国騎士団に両脇を抱えられて引きずられていくのは、昨日まで全てを金と嘘で塗り固めていたハリボテ勇者――ゼロス・ディバインだった。
ゴッドチューブでの一部始終の生配信が、動かぬ証拠となった。
自作自演のマッチポンプ、村人を盾にしようとした暴言、そして【マネー】のスキルに頼り切った虚飾の数々。
これらに激怒したギルド本部は、ゼロスのS級ライセンスを『永久剥奪』。さらに、ガレ村の復興費用や、過去に彼が意図的に発生させた魔獣被害の賠償金として、一生かかっても返しきれないほどの『莫大な違約金』が彼に請求されることとなった。
「いやだ! 俺の金が! 名声が! あ、そうだ……ワイズ! 炎上神ワイズ様ぁぁっ! 俺を助けてくれぇぇっ!」
天に向かって見えないスポンサーにすがりつくゼロスだが、当然、使い捨ての駒に過ぎなくなった彼に、神からの返答などあるはずもない。
「残念だったな、元・勇者殿。君の斡旋先はもう決まっている。……シーラン国の『マグローザ漁船』だ」
騎士団の隊長が、冷酷な宣告を下す。
「そこは一日二十時間の過酷な海上労働。そして船内通貨は『ケツ拭きのK(紙切れ)』のみという、最高にスリリングな職場だ。せいぜい、一生タダ働きして罪を償うんだな」
「ヒィィィィィィッ!? マ、マグローザだけは! マグローザだけはぁぁぁぁっ!!」
かつての栄光の面影など微塵もない、みすぼらしい小男が絶望の悲鳴を上げながら、ドナドナと王都の石畳を引きずられていく。
その光景を、俺たちはギルドの窓から冷ややかな目で見送っていた。
「……ざまぁみろですの! あんな奴、一生お魚の餌になればいいんですの!」
「ふふっ、トリス君が完全に論破しちゃったから、あいつの人生、完全に更地になっちゃったね」
「明日は我が身ッス……。俺も借金した時はあそこに行きかけたから、他人事とは思えねえッス……」
リーザが鼻を鳴らし、キャルルがクスリと笑い、ユートが青い顔をして身震いしている。
俺はタローマンジャージのポケットに手を突っ込んだまま、ギルドマスターから渡された『報酬の皮袋』の重みを確かめた。
「よし。これで厄介な障害物の排除は完了だ。ガレ村の緊急討伐報酬・金貨百枚(一千万円)もバッチリ振り込まれたことだしな」
俺がそう言うと、三人の目がパァッと輝いた。
「うおおおおっ! また大金が入ったッス!」
「トリス様! このお金で、またルナミスデパートの屋上で一番高いお肉を食べますの!?」
食欲魔神と化したリーザがヨダレを垂らすが、俺は首を横に振った。
「いや。今日はもっと『俺たちにふさわしい場所』で打ち上げ(宴会)だ」
▽ ▽ ▽
王都の繁華街の外れ。
オレンジ色の巨大なネオン看板が輝く、二十四時間営業のファミレス――『ルナミスキング(通称・ルナキン)』。
チリンチリン、とドアベルを鳴らして入店した俺たち四人は、一番奥の広いボックス席を陣取っていた。
テーブルの上には、これでもかとばかりに料理が山積みされている。
「キタァァァァッ! ルナキン名物、『ハンバーグ・ルナミス風』ッス!」
ジュージューと音を立てる鉄板の上で、分厚いロックバイソンの挽肉に、トロトロに溶けた特製ソース(ソーリーフ仕立て)がたっぷりとかかっている。エロ本を没収されて悟りを開いた『タマンネギ』が練り込まれているため、口に入れた瞬間にホロホロと崩れる極上の食感だ。
「いっただっきまーすのぉぉっ!」
リーザが両手にフォークとナイフを持ち、巨大なハンバーグを丸ごと口に放り込む。
俺の前の席では、ユートが『太陽芋の山盛りフライドポテト』をケチャップにドップリと浸して口に放り込み、メロンジュースで流し込んでいた。
「ぷはぁーっ! うめぇぇぇっ! やっぱ、高級レストランの緊張するフルコースもいいけど、俺にはこのルナキンのジャンクな味が一番落ち着くッス!」
