表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
24/33

EP 9

 規格外の討伐報酬(特大ボーナス)と、最強クランの王都凱旋

 ルナミス帝国の王都、冒険者ギルド本部。

 普段は荒くれ者たちの怒声と笑い声で満ちているその一階フロアは、現在、水を打ったような静寂に包まれていた。

「……えっと。もう一度、説明してくれるか? トリス君」

 ギルドの最奥にある、重厚なオーク材のデスク。

 そこに座る筋骨隆々のギルドマスターが、こめかみを指で揉みほぐしながら、うわ言のように呟いた。

「ですから、事前に提出した報告書の通りです」

 俺はタローマンジャージのポケットに手を突っ込んだまま、淡々と事実レポートを述べる。

「ポポロ村のメロロンとずっ友ロコシの収穫作業中、突如として『暴走地竜(ジオ・リザード変異体)』が地下から出現しました。我々『ホープ・クローバー』は、村人の安全を確保しつつ、これを緊急解体(討伐)。ついでに、現場で恐喝および手柄の横取りを図ったCランクパーティー『赤き牙』を拘束し、ギルド駐在員に引き渡しました」

「…………」

 ギルドマスターは、俺の隣でニコニコしている三人の不良建材メンバーと、デスクの上にドサリと積まれた『暴走地竜の極上素材』を交互に見つめた。

「あのなぁ……暴走地竜っていったら、通常ならAランクパーティーが三組がかりでようやく抑え込めるかどうかっていう、歩く自然災害だぞ!? それを、結成数日のEランク(訓練生)パーティーが無傷で討伐しただと!?」

「ええ。基礎構造スペックの高い職人が揃っていましたからね。適切な工程管理ディレクションさえあれば、巨大なだけの的(クソ物件)を解体するのは容易いことです」

「……お前のその、建築業者みたいな例えはよく分からんが……信じざるを得ないな。この『素材』を見せられちまったら」

 ギルドマスターは震える手で、デスクに置かれた漆黒の鱗と、スイカほどの大きさがある高純度の魔石を撫でた。

「すげえ……。通常、激戦の末に討伐された魔獣の素材は、魔法や剣撃でボロボロに傷ついているもんだ。だが、この鱗には傷一つないし、魔石も魔力の濁りが全くない。まるで、生きている状態からパズルを解くように『分解』されたみたいだ」

「当然でしょう。力任せの解体は建材の価値を下げる。俺の【建築工房】で、骨組みと装甲のジョイント部分から丁寧に分離マテリアル・セパレートしましたから」

 俺の言葉に、ギルドマスターは呆れたように大きなため息を吐いた。

「規格外にも程があるぜ。……よし。ポポロ村からの報告書と、駐在員の提出した魔導クリスタル(録画映像)の証拠もある。『赤き牙』の連中はライセンス剥奪の上、マグローザ漁船行きが確定した。そしてお前らには、特別昇級の打診と共に、今回の討伐報酬としてこれを支払う」

