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EP 5

 作戦会議ブリーフィング。『俺はお前たちを信頼している』

 ズドォォォォォンッ!!

 俺が瞬時に錬成した『超巨大・魔導防熱ウォール』の向こう側から、強烈な地響きと衝撃音が連続して伝わってくる。

 先制の火炎ブレスを防がれたことに激怒した暴走地竜(ジオ・リザード変異体)が、俺の壁に向かってその巨大な頭部をガンガンと打ち付け、物理的な体当たり(破城槌)を仕掛けてきているのだ。

「ヒィィッ! か、壁にヒビが……!」

 ユートが悲鳴を上げる。

 厚さ三メートルの魔導防壁とはいえ、相手は質量数十トンの規格外モンスターだ。脳内CADの耐用年数シミュレーションでは、完全にぶち抜かれるまで、およそ『三十秒』というところか。

「トリス君、あいつデカいだけじゃなくて、鱗の隙間からすっごい濃密な魔力を噴き出してるよ。私の蹴りでも、簡単には砕けないかもしれない」

 キャルルがウサギ耳を伏せ、冷静に敵のスペック(建材の硬度)を分析する。

 彼女の言う通りだ。暴走地竜の表面は、単なる爬虫類の硬い鱗ではない。高密度な魔力コーティングが施された、いわば『天然の複合装甲コンポジット・アーマー』だ。

 タローマンの鉄剣はおろか、エルフの業物ですら、刃が通る前に折れるだろう。

「……焦るな。どんな強固な要塞にも、必ず『構造的弱点』はある」

 俺は冷静に言い放ち、三人を俺の元へ集めた。

 足元の平らな地面に、鞘から抜いた刀の柄尻を使って、たった三秒で簡潔な『図面フォーメーション』を描き出す。

「いいか、よく聞け。これから三十秒で、緊急の作戦会議ブリーフィングを行う」

 俺は地面の図面を指差した。

「相手は規格外の巨大重機バケモノだ。正面からぶつかれば、うちのクランの基礎いのちは一瞬で倒壊する。だから、真っ向勝負はしない。俺たちの『強み』を完全に連携させて、奴をシステムとして機能不全デリートに追い込む」

 俺はまず、リーザの顔を真っ直ぐに見た。

「リーザ。お前は俺が作ったステージの上に立ち、全力で歌え。ターゲットは暴走地竜一匹だ。奴の強固な装甲は『魔力』によって強化されている。お前のユニークスキル【貧乏神】の吸引力で、奴の魔力コーティング(バフ)を根こそぎ剥ぎ取れ」

「わかりましたの! あんなデカいトカゲの全財産(魔力)、全部私が吸い尽くしてスッカラカンにしてやりますの!」

 次に、キャルル。

「キャルル。お前は『ドリル』だ。リーザの歌でデバフがかかり、装甲が脆くなった瞬間を狙って、奴の『関節ジョイント』――つまり、脚の付け根や首の付け根にピンポイントで蹴りを叩き込め。巨体を支える支点を砕けば、奴は自重で崩れる」

「オッケー♡ トリス君の言う通り、一番痛いところを正確に砕いてあげるね」

 そして最後。

 俺は、タローマン製の鉄盾を震える両手で握りしめているユートの肩を、ガシリと強く掴んだ。

「ユート。お前のタスク(役割)が一番重要だ。お前は『盾』であり、そして最後の『切りフィニッシャー』だ」

「俺が……フィニッシャー……?」

「そうだ。あのバケモノを完全に解体するには、お前の【ブレイブ】による限界突破の雷撃が絶対に必要だ。だが、今はまだ『民衆の支持(歓声)』が足りない。だから、俺がチャンスを作るその瞬間まで、お前はリーザの前に立ち、どんな攻撃が来てもアイドルを『守り抜け』」

 俺の言葉に、ユートはハッと息を呑んだ。

「俺が作った防壁が破られれば、村人たちは再び死の恐怖に直面する。そこで、お前が体を張ってアイドルと村人を守るんだ。そうすれば、必ず『応援バフ』は爆発する」

 俺は、欠陥だらけの三人の顔を順番に見回した。

 借金に怯えていた、ポンコツ勇者。

 パンの耳をかじっていた、極貧アイドル。

 誰とも群れようとしなかった、ヤンデレ姫。

 社会の規格に合わず、ゴミ(不良建材)として弾かれていた彼ら。

 だが、俺の目から見れば、こいつらは最高に面白くて、最高に強力な『光る素材』だ。

 俺が完璧な設計図インフラを引き、適切に配置してやれば、どんな不可能(クソ物件)だってひっくり返せる。

「……お前らなら、絶対にできる」

 俺は、前世で最も信頼していた部下たちに向けていたのと同じ、真っ直ぐな視線で彼らに言った。

「俺はお前たちのスペックを、心から信頼している。俺はお前たちの『足場インフラ』だ。俺が必ず最高の立ち回り(ディレクション)をしてやるから……お前らは、俺の設計を信じて、思いっきり暴れてこい」

 ピタッ、と。

 ドーム内に響いていた地竜の打撃音が、三人の耳から消え去ったかのような静寂が訪れた。

「…………トリス様」

「トリス君……」

「トリス……!」

 三人の瞳から、恐怖や迷いが完全に払拭されていた。

 誰からも「使えない」「危険だ」と見放されてきた彼らが、人生で初めて、全幅の信頼を預けてくれる『上司(現場監督)』に出会ったのだ。

 その承認欲求が満たされた時の爆発力は、どんな魔法バフよりも強力な『心の鉄筋』となる。

「やりますの! トリス様のためなら、この声が枯れるまで歌い続けますのぉぉっ!」

「フフッ、任せて。トリス君の引いた図面通りに、一ミリの狂いもなく粉砕してあげる」

「俺……借金返すためじゃねえ! トリスと、みんなを守るために盾になるッ!」

 全員の闘気モチベーションが、臨界点に達した。

 俺は満足げに頷き、立ち上がった。

 メキィィィィッ!!

