EP 8
【ざまぁ回】完全論破。フェラーリに乗った素人と、究極の『解体』
「どけ! どけぇぇぇッ!! 俺を壁の中に入れろォォッ!」
特級魔獣キマイラの威圧と恐怖に完全に心をへし折られたS級勇者ゼロスは、折れたシークレットブーツを引きずりながら、俺が錬成した防護壁のゲートへと無様に這い寄っていた。
「S級勇者であるこの俺が生き延びることこそが、世界にとって最大の利益だ! お前らのようなモブの村人が何十人死のうが、俺が助かればそれでいいんだよォォッ!」
口から血と唾液を撒き散らしながら、身勝手なエゴを喚き散らすゼロス。
ゴッドチューブの魔導カメラは、その醜悪な本性を寸分違わず全国へと生配信し続けている。
彼が防護壁のゲートにすがりつこうと手を伸ばした、その瞬間だった。
「――お前の工事(出番)は、もう終わりだ」
冷徹な声と共に、ゼロスの目の前に一人の少年が立ち塞がった。
タローマン製のジャージを着こなし、両手をポケットに突っ込んだままの俺――一級建築士のトリスだ。
「なっ……! き、貴様ぁぁっ! さっきの底辺冒険者の小僧!」
「底辺じゃない。俺は『現場監督』だ。お前のような安全管理ゼロのクソ業者から、この現場を引き継ぎに来てやったんだよ」
俺が冷たく見下ろすと、ゼロスの顔が屈辱と怒りで真っ赤に染まった。
死の恐怖で狂乱状態にある彼は、八つ当たりのように俺へと殺意を向けた。
「ふざけるなァァッ! 俺はS級だぞ! 【マネー】の力で、ステータスはレベル100相当に跳ね上がっているんだ! 貴様のような無名チビ、一撃で挽肉にしてやるぅぅッ!!」
ゼロスが、狂ったようにオリハルコンソードを振り上げる。
課金バフによる強烈な光の刃が、俺の脳天目掛けて振り下ろされた。ステータスの数値だけで見れば、確かに凄まじい速度と破壊力だ。
――だが。
「……遅い」
俺はポケットから手を出すことすらなく、わずかに半歩だけ身をずらした。
ズガァァァンッ! という轟音と共に、俺の隣の石畳がオリハルコンソードによって粉砕される。
「な、なにィッ!?」
「剣の軌道が単調すぎる。脇が甘く、踏み込みの重心がブレているから、予備動作がバレバレなんだよ。それに――」
俺は地面をトン、とつま先で叩いた。
【建築工房】が瞬時に起動し、ゼロスの足元の石畳が液状化して滑る『環境トラップ』を形成する。
「うわあっ!?」
ただでさえシークレットブーツの踵が折れてバランスを崩しているゼロスは、滑る石畳に対応できず、大きく体勢を崩した。
俺はそこへ、ポケットに手を入れたまま、コンパクトで鋭い『足払い』を叩き込む。
膝の関節の裏側――構造力学的に最も人間が耐えられない『ジョイント部分』への的確な打撃。
「グギャッ!?」
無様なカエルのような悲鳴を上げ、ゼロスは前のめりにスッ転び、石畳に顔面を強打した。
ゴッドチューブのカメラが、その無様な姿を最高のアングルで捉える。
「あ、あぁ……! 俺の、俺の顔が……! くそぉぉっ、殺してやる! ステータスは俺の方が圧倒的に上なんだぞぉぉっ!」
鼻血を出しながらも、ゼロスは狂乱して再び立ち上がろうとする。
俺は、もがくゼロスの背中を特注安全靴の裏で容赦なく踏みつけ、地面に押さえ込んだ。
「……いい加減に理解しろ、欠陥住宅」
俺の氷のように冷たい声が、特設ドームと化したガレ村の広場に響き渡る。
全国の視聴者が、そして天界の神々が息を呑んでモニターを見つめている中、俺はゼロスの根幹を否定する『完全論破』を叩きつけた。
「ステータス(馬力)が高い? だからどうした。……お前、自動車学校に通わないで、フェラーリを運転してどうするんだ?」
「……は、あ……?」
「レベル1の器しかないお前が、金に物を言わせてレベル100のエンジン(ステータス)を積んだところで、その速度と出力を制御できる技術がない。だから、無駄なモーションで自滅し、ちょっと蹴られただけでバランスを崩す」
俺は踏みつける足にギリッと力を込めた。
「お前は、基礎工事もせずに外壁だけを豪華にした『見掛け倒しのハリボテ』だ。少しのイレギュラー(強風)が吹けば、一瞬で倒壊する構造欠陥。……プロとして、お前みたいなふざけた業者は、ここで完全に『解体』してやる」
俺がパチン、と指を鳴らす。
それが、現場監督から職人への『着工の合図』だった。
「――リーザ!」
「はいですのぉぉっ!! 待ってましたの!!」
防護壁の上から、マイクを握りしめたリーザが弾丸のように飛び降りてきた。
彼女の背後には、虚空から現れた超巨大な『お賽銭箱型掃除機』――ユニークスキル【貧乏神】の権化が浮かび上がっている。
「私の特等席へようこそですの! お前みたいな見栄っ張りのクズから吸い取る資産(お金)は、さぞかし美味しいでしょうねぇぇっ!」
ブォォォォォォォォォォンッ!!!