 ドンッ! と。

 ギルドマスターがデスクの上に置いたのは、最高額紙幣の束と、鈍い輝きを放つ『白金貨プラチナコイン』がギッシリと詰まった革袋だった。

「地竜の素材の売却益と、特別討伐ボーナス。合わせて金貨五百枚……日本円換算で、ざっと五千万円ってところだ」

「ご、ごせんまん……!?」

 ユートが白目を剥いて、その場にバタリと倒れ込んだ。

 借金百万円でマグローザ漁船に怯えていた純朴な農民にとって、致死量に等しい金額である。

「キャァァァァッ!! 五百円玉スパチャが、山のようにありますのぉぉっ!」

 リーザがヨダレを撒き散らしながら白金貨の山にダイブしようとしたが、俺は彼女のジャージの襟首を掴んで空中で制止した。

「慌てるな。これはクランの共有財産(運転資金)だ。……ギルドマスター、査定額には納得しました。良い取引ビジネスでしたね」

「ああ。だが、お前らみたいな化け物新人を抱えるこっちの胃袋の心配もしてくれよな。……お疲れさん。今日は美味いもんでも食って、ゆっくり休め」

     ▽ ▽ ▽

 ギルドを後にした俺たちは、夕暮れ時の王都の大通りを歩いていた。

「へへっ……へへへっ……俺、もう一生太陽芋だけかじって生きていかなくていいんだ……」

「ユート様、顔がだらしないですの! ここはパーッと、ルナミスデパートの屋上で、一番高いお子様ランチを頼むべきですの!」

 札束の入ったカバンを抱きしめて不気味に笑うユートと、スキップを踏みながら食欲を爆発させているリーザ。

 キャルルは俺の右腕にピッタリとくっつき、ウサギ耳を揺らしながらご機嫌にハミングしている。

「トリス君、このお金で何買うの? 私、トリス君とお揃いの服とか欲しいな」

「服はタローマンジャージの機能性が一番だ。それより、優先すべきは『インフラの拡充』だ」

 俺は足取りも軽く、王都で最も大きな『魔導具・家具専門店』へと向かった。

 莫大な資金が手に入った今、やるべきことは一つ。クランハウスの生活水準クオリティ・オブ・ライフを極限まで引き上げることだ。

「すみません、この店で一番デカくて、一番性能の良い『魔導給湯器付きのバスタブ』を見せてくれ」

 店に入るなり俺がそう宣言すると、三人が目を丸くした。

「お、お風呂ですか!?」

「えっ、トリス君、もしかして一緒に入ってくれるの……!?」

「混浴はしねえよ、キャルル。……いいかお前ら、一流の職人にとって、疲労回復メンテナンスは何よりも重要なタスクだ」

 俺は店員が案内してきた、大理石調の巨大な魔法浴槽をコンコンと叩きながら説明する。

「このクランハウスを建てた時、シャワー室は作ったが、湯船は後回しにしていた。だが、今日の地竜戦を見て確信した。お前らのあの無茶苦茶な機動力と出力スペックを維持するには、最高の『風呂』と『飯』が不可欠だ」

 前世のデスマーチ時代、俺の唯一の癒やしは、たまに行けるスーパー銭湯だった。

 冷えた身体とすり減った精神を、温かい湯に沈めて溶かしていくあの瞬間。それを、この不器用で真っ直ぐな仲間たちにも味わせてやりたかったのだ。

「これをもらう。それと、そこの高級羽毛布団を四つ。配送は丘の上の黒い城まで頼む」

「ま、毎度ありがとうございますぅぅっ!」

 白金貨をポンと支払う俺を見て、店員が床に頭を擦りつける勢いで見送ってくれた。

「トリス様……太っ腹ですの! スポンサーの鑑ですの!」

「俺たちのために、こんな大金を……。トリス、一生ついていきます!」

「……もう、トリス君ったら。そういう優しいところ、本当に好き」

 三人がそれぞれの言葉で感謝を伝えてくる。

 俺は「勘違いするな、先行投資だ」と照れ隠しに悪態をつきながら、次に『王都中央市場』へと足を向けた。

「さて。風呂の準備はできた。次は『飯』だ」

 俺の言葉に、三人の目が爛々と輝いた。

「ポポロ村の村長から極上の『肉椎茸』をもらったが、それだけじゃ足りないだろ。今日はうちのクランの初の大戦果(初任給)だ。予算の糸目はつけない。好きな食材(建材)を選べ。俺が最高のフルコースにリフォームしてやる」

「うおおおおおっ!! 肉だ! 一番高い赤身肉ドラゴン・ビーフをお願いします!」

「私はケーキですの! 生クリームがタワーになってるやつですの!」

「私は、トリス君が作ったものなら何でもいいよ♡ あ、でも甘いニンジンはいっぱい食べたいな」

 市場の店を次々と回り、両手で抱えきれないほどの高級食材を魔法ポーチに放り込んでいく。

 喧騒に包まれた市場を歩きながら、俺はふと、夕焼け空を見上げた。

(……前世じゃ、ボーナスが出ても一人でコンビニのビールを少し高いやつに変えるくらいだったのにな)

 今、俺の隣には、金に目がくらんだ勇者と、食い意地の張ったアイドルと、ヤンデレの姫がいる。

 騒がしくて、ポンコツで、手のかかる奴らだ。

 だが、俺の引いた設計図の上で、誰よりも見事に、誰よりもカッコよく立ち回ってくれる最高の職人パートナーたちでもある。

「ほら、さっさと歩けお前ら。日が暮れるぞ」

「待ってくださいよぉ、トリス! この串焼きも買っていいですか!?」

「ユート様、抜け駆けはずるいですの! 私も食べますの!」

 両手に買い食いの串焼きを持ったユートとリーザを急かしながら、俺たちは王都の門を抜け、見晴らしの良い丘へと続く道を登っていった。

 丘の頂上。

 夕焼けの赤と、夜の藍色が混ざり合う空を背景に、俺が建築した漆黒の要塞――『ホープ・クローバー』のクランハウスが、堂々たる姿で俺たちを待っていた。

「……あー、なんか」

 ユートが、丘の上に建つ我が家を見て、ぽつりと呟いた。

「こうして見ると、すっげえ安心するというか……『帰ってきた』って感じがしますね」

「ええ。世界で一番、安全で温かい場所ですの」

「トリス君が作ってくれた、私たちの『お城』だもんね」

 三人の言葉に、俺はタローマンジャージのポケットから手を抜き、玄関の重厚なドアノブに手をかけた。

 防弾ガラスも、鉄筋コンクリートの壁も、全てはこの内側にある『日常』を守るためにある。

「……ああ。帰ろうぜ、お前ら」

 俺がドアを開けると、魔導具の柔らかな光がエントランスを照らし出した。

 最強の現場監督と、愉快な不良建材たちの慰安旅行。

 その全てを締めくくる、最高に騒がしくて幸せな『夕食(打ち上げ)』の時間が、今まさに始まろうとしていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