「あはは、ユート君ってば口の周りソースだらけ。……ねぇトリス君、私はトリス君に『あーん』してほしいな♡」
俺の隣にピタリとくっついて座ったキャルルが、自分のハンバーグを切り分けて俺の口元に運んでくる。
俺はそれを無言でスルーし、自分用のブラックコーヒー(ポポロ豆ブレンド)を啜った。
「自分で食え、キャルル。……ユートの言う通りだ。いくら金(予算)があっても、分不相応な見栄を張ってハリボテの城に住む必要はない。安くても、丈夫で、落ち着く場所。それが一番の『豊かさ』だ」
俺の言葉に、ユートが大きく頷いた。
「その通りッス! あのゼロスって奴を見て、俺、本気で思ったんス。金で買ったステータスや装備なんて、ただのメッキだって」
ユートは、自分の着ているタローマン製の鉄鎧をコンコンと叩いた。
「俺は、三万円のこの鎧でいい。トリスが最高の足場を作ってくれて、キャルルがカバーしてくれて、リーザちゃんが歌ってくれる。……みんなが俺を『勇者』にしてくれるから、俺は戦えるんだ。それが、俺の本当の強さ(武器)ッス」
純朴な少年の、真っ直ぐな言葉。
ゴッドチューブで『本物の勇者』としてバズり、今や天文学的な知名度と期待を背負っているというのに、この男は全く天狗になっていない。
根っこにあるのは、仲間への感謝と、村人を守りたいという純粋な思いだけだ。
「……まぁ、その分、ゴッドチューブの視聴者からは『タローマン勇者』とか『ジャージ現場監督』とか、変な二つ名で呼ばれ始めてるけどな」
俺が苦笑交じりに言うと、リーザがハンバーグを飲み込んで得意げに胸を張った。
「いいじゃないですか! 私たち『ホープ・クローバー』の知名度が上がれば、依頼もいっぱい舞い込んできますの! そしたら、もっと美味しいものが食べられますの!」
「ふふっ、どんな敵が来ても、トリス君がいれば全部更地にできるもんね。……あーあ、トリス君がカッコよすぎて、世界中の女から狙われないか、私ちょっと心配かも」
キャルルが俺の腕にギュッと抱きつき、ウサギ耳をスリスリと押し付けてくる。
相変わらずの距離感バグと、食欲魔神と、お人好しの勇者。
騒がしくて、ポンコツで、世話の焼ける不良建材たち。
だが。
俺はコーヒーカップを置き、目の前で笑い合う仲間たちの顔を見つめながら、ふと、前世では決して感じることのなかった『温かい充実感』に胸を満たされていた。
(……悪くない)
どれだけ天界の神々が身勝手な図面を引こうと。
どれだけ理不尽な炎上や、強大な魔獣が押し寄せてこようと。
俺がこの『現場』を仕切っている限り、こいつらの笑顔と、この温かい日常だけは、絶対に守り抜いてみせる。
「おい、お前ら」
俺が声をかけると、三人が一斉にこちらを向いた。
「いつまでも食ってないで、さっさと腹を空にしろ。……明日は朝から、クランハウスの『バルコニー増築工事』だ。今日採ってきた紅蓮鉱石で、最新式のバーベキューコンロを施工してやる」
俺の言葉に、数秒の沈黙の後。
「うおおおおおおおおっ!! バーベキュー!! 庭で肉が焼けるッスか!!」
「最高ですのぉぉっ! 私、お肉百枚食べますの!」
「やったぁ! トリス君と一緒にお庭でデートだね♡」
ルナキンの店内に、割れんばかりの歓声が響き渡った。
虚飾のメッキを剥がし、本物の価値を証明した第三章。
俺たち『ホープ・クローバー』の波乱に満ちた施工ライフは、また明日からの騒がしくも幸せな『日常』へと続いていく。
最強の現場監督と愉快な職人たちの次なるプロジェクトが、今、希望と共に幕を閉じたのであった。
読んでいただきありがとうございます。
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