EP 8
最強魔獣の解体作業と、逃亡したクレーマーの完全排除
暴走地竜がユートの限界突破の雷撃によって完全に消滅し、特設ドームを包んでいた熱気と土煙が徐々に晴れていく。
村人たちの熱狂的な大歓声が響き渡る中、俺はコントロールブースから飛び降り、ステージの上でへたり込んでいる三人の元へと歩み寄った。
「安全確認(討伐)完了だ。お疲れさん、お前ら」
「トリス様……! やりましたの、私たち、あんなバケモノに勝ちましたの!」
リーザが俺のタローマンジャージに飛びついてきて、顔をスリスリと押し付けてくる。
キャルルも「トリス君の作戦通りだったね」と微笑み、ユートはまだ信じられないというように、自分の両手と黒焦げになった鉄剣の柄を交互に見つめていた。
「俺……本当に、あんなデカい竜を倒したんですね……。全部、トリスが最高の舞台(お膳立て)を作ってくれたおかげだ……!」
「勘違いするな。最後の一撃はお前の力だ。俺はただ、お前が剣を振り下ろすための『足場』を整えたに過ぎない」
俺はユートの肩をポンと叩き、ステージの下――地竜が消滅した跡地へと視線を向けた。
そこには、雷撃で消し炭になることを免れた『超一級品の建材(レア素材)』が山のように残されていた。
地竜の強靭な背骨、熱を帯びた巨大な魔石、そしてダイヤモンドに匹敵する硬度を持っていた漆黒の鱗の残骸だ。
「さて、感動のフィナーレの途中だが、現場監督としてはここからが本番だ。さっさと解体作業(片付け)を終わらせて、王都に帰るぞ」
俺は袖をまくり上げ、【建築工房】の演算を起動した。
普通の冒険者なら、これほど巨大な魔獣の素材を解体して運ぶだけで数日がかりの大仕事になる。だが、俺のスキルにかかれば、魔獣の解体など『建物のリノベーション』と何ら変わりはない。
「素材分離」
俺が手をかざすと、地竜の残骸が光に包まれ、まるでパズルが自動的に解けるように、骨、鱗、皮、魔石へと綺麗に分類されて宙に浮き上がった。
血の一滴も流さず、素材を傷つけることもない、完璧でシステマチックな解体作業だ。
「す……すごいですの! あの巨大な魔石、王都で売れば金貨数百枚は下りませんのぉぉっ!」
「トリス君、その硬い鱗、私の新しい安全靴の素材に使えないかな?」
「ああ、任せろ。お前らの装備のアップデートには、これ以上ない極上の素材だからな」
俺が素材を次々と魔法ポーチに収納していると、特設ドームの防弾ガラスの向こう側から、ポポロ村の村長をはじめとする村人たちが、涙を流しながら駆け寄ってきた。
「勇者様ぁぁっ! そして、黒服のリーダー殿! なんとお礼を申し上げたらよいか……! あなた方は、ポポロ村の恩人ですじゃ!」
村長が、俺とユートの前に深々と土下座をする。
それに倣って、百人の村人たちも次々と頭を下げた。
「や、やめてください村長さん! 俺たちはただ、依頼をこなしただけで……!」
「いいえ! 本来の依頼はメロロンの収穫だけだったはず。あのような規格外の化け物から村を死守してくださったのは、あなた方の慈悲と勇気のおかげです!」
村の若い娘たちが「勇者様、カッコよかったです……!」と黄色い声を上げ、純朴な童貞農民であるユートが顔を真っ赤にしてパニックになっている。
リーザは村のオバチャンたちから「いっぱい歌って疲れたでしょ、これ食べなさい」と大量のパンや果物を渡され、ハムスターのように頬袋を膨らませていた。
「リーダー殿。これは当初の依頼の報酬である金貨五十枚と……村からのせめてもの感謝の印です。どうか、お受け取りくだされ」
村長が差し出したのは、ずっしりと重い皮袋と、数台の荷車に山積みされたポポロ村の特産品だった。
最高級の肉椎茸に、ポポロ・コーヒーの豆。さらに、フェロモンを完全に抜いて安全処理を施した極上のクイーンメロロンまである。
「……ありがたく受け取っておく。俺たちのクランは、大食いが揃っているんでね」
俺が営業スマイルで受け取った、その時だった。
「――おいおい、ちょっと待てよジジイ! その報酬と素材の所有権は、俺たち『赤き牙』にあるはずだぜ!」
特設ドームの入り口から、下品で傲慢な怒声が響き渡った。
振り返ると、そこに立っていたのは、先ほど地竜が現れた瞬間に真っ先に敵前逃亡を図った、あの王都のCランク冒険者パーティー『赤き牙』の六人だった。
「なっ……お、お前たち! 化け物が出た途端、我らを見捨てて一目散に逃げ出したくせに、今更どの面下げて……!」
村長が怒りに震えて抗議するが、リーダー格の男は鼻で笑った。
「逃げたんじゃねえよ! 俺たちは、あいつを倒すための『遅効性の猛毒』を仕掛けるために、一度戦略的撤退をしただけだ! 俺たちの毒が回って弱ってたところを、このEランクのガキどもが横取り(ラストアタック)しただけだろうが!」
あまりにも見え透いた、そして厚顔無恥な嘘だった。
