EP 4
やらせクエスト発注。ターゲットは『過疎の開拓村』と、悪徳プロデューサーの陰謀
翌日。
俺たち『ホープ・クローバー』の四人は、日課の資材確認のために、王都の冒険者ギルドを訪れていた。
「……おいおい、何だこの騒ぎは」
ギルドの扉を開けた瞬間、一階フロアは異様な熱気とどよめきに包まれていた。
普段は冷静なギルドマスターが、血相を変えて掲示板のド真ん中に『緊急・赤紙クエスト』を貼り出しているところだった。
「静まれ、お前ら! 緊急事態だ!」
ギルドマスターの怒声に、荒くれ者の冒険者たちが水を打ったように静まり返る。
「王都から東へ馬車で半日。辺境の開拓村『ガレ』に向けて、オークの軍勢が進行中だ! その数、およそ二百! このままでは数時間後にガレ村は完全に蹂躙される。討伐報酬は破格の金貨百枚(約一千万円)! 腕に自信のあるCランク以上のパーティーは、今すぐ出撃してくれ!」
その報告に、ギルド内がざわめいた。
オーク単体ならそれほど脅威ではないが、二百匹の群れとなれば話は別だ。しかも開拓村となれば、防壁も貧弱だろう。一歩間違えれば、冒険者側も全滅しかねない危険な現場だ。
中堅の冒険者たちが「報酬は美味いが、割に合わねえぞ……」「二百は流石にキツい」と二の足を踏んでいる、その時だった。
「――待たせたね、愛する子羊たち!」
バンッ! と大げさな音を立ててギルドの扉が開き、眩い黄金の鎧に身を包んだ男が足を踏み入れた。
周囲には、三台のゴッドチューブ撮影用『魔導カメラ』が、男の顔を様々な角度から完璧なライティングで捉えながら浮遊している。
「S、S級勇者のゼロス・ディバイン様だぁぁっ!」
「キャァァァッ! ゼロス様、今日もマントがなびいてて素敵!」
カメラを意識し、眩しすぎる白い歯(魔導ホワイトニング)を見せつけてウインクを放つゼロス。
彼は大股でギルドマスターの前に進み出ると、わざとらしく胸に手を当てて宣言した。
「嘆くことはない。この私、ゼロス・ディバインがその依頼、引き受けよう! 辺境で震える可哀想な村人たちは、この私の『愛と勇気の剣』で必ず救い出してみせるさ!」
うおおおおおっ!! と、ギルド中から割れんばかりの拍手と大歓声が巻き起こる。
純朴なユートも「やっぱS級は覚悟が違うッス!」と感動しているが、俺はタローマンジャージのポケットに手を突っ込んだまま、呆れ顔で掲示板の横に貼られた『ガレ村周辺マップ』を眺めていた。
「……トリス君。あの男の顔、安全靴で蹴り砕いていい?」
「駄目だキャルル。あんなハリボテを蹴ったら、お前の靴が汚れる」
「あの嘘くさい笑顔、お口の中に『折れたス』をねじ込んでやりたいですの」
キャルルとリーザが、相変わらず鋭い野生の勘でゼロスへのヘイトを募らせている。
そんな中、俺の『脳内CAD』が、マップ上の一点に強烈なアラート(青色)を点滅させた。
(……おいおい。ガレ村のすぐ裏手にある『竜脈の採石場』。ここ、最高級の耐火・魔力伝導素材である『紅蓮煉瓦』の原料になるレア鉱石の産地じゃないか。……そういえば、うちのクランハウスのバルコニー増築と、最新式バーベキューコンロの施工図面に、あの煉瓦が必要だったな)
俺はニヤリと笑い、喧騒をよそに、受付嬢のカウンターへと歩み寄った。
「すまん。ガレ村周辺での『紅蓮鉱石の採取クエスト』、俺たち『ホープ・クローバー』が受注する」
「えっ!? ト、トリス様! 今はガレ村の周辺はオークの軍勢が迫っていて危険すぎます! S級のゼロス様が向かうとはいえ、巻き込まれたら……!」
「問題ない。チンタラとカメラアングルを気にしている素人業者より、俺たちの方が圧倒的に早く現場に着く。サクッと資材だけ回収して帰るさ」
俺が半ば強引に採取クエストの羊皮紙をもぎ取ると、ユートが慌てて駆け寄ってきた。
「ト、トリス!? いくらなんでも危険すぎません!? それに、あの村はゼロス様が救うんだから、俺たちが行かなくても……」
「ユート。前世の言葉に『素人の突貫工事ほど怖いものはない』という格言がある」
俺はゼロスの背中を冷ややかな目で見据えながら、ユートの肩を叩いた。
「あいつの装備も、歩き方も、全てがハリボテだ。あんな欠陥だらけの業者が現場監督をやれば、必ず『重大な労働災害(事故)』が起きる。……もし、あいつのクソみたいな仕事のせいで、俺たちの資材調達の現場まで延焼(もらい火)するようなら、俺がプロとして『更地』にリフォームしてやる必要があるからな」
俺の言葉に、ユートはゴクリと生唾を飲み込んだ。
キャルルは「ふふっ、トリス君が壊すって言うなら、私も全力で手伝うね♡」とウサギ耳を揺らし、リーザは「紅蓮鉱石……高く売れそうですの!」とヨダレを垂らしている。
「よし、出勤だ。安全第一でいくぞ」
▽ ▽ ▽
――同じ頃。
天界でも、地上でもない、暗黒の異空間。
アバロン魔皇国に属する魔王軍の幹部・ネフィリムの男『ミラース』は、愛用する妖刀・哭刀の柄に手をかけながら、空間に浮かび上がったホログラムの映像を忌々しげに睨みつけていた。
『――ヒヒッ。いいじゃんいいじゃん。オークの群れ、バッチリ村に向かってるねぇ』