 まさにその時、俺の錬成した魔導防熱ウォールの中心に巨大な亀裂が入り、限界を超えた岩盤が崩壊を始めた。

「時間だ。――さあ、作業開始ごあんぜんに!!」

 ドガァァァァァァァァンッ!!!

 防壁が粉々に吹き飛び、土煙と共に暴走地竜がその凶悪な全貌を俺たちの前に現した。

『ギュルアァァァァァァァッ!!』

 俺たちという『障害物』を視認した地竜が、大地を揺るがして猛突進してくる。

 その質量は、まさに暴走するダンプカーだ。

「よし、まずは俺の仕事タスクだ。……地形操作テラフォーミング、開始!」

 俺は両手を地面に叩きつけ、【建築工房】の演算をフル回転させた。

 正面から受け止める必要はない。相手の進路を限定し、俺たちの土俵キルゾーンへと強制的に引きずり込むのだ。

 ズゴゴゴゴォォォォッ!!

 地竜の足元の岩盤を斜めに傾起させ、天然の『バンク(傾斜)』を形成する。

 突進のエネルギーを逆手に取り、地竜の巨体は強制的にバランスを崩しながら、俺が用意したすり鉢状の『特設ライブステージ』の中心へと滑り落ちていく。

『グガッ!? ガァァッ……!?』

「ナイス誘導ですの、トリス様! ――さあ、開演ショータイムですわよォォッ!」

 地竜が滑り落ちた先、一段高いステージの上で、マイクスタンドを握りしめたリーザがポーズを決めていた。

「私の特等席アリーナへようこそ! お前なんかに払うお賽銭はありませんの! 私の歌で、すっからかんにしてやりますのぉぉっ!」

『インフル・バスター ~お薬の時間よ~』

『ガンガンガン! アタマガガン!』

『インフルエンザ大魔王ウィルスやっつけろ!』

 リーザのハイテンションな歌声デバフが、ステージの音響効果で増幅され、暴走地竜の巨体に叩きつけられた。

 背後に浮かび上がる超巨大なお賽銭箱型掃除機(貧乏神)が、猛烈な吸引力を発揮する。

『ギュオオオオオォォォッ!?』

 地竜が苦悶の咆哮を上げる。

 その硬質な鱗の表面を覆っていた高密度の魔力コーティングが、まるで強風に吹き飛ばされる砂塵のように、ボロリ、ボロリと剥がれ落ちていく。

「効いてるぞ! 装甲の魔力値が急速に低下ダウンしている!」

 俺がコントロールブースから叫ぶ。

「オッケー♡ それじゃあ、内装解体リフォームの始まりだよ!」

 デバフによって地竜の動きが鈍った瞬間。

 ステージの袖から、キャルルが弾丸のように飛び出した。

「月影流――『破衝撃』ッ!」

 彼女の特注安全靴に凄まじい闘気が集束する。

 狙うは、地竜の左前脚の付け根(関節のジョイント部分)。魔力コーティングが剥がれ、ただの硬い鱗と化したその一点に、一万ジュールを超える質量と速度が完璧な角度で叩き込まれた。

 バキィィィィィィィィィィンッ!!!

『ギャアアアアアアアアアアアアッ!?』

 鈍い骨の砕ける音が響き、暴走地竜の左前脚が完全にへし折れた。

 巨体を支える一本の柱を失い、地竜はズシャァァァッと不様な姿勢で大地に倒れ込む。

「す……すげえ! あんなバケモノ相手に、俺たちの作戦が完全に通用してる!」

 ユートが鉄の盾を構えながら、興奮に震える声を上げた。

 防弾ガラスの向こう側で避難している村人たちも、信じられない光景に目を白黒させながら、次第に「いけるんじゃないか……?」という希望の光を取り戻し始めている。

「油断するな、ユート! 次はお前の出番が来るぞ!」

 俺の警告と同時。

 左前脚を砕かれたことで、地竜の『野生の生存本能ブチギレ』が完全にリミットを振り切った。

『グルォォォォォォォォォォォッ!!!』

 地竜の背中にある突起から、シュゥゥゥッと不気味な高熱の蒸気が噴出する。

 奴は倒れ込んだ姿勢のまま、その凶悪な顎を大きく開き――歌い続けるリーザに向けて、再びあの『致死の火炎ブレス』のチャージを開始したのだ。

「ヒィッ……!? こっち見てますのぉぉっ!」

「リーザ! 歌をやめるな!」

「う、歌いますのぉぉぉっ!!」

 極限の恐怖に涙目になりながらも、リーザは俺の指示(設計)を信じ、マイクを握りしめてデバフの歌を紡ぎ続ける。

 そして。

 地竜の喉の奥で極限まで圧縮された熱線が、ステージ上のアイドル目掛けて放たれようとした、その瞬間。

「俺の仕事タスクだァァァァァッ!!」

 タローマン製のボロボロの鉄盾を構えた勇者ユートが、リーザの前に立ちはだかり、その小さな背中で火炎ブレスの射線を完全に塞いだのだった。

読んでいただきありがとうございます。

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