Cランクという権力を盾にして、田舎の村人と新米冒険者を脅し、莫大な利益だけを掠め取ろうとする。まさに冒険者業界の最底辺だ。
「ふざけるなですの! あんたたち、ただ泣き叫んで逃げていっただけじゃないですか!」
「そうだ! トリスと俺たちで倒したんだ!」
リーザとユートが怒り狂い、キャルルに至っては無言でウサギ耳を伏せ、男たちの首の骨を折るための動線計算を始めている。
「うるせえガキども! 王都のギルドじゃ、俺たちCランクの証言が絶対なんだよ! お前らが俺たちから手柄を横取りしたって報告されたくなきゃ、さっさとその素材と報酬を置いて消え――」
「――おい」
俺は、キャルルを手で制して一歩前に出た。
タローマンジャージのポケットに手を突っ込んだまま、呆れ果てたような、底冷えのする声で男たちを見据える。
「俺の作った現場の中で、これ以上デカい口を叩くな。環境基準に違反する」
「あぁん? なんだとテメェ――」
男が剣の柄に手をかけた、その瞬間。
「『赤き牙』の皆さん。……見苦しい嘘はそこまでにしてください」
俺の背後、ドームの安全地帯の影から、一人の男が静かに歩み出てきた。
仕立ての良いスーツに身を包み、手には記録用の魔導具を持った、ポポロ村担当のギルド駐在員だ。
「ちゅ、駐在員!? な、なんでお前がこんな最前線に……!」
男たちの顔から、サァッと血の気が引いた。
「トリス様が、開戦前に『現場の安全確認と、事後の報告書作成のために立ち会ってほしい』と、私をこの絶対安全な防弾ガラスのドーム内に招き入れてくださっていたのです。……一部始終、全てこの魔導クリスタルに録画させていただきましたよ。あなた方の見苦しい敵前逃亡も、トリス様たちの素晴らしい連携と、勇者ユート様の一撃もね」
駐在員が冷たく言い放つと、『赤き牙』のメンバーは完全に言葉を失い、ガクガクと膝を震わせ始めた。
「ギルド規約、第十二条。依頼の放棄および敵前逃亡。同じく第二十条、他パーティーへの虚偽の申告による手柄の横取りおよび恐喝未遂」
俺は、前世で下請け法違反の元請けを追い詰めた時と同じ、冷酷無比なロジックで彼らの罪状を並べ立てた。
「これだけ証拠が揃っていれば、お前らの冒険者ライセンスは『永久剥奪(一発レッド)』だ。さらに、ポポロ村の復興費用および、俺たちへの業務妨害に対する莫大な違約金が請求されることになる」
「い、いや! ま、待ってくれ! 違約金なんて払えるわけねえ! 俺たち、酒とギャンブルで貯金なんか一銭も……!」
リーダーの男が泣き叫び、その場に崩れ落ちて土下座をした。
数時間前まで、俺たちをEランクだと見下し、手柄を奪おうとしていた傲慢な態度は見る影もない。
「払えない? 安心しろよ、いい斡旋先を知ってるぜ」
俺はニッコリと、これ以上ないほどの『悪党の笑顔』を浮かべた。
「シーラン国の『マグローザ漁船』だ。あそこなら、前借りした違約金を、一生タダ働き(強制労働)で返済できる最高の福利厚生が整ってるからな。船内通貨はケツ拭きのKらしいぞ」
「ヒィィィィッ!? マ、マグローザだけは! マグローザだけは勘弁してくれぇぇッ!」
「お引き取りください。……駐在員さん、こいつらの連行(出荷手続き)、お願いできますか?」
「ええ、承知いたしました。王都のギルド本部に連絡し、厳格に処罰を下します」
駐在員と村の自警団に取り押さえられ、絶望の叫びを上げながら引きずられていく『赤き牙』の男たち。
物理的な暴力(流血)を一切使わず、法律と証拠という最強の武器で、現場を荒らすクレーマーを完全に社会から抹殺した瞬間だった。
「……すっげえ。剣も魔法も使ってないのに、トリスが一番怖ぇよ……」
「マグローザ漁船……明日は我が身でしたの……」
ユートとリーザが、ガクガクと震えながら俺を畏怖の目で見つめている。
キャルルだけは「ふふっ、トリス君のそういう容赦ないところ、本当にゾクゾクする」と頬を押さえて身悶えしていた。
「おい、お前ら。仕事は全部終わったぞ。さっさと荷車に素材を積め」
俺はパンパンと手を叩き、呆然としている三人に指示を飛ばした。
太陽が西の空へと傾き、ポポロ村を美しい黄金色に染め上げている。
「王都へ帰るぞ。俺たちの『マイホーム』にな」
俺の言葉に、三人の顔にパァッと明るい笑顔が戻った。
「はいっ! 帰りましょう、俺たちの家に!」
「今日の晩ご飯は、最高級の肉椎茸のフルコースですのぉぉっ!」
「トリス君、帰りの馬車では隣に座るからね。絶対だからね」
莫大な報酬と、極上の建築素材、そして村人たちからの心からの感謝。
全てを完璧に回収し、俺たち『ホープ・クローバー』の波乱に満ちた慰安旅行は、最高の成果と共に幕を閉じたのであった。
読んでいただきありがとうございます。
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