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EP 4

 イレギュラー発生。大地を割る『暴走地竜』と、現場監督の矜持

ズズズズズズズッ……!!

ポポロ村の豊かな土壌が、まるで薄い布でも引き裂かれるかのように、無残に真っ二つに割れていく。

地割れの中から噴き出したのは、大量の土砂と、むせ返るような硫黄の臭い。

そして――鼓膜を物理的に破壊せんばかりの、鼓動にも似た強烈な『咆哮』だった。

『ギュオオオオオオオオオオオッ!!』

「な……なんだ、ありゃあ……ッ!?」

ユートがタローマン製の鉄盾を構えながら、絶望的な声を上げる。

舞い上がる土煙を切り裂いて姿を現したのは、全長二十メートルを優に超える巨大な爬虫類のバケモノだった。

四つん這いの強靭な四肢、岩盤のように分厚く硬質な鱗、そして背中から吹き出す高熱の蒸気。

「……『ジオ・リザード』か。だが、本来は騎乗用や競馬に使われる賢くて大人しい種族のはずだ。あんな規格外のサイズ(違法建築)、図鑑にも載ってないぞ」

俺の脳内CADが、瞬時に巨大魔獣の構造をスキャンし、警告音レッドアラートを鳴らし続ける。

地脈の乱れか、あるいは地下の特殊な魔力溜まりで突然変異を起こした『暴走変異体』。

通常の生態系から完全に逸脱した、正真正銘の災害イレギュラーだ。

「ヒィィィッ!? なんだあのバケモノは!」

「お、俺のキャリアが……いや、キャリアどころか命が終わるッ! 逃げろォォォッ!!」

突如として現れた圧倒的な死の気配に、先ほどまで『折れたス』の精神攻撃(お祈りメール)によって虚無の廃人と化していた『赤き牙』のベテラン冒険者たちが、ショック療法で正気を取り戻した。

だが、彼らはCランクの誇りもギルドの規律も全て投げ捨て、武器すら構えずに蜘蛛の子を散らすように逃亡を図った。

「あいつら、自分から現場を荒らしに来たくせに、トラブルが起きたら真っ先に逃げ出すのかよ……。最低の元請け業者ですの!」

「クソッ、王都のエリート冒険者って聞いてたのに! 俺たちEランクはどうすりゃいいんだよ!」

リーザが憤慨し、ユートが歯の根を合わさずガチガチと震えている。

『ギュルルルルル……ッ!』

暴走地竜ジオ・リザードが、巨大な顎を開いた。

その喉の奥で、チカチカと不吉な赤黒い光が圧縮されていく。

炎だ。それも、ただの炎ではない。極限まで圧縮された高熱のブレス(熱線)の予備動作。

その銃口ターゲットが向けられているのは、俺たちではない。

少し離れた場所――先ほどメロロンの洗脳から解放され、涙を流して家族と抱き合っていた農家のオッサンたちや、収穫祭の準備を進めていた村人たちの集まる『広場』だった。

「ひぃぃぃっ!」

「お父ちゃん、逃げて!」

村人たちがパニックに陥り、逃げ惑う。だが、あのブレスが放たれれば、逃げ足など無意味だ。広場ごと、村人たちは一瞬で消し炭にされる。

「トリス君! あいつ、村の方にブレスを撃つ気だよ! 私ならトリス君を抱えて一瞬で安全圏まで逃げられるけど、どうする!?」

キャルルが安全靴の踵を鳴らし、ウサギ耳を伏せながら俺に決断を迫る。

彼女の提案は、極めて『合理的』だ。

俺たちの受けた依頼は「メロロンとずっ友ロコシの収穫・護衛」であり、「突然変異した巨大地竜の討伐」は完全に契約外(スコープ外)。

Eランクの俺たちが、Cランクの冒険者すら逃げ出すバケモノに立ち向かう義理も、義務もない。違約金も発生しない。撤退こそが、最もコストの低い最適解だ。

――だが。

「…………」

俺の脳裏に、前世での忌まわしい記憶がフラッシュバックする。

徹夜で書き上げた図面。職人たちと汗水流して組み上げた現場。

それを、理不尽なクレーマー施主や、無責任な元請けの鶴の一声で、何の未練もなく『解体(更地)』にされた時の、あの腸が煮えくり返るような屈辱と無力感。

俺は、タローマンジャージのポケットから手を抜き、ギリッと奥歯を噛み締めた。

「……ふざけんな。俺たちが今さっき、トラブルを解決して綺麗に整えたばかりの『現場』だぞ」

俺の低い声に、ユートとリーザ、キャルルがビクッと肩を揺らした。

「引き渡し直後のクライアントの家を、どこの馬の骨とも知れねえブルドーザー(魔獣)に勝手に解体されてたまるか。一級建築士プロの誇りにかけて、そんな労働災害クソッタレなじたい、絶対に承認できねえ」

俺は腰の魔法ポーチから、ストックしておいた大量の『魔石』と『鉄骨(アイアン・ボアの骨)』を鷲掴みにし、大地に叩きつけた。

「逃げない。この現場は、俺たちが守り抜く」

俺のその絶対的な『現場監督としての矜持オーラ』に触れ、震えていた三人の表情が、一瞬にして劇的に変化した。

「……っ! ですよね! せっかくトリスのおかげで家族が元通りになったのに、あのバケモノに燃やされるなんて間違ってる! 俺、やります!」

ユートが、タローマン製の鉄盾を強く握り直し、恐怖をねじ伏せて前に出た。

「私もですの! あんなに美味しいお塩のトウモロコシ畑を焼くなんて、絶対に許しませんの!」

リーザがマイク代わりのメガホンを構え、瞳に強欲と正義感の炎を燃やす。

「あははっ! やっぱりトリス君はそうこなくちゃ! 私、トリス君のそういう頑固で男らしいところ、だーいすき♡」

キャルルがウサギ耳をピンと立て、ヤンデレ特有の重い愛を乗せた殺意を地竜へと向ける。

契約外? 危険度オーバー?

そんなものは関係ない。俺たち『ホープ・クローバー』は、理不尽な倒壊バッドエンドを許さない、最強の施工業者なのだから。

「――【建築工房】フル・アクティベート! インスタント・ビルド(瞬間構築)!!」

俺の百馬力の魔力が、叩きつけた魔石と鉄骨を媒介にして大地へと流し込まれる。

暴走地竜の喉の奥から、超高熱の火炎ブレスが村の広場へ向けて一直線に放たれた、まさにそのコンマ一秒後。

ズドゴゴゴゴゴォォォォォォォッ!!!

村の広場と地竜の射線の間に、分厚い岩盤と鉄骨のトラス構造で補強された、高さ十五メートル、厚さ三メートルに及ぶ『超巨大・魔導防熱ウォール』が瞬時にそびえ立った。

ドガァァァァァァァァァァンッ!!!

地竜の放った致死の熱線が、防熱ウォールに直撃する。

凄まじい爆発と衝撃波がポポロ村を揺るがすが、俺の計算し尽くした傾斜角と耐熱コーティングによって、炎のエネルギーは壁を突き破ることなく、全て上空へと綺麗に受け流されていった。

「な……なんだ、あの巨大な壁は!?」

「炎が、防がれた……!?」

広場で死を覚悟していた村人たちが、突如出現した壁を見上げて呆然としている。

俺は通信インカムのスイッチを入れ、クランのメンバー全員に、冷徹で力強い『着工の合図』を飛ばした。

「よし、安全第一でいくぞお前ら! これより、暴走地竜の『緊急解体工事』を開始する!!」

読んでいただきありがとうございます。

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