リーザの【貧乏神】が、最大出力の吸引力を発揮した。
「ヒィッ!? な、なんだ!? 俺の体が……俺の力がぁぁっ!」
ゼロスの全身を覆っていた【マネー】の黄金のオーラ(課金バフ)が、文字通り『吸い込まれる』ようにリーザの掃除機へと吸い取られていく。
それだけではない。
彼の腰にあった魔法ポーチから大量の白金貨が飛び出し、黄金の鎧に施されていた金箔とダイヤのコーティングが剥がれ落ち、ただの重く薄汚れた鉄の鎧へと成り下がる。
さらに、彼が口臭を誤魔化すために使っていた『魔導ホワイトニング(白い歯)』の魔法効果まで吸い取られ、タバコのヤニで真っ黄色に染まった不潔な歯が露わになった。
「あ、あぁ……俺の、俺の金が! 俺の輝きがぁぁっ!!」
「まだまだですの! そのふざけた靴の仕掛けも没収ですのぉぉっ!」
バキバキッ! と音を立てて、ゼロスの履いていたシークレットブーツの魔法構造が破壊され、23センチの『違法増築部分』が消滅する。
高身長のイケメン勇者は、一瞬にして身長160センチそこそこの、薄汚れた小男へと縮んでしまった。
「……さて」
俺は、全てを剥ぎ取られ、石畳の上でガタガタと震える小さな男を見下ろした。
「黄金の鎧も、課金のバフも、シークレットブーツも、全部消えたな。……一体お前は、装備と金を全部剥がしたら、何が残るんだ?」
「あ……あぁ……っ」
ゼロスは完全に言葉を失っていた。
身長は低く、顔は恐怖で歪み、ヤニで汚れた歯からは強烈な『ポポロシガーの口臭』が漂っている。
金で買った力がなければ、ただのチンピラ以下の『怯える素人』。
それが、S級勇者ゼロス・ディバインの真の姿だった。
――そして。
その一部始終は、宙を浮遊するゴッドチューブの魔導カメラによって、全国へ、そして天界へと完璧なアングルで生配信されていた。
『うわぁぁぁ……ゼロス、チビじゃん!』
『シークレットブーツで23センチ盛ってたのかよ! 詐欺だろ!』
『口臭っさ! 画面越しでも臭いが伝わってきそう!』
『村人盾にしようとした挙句、Eランクに手も足も出ないで金剥ぎ取られて泣いてる……ダサすぎて草も生えない』
『スパチャ返せ! この詐欺業者!』
ゴッドチューブのコメント欄は、空前絶後の大炎上状態となっていた。
ゼロスというハリボテの偶像は、俺たちの手によって完全に解体され、社会的に抹殺されたのだ。
▽ ▽ ▽
「な、なんだこれはぁぁぁっ!!?」
天界の暗室で、炎上神ワイズがエンジェルすまーとふぉんを床に叩きつけた。
「俺の完璧な台本が! ゼロスの絶望と復活による最高のPV稼ぎが! あのタローマンジャージのガキのせいで、ただの『悪徳勇者の炎上謝罪配信』になってるじゃねえか!!」
ワイズは頭を抱え、ギリギリと歯ぎしりをする。
彼の予定では、キマイラの圧倒的暴力にゼロスが打ち勝ち、莫大なスパチャと賞賛を得るはずだった。
だが現実は、ゼロスの醜態と、それを論破して制圧した『謎の現場監督』への注目へと、視聴者の関心が完全に移り変わってしまっていた。
『すげえ、あのジャージの兄ちゃん何者!?』
『ゼロスの攻撃をポケットに手を入れたまま捌いたぞ!』
『しかも土壁を一瞬で錬成してたし……あいつが本物の勇者なんじゃね!?』
「ふ、ふざけるなぁっ! 俺の数字(PV)を横取りしやがって……! ええい、ミラース! キマイラにもう一発指示を出せ! あいつらを皆殺しにして、配信を強制終了させろ!!」
ワイズの狂った命令が、ミラースへと飛ぶ。
▽ ▽ ▽
『グゴォォォォォォォォォォッ!!』
ガレ村の広場。
完全に無力化されたゼロスの横で、事態を静観(威圧)していた特級魔獣キマイラが、ついに怒りの矛先を俺たち『ホープ・クローバー』へと向けた。
獅子の口から高熱の火炎が漏れ、山羊の角から毒の瘴気が吹き出す。
「ヒィィッ! ば、化け物が来るゥゥッ!!」
すっかり縮み上がり、股間を濡らしたゼロスが惨めに後ずさる。
「……害虫駆除(残業)の時間だな」
俺はゼロスから足を退け、キマイラを見据えて首をゴキリと鳴らした。
「おい、ユート! キャルル! カメラの前の全国の視聴者に、俺たち『ホープ・クローバー』の本当の仕事を見せてやれ!」
「はいっ!!」
「任せて、トリス君!」
タローマン鉄鎧を身に纏った勇者ユートが、一歩前に出て鉄盾を構える。
キャルルが特注安全靴の踵を鳴らし、ウサギ耳をピンと立てて戦闘態勢に入った。
偽物のハリボテ勇者は退場した。
ここからは、最強の現場監督と不屈の職人たちによる、最高の『解体ショー(討伐劇)』の幕開けだ。
読んでいただきありがとうございます。
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