ホログラムの向こう側に映っているのは、マイタンブラーに入れたカプチーノを啜りながら、エンジェルすまーとふぉんを操作している炎上神・ワイズだった。
「……悪趣味な神だ。戦う力を持たない開拓村の人間を、オークの群れに蹂躙させる。それが神の引く絵図か? 貴様の考え方は、昭和のブラック企業のクソ親父か、軍隊のそれだぞ」
『あ? 何言ってんのミラースちゃん。これはエンタメ(PV)のためだよ。圧倒的な暴力に蹂躙され、逃げ惑い、絶望する村人。……そこに! 颯爽とイケメン勇者ゼロスが登場して敵をなぎ倒す! この『落差』が、視聴者のスパチャ(投げ銭)を極限まで煽るんだよ!』
ワイズはゲラゲラと下品な笑い声を上げる。
『だから、オークどもには少しだけ暴れさせろ。家を焼き、何人か村人が死にかけて悲鳴を上げた一番『美味しいタイミング』で、ゼロスを投入する。……カメラの準備と、最高の照明が整うまで、ゼロスには村の入り口で待機させてあるからな』
「……狂っているな。人の命を、貴様らの視聴率のダシに使うとは」
ミラースは吐き捨てるように言った。
彼はワイズと裏で『契約』を結んでいる。ワイズのヤラセ配信に魔王軍の魔獣を提供する代わりに、ミラース自身が魔王を蹴落として玉座に座るための『圧倒的なステータスバフ』を神の権限で付与してもらうという裏取引だ。
『狂ってねえよ。結果的に村は(一部の犠牲を除いて)救われるし、ゼロスは名声を得る。俺はPVで天界の予算をガッポリもらう。お前は魔王になるための力を得る。完璧なウィンウィン(ビジネス)じゃん』
ワイズがスマホの画面をスワイプすると、ガレ村周辺のデータが空中に表示された。
『ん? おやぁ? なんだこりゃ。ガレ村の周辺に、Eランクの底辺冒険者パーティーが近づいてるな。採取クエストのついでか?』
「……始末するか?」
『いや、放置でいいよ。どうせオークの群れに巻き込まれてミンチになるだけだ。運良くカメラに映れば、「愚かな新米冒険者が無惨に死ぬシーン」として、悲劇のスパイス(撮れ高)になるからな。ヒハハハハッ!』
画面の向こうで嗤う炎上神の姿に、ミラースは静かに通信を切った。
「……神も勇者も、腐りきっている。最後に玉座に座り、全てを斬り捨てるのは俺の『剣』だ」
人の命を数字(PV)としか見ていない神と、それに群がる虚飾の勇者。
彼らは完全に舐めていた。
その『悲劇のスパイス』として巻き込もうとしたEランクのパーティーの中に、天界の神々(ヴァルキュリアやルチアナ)すらも驚愕させる『規格外の一級建築士』が混ざっているということを。
▽ ▽ ▽
ガタゴトと、ロックバイソン(牛型魔獣)が牽く荷馬車が、ガレ村へ続く荒野の道を爆走していた。
荷馬車の御者台で手綱を握りながら、俺は『脳内CAD』でガレ村の周辺地形と、接近するオークの群れの進行ルートをリアルタイムでマッピングしていた。
「……やっぱりおかしいな」
俺の呟きに、荷台でタローマン鉄鎧を磨いていたユートが顔を上げた。
「何がおかしいんスか、トリス?」
「オークの進軍ルートだ。野生の魔獣の群れなら、もっと地形に沿ってバラけて進むはずだ。だが、こいつらはまるで『統率された軍隊』のように、一直線にガレ村だけを狙って進軍している。……人為的な意図(誰かの指示)を感じるな」
俺の分析に、キャルルがウサギ耳をピンと立てた。
「じゃあ、あのキモい勇者が裏で糸を引いてるってこと? 自分で火をつけて、自分で消すみたいな?」
「……限りなく黒に近いグレーだな。前世の悪徳リフォーム業者がよくやる手だ。わざと屋根瓦を割っておいて、『お客さん、屋根が傷んでますよ。すぐに修理しないと大変なことになります!』と恩着せがましく高額な契約を迫るマッチポンプだ」
俺はロックバイソンの手綱を強く握り直した。
「どこの世界にも、人の弱みに漬け込んで金と名声を稼ごうとするゴミ業者はいる。だが……俺が行く現場で、そんなクソみたいな手抜き工事は絶対に承認しない」
「トリス君、怒ってる? ……ふふっ、いいよ。そういうトリス君のためなら、私、オークだろうとあのハリボテ勇者だろうと、全部蹴り砕いてあげる」
「私もですの! 私の新しいお家の増築素材を邪魔する奴は、貧乏神のルンバで全財産吸い取ってやりますの!」
キャルルが特注安全靴の踵を鳴らし、リーザがマイクを構える。
ユートも「俺も……絶対に村の人たちを犠牲になんかさせないッス!」とタローマンの鉄剣を強く握りしめた。
「よし、ガレ村まであと少しだ。これより俺たち『ホープ・クローバー』は、予定を少し変更する」
俺は、前方の砂煙の向こうに見えてきた開拓村のシルエットを睨み据えた。
「資材(鉱石)の回収の前に……まずは、現場を荒らす害虫の駆除と、悪徳業者の『強制排除(コンプライアンス執行)』を行う。……気合い入れろよ、お前ら!」
俺の号令に、三人の力強い返事が荒野に響き渡る。
炎上神の仕組んだ最悪の悪趣味な『配信』を、最強の現場監督が物理と論理で完全に『解体』するための工事が、いよいよ着工されようとしていた。
読んでいただきありがとうございます。
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